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思い出の樹の下で その1
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我が家の玄関先には、とても大きな八重桜の木があった。
母に聞くと、兄が小学校に入った時に植えた、いわゆる記念樹だったそうだ。
ちなみに私のは無い。
母は枯れたんだとか言うけど、私の記憶の中にそんな樹は存在しない。
大人のつまらない嘘。
兄は長男。
両親の間に一番初めに生まれた子。
色んな意味で期待とか嬉しさとかあったんだと思う。
2番目ともなると「ああ~やっと小学校だ」ぐらいで、手が離れたことの方が嬉しくて、記念樹なんて考えもしなかったんじゃないかな。
この桜、毎年春になると 濃いピンク色の綺麗な花をたくさん咲かせていた。
青空に映えて、眺めていると心も和む。
樹が大きくなると、国道からも見えて その姿が何ともいい!
私も大好きな樹だった。
元々は古い家の庭にあったのだが、私が出戻りした際に、この場所に家を新築した。
玄関に桜。
見栄えも良くて私はとても好きだったけど、桜にとっては狭かったのだろう。
どんどん どんどん大きくなって、すご~く立派になり過ぎちゃって。
枝も伸びて、我が家が成長を邪魔してるんじゃないかと、何だか申し訳なく思っていた。
兄が亡くなってからのこと。
台風か何かで一箇所 枝が折れかけていた。
それでも翌年 その枝も何とか花をつけて、見事に咲いた。
ある日、仕事から帰ってみると、その枝がない。
危ないからと父が切り落としてしまったのだ。
危ないと言っても、人に当たるような場所ではなかった。
私のものではないけれど、せめて一言相談してくれてもよかったのに。
切られた場所をみて、桜が可哀想で 私はとてもがっかりした。
それからと言うもの、その切られた場所から樹は徐々に弱っていき、虫も入ったのか?幹の途中にぽっかりと穴が開き出した。
風が吹くと枝が揺れて、途中からボキッと折れるのではないかと心配でたまらなかった。
兄がいなくなって6年目の春のこと。
桜はこのまま放置するのは難しい状態になっていた。
家の下近くにはJRが走っていて、樹が大きいだけに倒れたりすると、迷惑をかける可能性もある。
しかし、家の2階まで高く大きく育った樹を切るのは、そう簡単ではなかったのだ。
家族だけでは到底無理。
慣れた人でも、下に落ちないように安全に切り倒すのは難しいだろう。
我が家も邪魔をしているし、何より人を頼めばお金がかかる。
切った後の処理にも困る。
花は小さな蕾をつけていた。
どうしたらいいのか本当に困った。
樹は切りたくない。
だけど切らないと危ない。
でもお金もない。
八方塞がりだった。
そんなある日のこと。
家に電力会社の人がやって来た。
電線が古くなっており、新しいものに交換する時期が来ているため工事が必要で、各家庭の調査に回っていますとのこと。
家に入る事はなく、外の電線だけを交換します…と言うお話だった。
会社の名前も知ってるし、怪しい話ではなさそう。
しかし、我が家の場合「ちょっと問題がありまして…」と言いにくそうに話される。
「ちょうど交換予定の電線が、家のすぐ横を通って 桜の木の間を通っているんです」
一緒に出てみると、なるほど、木の間に電線が通っている。
樹も大きいし、いつも花ばかり見ていたので全く気が付かなかった。
「この桜の木を避けながら工事するのには、斜面でもあり、線路もあるためJRの許可も必要ですし、ちょっと難しくてですね…」
「桜を切る…って事ですか?」と聞いてみる。
「出来ればそれが一番いいんですが…無理にとは言いません。他に方法がないかは考えてみますが」
その時私かおらず、どうしたらいいのか考える。
相手の言う事もよく分かる。
何よりJRの許可がいるって事は、かなり大掛かりだと言う事も察知できた。
「樹を切るとしたら…その…どのように…?」
恐る恐る聞いてみる。
「電線にかかっている部分を切るしかないですね。あの辺から」と指差す先は、今の樹を約半分は切らなくてはいけない範囲。
そんな事したら、桜は絶対ダメになる。
でも今のままでもいつかは切らなくてはダメなのも分かっている。
すごくすごく考えて、
「切ります!」私は思い切って返事した。
「こちらは助かりますが、大丈夫ですか?」優しく気を遣ってくださる。
「切るとしたら、下から全部切ります。中途半端では樹も枯れてしまうと思うし、今でもいい状況ではないので。ただ人もお金もかかる事ですし、すぐには対応できないのですがそれでもいいですか?」全て正直に話す。
「もしも切らせて頂けるのならば、かかる費用は全額負担させていただきます。人員やJR関係も全部対応しますので」
って、なんですとぉおおおお⁉︎
「こちらが無理を言うわけですから。安心してください」
こ…こんな出来すぎた話ってあるのだろうか?
でも待て!
この樹は実際は両親のもの。私の一存で決めてしまっていいのか?
「ちょっと家族にも相談させてください」
母に相談する。
「仕方ないわ。あんたのいいようにしなさい」
いともあっさり承諾!
