14 / 42
想い
しおりを挟む
告別式当日。
今日、俺は答えを出さなくてはいけない。
4日なんてあっという間だった。
俺の40年間もあっという間だった。
時間が経つのが早過ぎて、あれこれ考える余裕などなく 毎日を過ごしていたってことがよ~く分かった。
死んでからだけど。
この日、俺の告別式は 妹の考えで寺で行われることになった。
しかも音楽葬なんて、よく思いついたな。
霊柩車は黒のセンチュリー!
カッコいいじゃん?
あの煌びやかな宮式じゃなくてよかった。
あれじゃ小っ恥ずかしい。
さすが俺の妹。やるじゃないか。
俺は遺体に戻らず、その一部始終を見ておこうと思い、『魂抜け』をしておいた。
来てくれた人、葬儀の様子、家族、友達…
今日が最後だから、みんなこの眼に焼き付けておこう。
寺にはバンドの仲間が準備していた。
俺のベースギターが真ん中に置いてある。
マイクも。
俺はちょっとそこに立ってみた。
やっぱりいいなぁ。
でももう2度と、このベースを持つことは出来ない。
「アー、アー」
マイクに向かって声を出してみる。
この声も誰にも響かない。
告別式も大勢の参列者とたくさんの花に囲まれた。
俺って幸せ者だな。
出棺前に、お棺はみんなの中央に置かれ、バンドの演奏が始まった。
…泣ける…。
叶和子(かなこ)が突然走り出して、マイクの前で歌い始めた。
ああ、いい声だ。
俺はこの声にも惚れてたんだよな。
叶和子。
ありがとう。
みんなが俺の遺体の周りに、山ほどの花と、俺の好きだった三色団子をたくさん入れてくれた。
顔の周りが団子だらけって笑える。
みんなも笑っている。
いいなぁ…ほんといいなぁ…。
そこからは流れるように、さらに早く時間が過ぎた。
長い車列の到着先は火葬場。
みんなが『本当の俺』と最後の別れをする。
親より先に ここに来るとは思わなかったな。
最後のドアが開いて、お棺が入れられ、そのドアは二重に閉められた。
さよなら。
俺の身体。
情けないことに、俺はあの中でどうなっていくのかが怖くて、遺体に入ることは出来なかった。
熱いんだろうな。
抜けられて逆にありがたい。
遺体に入っていたら、一生頭に焼き付いてしまいそうだから。
「行かれなかったんですね」
優しい声で、案内人が出てきた。
「あ、あれだ。その…みんな見ておこうと思って」
怖いからなんて言えない。
「いいですよ。ご自由ですから」
俺の返事を聞きに来たわけか。
「もうちょっと待ってくれ。まだギリギリまで」
「かしこまりました。では火葬後にご自宅で。またお会いしましょう」
案内人は急かす事なく消えていった。
俺は全く考えていなかった。
どうする。
どうしたらいい?
早く考えないと。
答えが出ないまま時間が過ぎた。
次に会った俺は…白い骨になっていた。
これが俺か。
骨はあちこち脆くなって、模型のように横たわっている。
自分のこんな姿を目の当たりにしているのに、不思議と涙は出なかった。
皆んなが骨を拾っていく。
叶和子(かなこ)は、俺の骨を出来るだけ全部拾うんだと意気込んでいる。
俺のお気に入りのアロハで作った袋のような物に、骨粉まで入れていた。
ありがとうな。
骨壺は青い陶器。
これも俺の好きな色だ。
何から何まで…本当に。
感謝しかないよ…。
俺は小さな骨壺に納められ、実家へと戻った。
車についていく途中、この道もよく通ったなと思いながら。
家に着くとすぐにまた七日法事。
お経がより一層心に響く。
まるで俺の成仏の時間が迫っている事を伝えているかのようだ。
お墓に入ってしまえばそこで終わり。
さぁ!どっちを選ぶ⁉︎
答えが出せない。
焦る。
墓までの葬列が始まった。
もう時間がない!
今までの俺を思いっきり頭をフル回転させて思い返す。
もう思い残すことはないか?
眠るか転生か。
転生しても、どこの誰になるのか、幾つになるのか分からない。
一か八かの賭けにするか?
くっそーーー‼︎
あっという間に墓に着いてしまった。
めちゃくちゃ焦る!
俺の足元で 墓石の下が開けられ、いよいよ納骨の時が来た。
お坊さんが父親に、俺の骨を入れるように促している。
その時が来てしまった!
「決まりましたか?」
俺の隣に案内人が出てきた。
「どうしよう⁉︎決められないんだ!」
案内人に返事する。
俺は少々弱気になっていた。
もしかしたら案内人が、沖縄の時のように上手くやってくれそうな気がしてたかもしれない。
「これはご自分で決めてくださいね。私どもは手出し出来ません」
そうだよな…。
自分の人生は自分で決める…。
俺が親に偉そうに言ってた言葉。
今がまさにその時だ。
俺は覚悟を決め、案内人にこう告げた。
「決めた!俺は墓の中で眠る!」
今日、俺は答えを出さなくてはいけない。
4日なんてあっという間だった。
俺の40年間もあっという間だった。
時間が経つのが早過ぎて、あれこれ考える余裕などなく 毎日を過ごしていたってことがよ~く分かった。
死んでからだけど。
この日、俺の告別式は 妹の考えで寺で行われることになった。
しかも音楽葬なんて、よく思いついたな。
霊柩車は黒のセンチュリー!
