そして兄は猫になる

Ete

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火葬場はつらいよ

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火葬場に到着。
兄のお棺は一つ目の部屋に安置された。
係員が一礼して、顔だけが見えるように蓋を開ける。

次にこの蓋を閉じたら もう2度と、人の姿の兄には会えない。
お経の中、次々に焼香が行われた。
みんな、顔を触ったりしながら 涙ながらにさよならを告げた。

そんな時に入り口が開く。
兄の幼なじみが2人 普段着で入って来た。
私もよく知っている、世間知らずの自己中な人たちだ。
もちろん 親戚でも何でもない。

『自分たちは弟分だから、一緒に見送りたい』と。
「は?」何言ってんの?

気持ちは分かるけど 時と場合を考えてよ!
ここは火葬場で 本当の身内しか入っていない!
(しかも親戚が多かったので狭い部屋にぎゅうぎゅう状態)
今から何が始まるのか分かってるの?お骨を拾うんだよ⁉︎
来るなら葬儀に来いっつうの‼︎
もう!常識はずれにもほどがある💢

と、
怒鳴りたかったが流石に場所が場所である。

「まぁよう来てくれたね」
あっさり母が受け入れてしまった。
こんな時にだけいい顔をする母。私はすごく嫌いだ。
多分私はすごい顔をして睨んでいたと思う。
全てが台無しになった気分だった。
心が狭過ぎると言われても結構。
どう考えたって相手のする事が間違っている。


怒鳴ればよかった…。


「お別れでございます!」

係員の声が響き、蓋が閉められた。
これで本当に最後だ。
義姉が「嫌だ!行っちゃ嫌だ」と泣きじゃくる。

係員が二つ目のドアを開く。
ガラスで出来た壁の向こうに もう一つ 小さな自動ドアが見える。

「喪主様 ご一緒にどうぞ。皆様はそちらでお待ちください」
兄のお棺を移動させながら、係員は喪主である父を誘導する。
私たちはガラスの壁の前に残された。

自動ドアが開き、兄のお棺はスーッと中に入って行き、ドアが閉まる。
もうお棺さえ見えない。

「只今より、喪主様のお手により、炉に火を入れていただきます。皆様合掌をお願いいたします」と係員が説明をした時だった。

急に義姉が取り乱し
「嫌ぁああ‼︎やめて!押さないで!何で押しちゃうの⁉︎父さま!やめて!押さないでぇえええ‼︎」と叫び出した。
慌てて私と夫で体を支える。

父は…躊躇したのか?
それとも押すぞ?と合図を送ったのか。
一度私たちの方をジッと見てから向き直り 右手はボタンに近づいた。

「嫌ぁああ!見ない!見ない!ヤダヤダ!」

義姉は泣きながら くるりと後ろの壁に背を向けてしまった。
私は前に向き直らせ
「ちゃんと見ておかないと!これが最後だよ!」
と肩を掴んで離さなかった。
義姉の泣き叫ぶ姿が何とも痛ましい。

「お別れでございます!」

係員がもう一度 さらに大きな声で叫ぶ。
父はボタンを押した。

火葬が始まったランプがつき、自動ドアの前には 兄の遺影が置かれた。
義姉はその場に泣き崩れ、座り込んでしまった。
私がした事は、間違っていたかな…。
嫌な記憶だけを植え付けちゃったかなぁ…。
自問自答しながら、夫と共に義姉を立たせ、脇を支えながら待合所に移動した。