「切るとしたらいつ頃ですか?今ちょうど蕾をつけていて。出来れば花が終わってからがありがたいんですが…」と聞いてみる。
「まだまだ先です。他も調査中なので、全部書類が通ってからになります。早くても冬ぐらいになるんじゃないかと思いますよ」
じゃあ今年は花が見れるってこと⁉︎
「よろしくお願いします!」
今度は迷わず返事した。
切る前にもう一度連絡しますと言ってその人は帰って行った。
迷っていたことが、あっという間に解決してしまった。
何というラッキー。
何というタイミング。
こんな事ってあるんだ⁉︎
こうして八重桜の花が観れるのは、今年が最後と言うことが決まった。
母に聞くと、兄が小学校に入った時に植えた、いわゆる記念樹だったそうだ。
ちなみに私のは無い。
母は枯れたんだとか言うけど、私の記憶の中にそんな樹は存在しない。
大人のつまらない嘘。
兄は長男。
両親の間に一番初めに生まれた子。
色んな意味で期待とか嬉しさとかあったんだと思う。
2番目ともなると「ああ~やっと小学校だ」ぐらいで、手が離れたことの方が嬉しくて、記念樹なんて考えもしなかったんじゃないかな。
この桜、毎年春になると 濃いピンク色の綺麗な花をたくさん咲かせていた。
青空に映えて、眺めていると心も和む。
樹が大きくなると、国道からも見えて その姿が何ともいい!
私も大好きな樹だった。
元々は古い家の庭にあったのだが、私が出戻りした際に、この場所に家を新築した。
玄関に桜。
見栄えも良くて私はとても好きだったけど、桜にとっては狭かったのだろう。
どんどん どんどん大きくなって、すご~く立派になり過ぎちゃって。
枝も伸びて、我が家が成長を邪魔してるんじゃないかと、何だか申し訳なく思っていた。
兄が亡くなってからのこと。
台風か何かで一箇所 枝が折れかけていた。
それでも翌年 その枝も何とか花をつけて、見事に咲いた。
ある日、仕事から帰ってみると、その枝がない。
危ないからと父が切り落としてしまったのだ。
危ないと言っても、人に当たるような場所ではなかった。
私のものではないけれど、せめて一言相談してくれてもよかったのに。
切られた場所をみて、桜が可哀想で 私はとてもがっかりした。
それからと言うもの、その切られた場所から樹は徐々に弱っていき、虫も入ったのか?幹の途中にぽっかりと穴が開き出した。
風が吹くと枝が揺れて、途中からボキッと折れるのではないかと心配でたまらなかった。
兄がいなくなって6年目の春のこと。
桜はこのまま放置するのは難しい状態になっていた。
家の下近くにはJRが走っていて、樹が大きいだけに倒れたりすると、迷惑をかける可能性もある。
しかし、家の2階まで高く大きく育った樹を切るのは、そう簡単ではなかったのだ。
家族だけでは到底無理。
慣れた人でも、下に落ちないように安全に切り倒すのは難しいだろう。
我が家も邪魔をしているし、何より人を頼めばお金がかかる。
切った後の処理にも困る。
花は小さな蕾をつけていた。
どうしたらいいのか本当に困った。
樹は切りたくない。
だけど切らないと危ない。
でもお金もない。
八方塞がりだった。
そんなある日のこと。
家に電力会社の人がやって来た。
電線が古くなっており、新しいものに交換する時期が来ているため工事が必要で、各家庭の調査に回っていますとのこと。
家に入る事はなく、外の電線だけを交換します…と言うお話だった。
会社の名前も知ってるし、怪しい話ではなさそう。
しかし、我が家の場合「ちょっと問題がありまして…」と言いにくそうに話される。
「ちょうど交換予定の電線が、家のすぐ横を通って 桜の木の間を通っているんです」
一緒に出てみると、なるほど、木の間に電線が通っている。
樹も大きいし、いつも花ばかり見ていたので全く気が付かなかった。
「この桜の木を避けながら工事するのには、斜面でもあり、線路もあるためJRの許可も必要ですし、ちょっと難しくてですね…」
「桜を切る…って事ですか?」と聞いてみる。
「出来ればそれが一番いいんですが…無理にとは言いません。他に方法がないかは考えてみますが」
その時私かおらず、どうしたらいいのか考える。
相手の言う事もよく分かる。
何よりJRの許可がいるって事は、かなり大掛かりだと言う事も察知できた。
「樹を切るとしたら…その…どのように…?」
恐る恐る聞いてみる。
「電線にかかっている部分を切るしかないですね。あの辺から」と指差す先は、今の樹を約半分は切らなくてはいけない範囲。
そんな事したら、桜は絶対ダメになる。
でも今のままでもいつかは切らなくてはダメなのも分かっている。
すごくすごく考えて、
「切ります!」私は思い切って返事した。
「こちらは助かりますが、大丈夫ですか?」優しく気を遣ってくださる。
「切るとしたら、下から全部切ります。中途半端では樹も枯れてしまうと思うし、今でもいい状況ではないので。ただ人もお金もかかる事ですし、すぐには対応できないのですがそれでもいいですか?」全て正直に話す。
「もしも切らせて頂けるのならば、かかる費用は全額負担させていただきます。人員やJR関係も全部対応しますので」
って、なんですとぉおおおお⁉︎
「こちらが無理を言うわけですから。安心してください」
こ…こんな出来すぎた話ってあるのだろうか?
でも待て!
この樹は実際は両親のもの。私の一存で決めてしまっていいのか?
「ちょっと家族にも相談させてください」
母に相談する。
「仕方ないわ。あんたのいいようにしなさい」
いともあっさり承諾!
「切るとしたらいつ頃ですか?今ちょうど蕾をつけていて。出来れば花が終わってからがありがたいんですが…」と聞いてみる。
「まだまだ先です。他も調査中なので、全部書類が通ってからになります。早くても冬ぐらいになるんじゃないかと思いますよ」
じゃあ今年は花が見れるってこと⁉︎
「よろしくお願いします!」
今度は迷わず返事した。
切る前にもう一度連絡しますと言ってその人は帰って行った。
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何というラッキー。
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