そして兄は猫になる

Ete

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思い出の木の下で その2

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長きに渡って花を咲かせた八重桜も、今年が最後の勇姿となる事が決まった。

桜の木を切る事になった経緯を 仕事から帰ってきた夫に話す。

「良かったよ。絶対自分たちでは出来ないから」
意外にあっさりしたものだった。
執着していたのは、どうやら私だけのようだ。
何だか拍子抜けしてしまった。

4月末。
八重桜は満開になった。
いつものように
濃いピンクの花をたくさん咲かせた。
もうみる事はできないからと、何枚か写真を撮っておいた。
40年もすればこんな立派な樹になるんだなぁ。
でも41年目はもう来ない。

兄はこの樹が自分の記念樹だと知っていたのかな。
うん…
関心なさそうだ。

今回の件は、本当にタイミングが良くて家計的にも助かった。
助かったけど、良すぎて少し驚いている。
これも兄のおかげなのか?


桜は花が終わって緑の葉が生い茂った。

風にそよそよ揺られて、光が当たると綺麗だった。

秋には台風に踊らされた。

11月には枯葉になって地面に落ちていった。

そしてただの老木になった。

樹には下から他の植物のツルが巻き、上の枝は折れそうなほど色も悪かった。


忘れた頃に電力会社から、準備が整ったので、12月に伐採と電線工事に入ると連絡があった。

いよいよだなぁ。

春から話が始まって、年末になってからの工事。
ここまでかなり時間がかかった。
早ければ11月でも雪が降る事があるが、この年は降らなかった。

12月の初めに工事の日が決定。
天気予報は晴れ時々曇り。
寒いけど雪もなし。
その日は休みをとって、様子を見守る事にした。

工事の人が来る前に、桜をバックに記念写真を撮ろうと両親に言った。

と言っても、花が咲いてる訳ではないし、バックは淋しい。
恥ずかしいのか なかなか並んでくれないのでイライラする。
並んでもカメラに向かわず 必ずどちらかがそっぽを向いてるので困ったもんだ。

父も自分で写真に残そうと思ったみたいでカメラを片手に持っている。
持っているだけだったが(笑)

いつもは携帯だけど、今回は記念なのでデジカメで撮ることにした。

「はいはい、撮りますよ!」
もー適当でいいや!

そう思ってシャッターを切ろうとした瞬間だった。

『ピカッ!』

画面に向かって一筋の光が入ってきた。

「わっ⁉︎」私は思わずびっくりして後退り。
「何だ?」
父が聞いてくる。
「写そうとしたら突然光が入ってきて。びっくりした!」

「何だ、早く撮れ」
何だじゃないわ💢
もー‼︎誰のせいだと思ってんの⁉︎

…何だったんだろう?

気を取り直して、撮影再開。
パシャリ パシャリ!

文句を言われながら何枚か写真を撮る。
ちょうどそこへ工事の人たちがやってきた。

伐採チームと電線工事チーム。
結構な人数で驚いた。
こんな大掛かりだったのね。
こりゃ私たちには到底無理だ。

あとは職人さんたちに任せて、私たちは離れた場所からその光景を見ていた。

家に当たらないように丁寧にシートをかけて、枝を落としていく。
高い場所から順々に。
切り株を見て意外と太かったんだなぁと感心。
電線があるためかなり慎重にされている。

半日かかって、あとは木の本体だけとなった。
職人さんから声がかかる。
「記念の木らしいが?どうせなら、何か作ったらどう?。桜なら、テーブルとか台とか、結構いいと思うよ」

なるほど。
そんな事考えもしなかった。

「じゃあ、持ち運びしやすい大きさに切り分けてもらってもいいですか?」
「いいよ」
職人さんは50センチぐらいの大きさに切り分けてくださった。
これなら管理も困らないし、置物とか椅子とか出来そうだ。

あんなに大きかった桜は、あっという間に地面ギリギリの切り株になった。
寂しさもあったが、花がついていないだけマシだった。
うん、玄関先スッキリ!サッパリ!

…やっぱり淋しい…。

八重桜よ
長いことありがとうね。
毎年花が綺麗だったよ。
緑の葉っぱも爽やかだったよ。
本当にありがとう。
ごめんね。


作業は夕方までかかって終わった。
本当に助かりましたとお礼を言った。
打ち落とされた枝は処理され、大きな幹は実家の倉庫に移動された。
後に父が皮を剥いで磨き 椅子にしていた(笑)

あの時撮った写真を見返す。

1番最初に撮った

あの光の入った時の写真 『一枚だけ』が

不思議なことに
勝手に『セピア色』になっていた。

もちろんそんな設定はしていないし
後に写した写真はほんとに普通だった。

両親と兄の思い出。
一緒に写りたかったのか?
それとも「思い出」として残したかったのか?

これもまた
兄の仕業かな…と
私は今でも思っている。









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