お骨拾いが始まるまでの間 私たちは待合所でお昼ご飯を食べる事になった。
お弁当は事前に注文済み…
だったが、突然2人乱入したことによって2個足りない‼︎

「私のあげるよ」
「私のも食べて」

母と義姉が差し出す。
母はともかく、義姉はほとんど食べ物を口にしていない。
全く奴らと来たら!こんな迷惑 考えてもいなかっただろう。

みんなにお茶を入れながら 1人ブツブツ文句を言う私に 叔母がやって来て
「私らも同じ気持ちだよ」とこっそり耳打ちしてくれた。
おかげで少し気持ちが楽になった。

お昼を食べ終え みんながゆっくりしていると、別の部屋に移動するよう館内アナウンスが流れた。
火葬が終わり、収骨の準備ができたようだ。

みんなで指定された部屋に行く。
ドアを開けると、1人の係員と 傍らの台上に、白い骨だけになった兄の姿があった。
ああ…もう姿って言えないか…。

こんな時に私は、小学校の理科室にあった人体模型を思い出していた。
半分筋肉で半分骨の模型。
バチ当たりと言われそうだが『でもやっぱ あれとはちょっと 違うよね?』
なんて考えながら。

まだ冷めきっておらず、台の上が熱い。
係員から残った骨についての説明がある。

こちらが頭部で、次に喉仏で…

「これが喉仏ですね?ほうほう…」
喉仏の場面で母が異常に反応する。

母は昔から葬儀に行くたび「喉仏が残っててな」「あの人は無かったわ」と自慢げに話していたのを覚えている。
それが何の得になるのか…。

喉仏=形が座禅を組んでいる仏様(お釈迦様)に似ているため、その形から「体に宿る仏様」と考えられ、大切に扱われてきた と言うのがいい習わしのようだ。
だから残っていると嬉しい?ようだ。
全く…そこかよ。

「これからお骨を拾っていただきます。初めは喪主様、その後に2人1組になっていただき、こちらのお骨入れに納めていただきます」

出た!
あのウン万円の青い骨壺!
ここでついに登場‼︎
係員の手によって中央の机にデン!と置かれた。
流石に高いだけあって、存在感がある…。

父は足の方から順番に 大きな骨を何本か拾い上げ、みんながそれに続く。
特製の長い箸で骨を持った時、あんなに身体の大きかった兄の骨は、風で飛ばされそうなぐらい軽く、とても脆かった。

何度か回っているうちに、頭部と喉仏 骨片と骨粉だけが残った。
係員は手際良く集めて骨壺に入れていく。
それでも入りきらない骨もあった。
最後に頭部の骨を一番上に置き、父が蓋をする。
の瞬間に「お別れでございます」
とまた係員が声をかける。
…これ、今日何度聴いたかな…。

「残りのお骨は、こちらで収骨後、それなりの対応をさせて頂くことになりますがよろしいですか?」
係員が言った時だった。

「ちょっと待ってください!」

義姉が叫び、何やらカバンをゴソゴソしている。
何やってんだ⁈

「これに残りを全部入れてください!」

義姉はアロハシャツで作った大きな巾着袋を取り出した。
どうやら兄の服で縫ったらしい。
と言うか、いつに間にこれ準備した⁈
そんな暇あった???

「友達に話をしてたらアロハで縫ってくれたの」
なるほど。
その友達作るの早っ!

さすがの係員もちょっと引き気味…。
骨が溢れるんじゃないかと思ったのかな。
「分かりました」
と冷静に大人の対応。
そりゃ色んな家族がいるんだろうから。

義姉と係員は塵取りのようなもので、残りの骨をかき集め始めた。
義姉は生き生きしてるように見えるが気のせいか?
まるで子どものおままごとを見ているようだ。
その時間…とても長い‼︎
全員沈黙の中で見守る。
正直 口ポカン…。

「その袋どうしたの?」
一応聞いてみる。

「本当はこれに骨壺を入れて帰ってあげようと思ったんだ。でも今の話聞いたら、骨をみんな持って帰ってあげたくて。この袋ちょうど役に立った!」
…骨粉…隙間から落ちるへん…?


義姉が嬉しそうだから良しとするか。

係員さん 付き合わせてどうもすみません(汗)

台の上からほとんどの骨が拾われた。
お兄 愛されてるなぁ。
義姉は満足そうだった。

火葬が終わり、行きとは道を変えて一路実家へ。
同じ道を通ると この世とあの世を行ったり来たりして故人が成仏できないと言われているからだ。

あの世へは一本道なんだなぁ。
ナビとか案内板とか案内人とか…無いんだろうか。
…無いわなぁ。







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