カッコいいじゃん?
あの煌びやかな宮式じゃなくてよかった。
あれじゃ小っ恥ずかしい。
さすが俺の妹。やるじゃないか。
俺は遺体に戻らず、その一部始終を見ておこうと思い、『魂抜け』をしておいた。
来てくれた人、葬儀の様子、家族、友達…
今日が最後だから、みんなこの眼に焼き付けておこう。
寺にはバンドの仲間が準備していた。
俺のベースギターが真ん中に置いてある。
マイクも。
俺はちょっとそこに立ってみた。
やっぱりいいなぁ。
でももう2度と、このベースを持つことは出来ない。
「アー、アー」
マイクに向かって声を出してみる。
この声も誰にも響かない。
告別式も大勢の参列者とたくさんの花に囲まれた。
俺って幸せ者だな。
出棺前に、お棺はみんなの中央に置かれ、バンドの演奏が始まった。
…泣ける…。
叶和子(かなこ)が突然走り出して、マイクの前で歌い始めた。
ああ、いい声だ。
俺はこの声にも惚れてたんだよな。
叶和子。
ありがとう。
みんなが俺の遺体の周りに、山ほどの花と、俺の好きだった三色団子をたくさん入れてくれた。
顔の周りが団子だらけって笑える。
みんなも笑っている。
いいなぁ…ほんといいなぁ…。
そこからは流れるように、さらに早く時間が過ぎた。
長い車列の到着先は火葬場。
みんなが『本当の俺』と最後の別れをする。
親より先に ここに来るとは思わなかったな。
最後のドアが開いて、お棺が入れられ、そのドアは二重に閉められた。
さよなら。
俺の身体。
情けないことに、俺はあの中でどうなっていくのかが怖くて、遺体に入ることは出来なかった。
熱いんだろうな。
抜けられて逆にありがたい。
遺体に入っていたら、一生頭に焼き付いてしまいそうだから。
「行かれなかったんですね」
優しい声で、案内人が出てきた。
「あ、あれだ。その…みんな見ておこうと思って」
怖いからなんて言えない。
「いいですよ。ご自由ですから」
俺の返事を聞きに来たわけか。
「もうちょっと待ってくれ。まだギリギリまで」
「かしこまりました。では火葬後にご自宅で。またお会いしましょう」
案内人は急かす事なく消えていった。
俺は全く考えていなかった。
どうする。
どうしたらいい?
早く考えないと。
答えが出ないまま時間が過ぎた。
次に会った俺は…白い骨になっていた。
これが俺か。
骨はあちこち脆くなって、模型のように横たわっている。
自分のこんな姿を目の当たりにしているのに、不思議と涙は出なかった。
皆んなが骨を拾っていく。
叶和子(かなこ)は、俺の骨を出来るだけ全部拾うんだと意気込んでいる。
俺のお気に入りのアロハで作った袋のような物に、骨粉まで入れていた。
ありがとうな。
骨壺は青い陶器。
これも俺の好きな色だ。
何から何まで…本当に。
感謝しかないよ…。
俺は小さな骨壺に納められ、実家へと戻った。
車についていく途中、この道もよく通ったなと思いながら。
家に着くとすぐにまた七日法事。
お経がより一層心に響く。
まるで俺の成仏の時間が迫っている事を伝えているかのようだ。
お墓に入ってしまえばそこで終わり。
さぁ!どっちを選ぶ⁉︎
答えが出せない。
焦る。
墓までの葬列が始まった。
もう時間がない!
今までの俺を思いっきり頭をフル回転させて思い返す。
もう思い残すことはないか?
眠るか転生か。
転生しても、どこの誰になるのか、幾つになるのか分からない。
一か八かの賭けにするか?
くっそーーー‼︎
あっという間に墓に着いてしまった。
めちゃくちゃ焦る!
俺の足元で 墓石の下が開けられ、いよいよ納骨の時が来た。
お坊さんが父親に、俺の骨を入れるように促している。
その時が来てしまった!
「決まりましたか?」
俺の隣に案内人が出てきた。
「どうしよう⁉︎決められないんだ!」
案内人に返事する。
俺は少々弱気になっていた。
もしかしたら案内人が、沖縄の時のように上手くやってくれそうな気がしてたかもしれない。
「これはご自分で決めてくださいね。私どもは手出し出来ません」
そうだよな…。
自分の人生は自分で決める…。
俺が親に偉そうに言ってた言葉。
今がまさにその時だ。
俺は覚悟を決め、案内人にこう告げた。
「決めた!俺は墓の中で眠る!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる