きっとこの世はニャンだふる♪

恥ずかしくて

沖縄から戻って来たら、丁度俺の遺体をお棺の中に収めたところだった。
沖縄にいた時間は、ものすごく長かったはずなのに、現世ではたったの2～30分しか経っていないようだった。

俺は遺体に戻り、生まれて初めてお棺の中で寝てみた。
『寝てみた』と言っても、生きて入っている訳ではないが。

こんなに狭くて、暗くて、寂しい所なんだな。

顔のところだけが開くようになっていて、来る人みんなが顔を覗き込んでいく。
なんか変な感じだ。

『綺麗な顔をして』
『いい顔をしてるね』

ただ眼を閉じて、化粧された俺の顔。
生きていたって誰もそんな事言わないぞ。
死んだら途端に『美人』になるようだ。

叶和子(かなこ)は俺の側から離れず、ずっと泣いてばかりいる。
友人たちが駆けつけて、話をしてまた涙。

妹たちは葬儀の準備で、バタバタと忙しそうだ。

俺はここで寝ているだけ。
人が1人死ぬと、こんなに大変なんだなぁ。


『やっぱりこの写真がいい』
『え～？だってあっち向いてんじゃん！』

母親と妹が何やら言い合っている。

一体　何をやって…

…え？
おおおおお⁉︎

ハァアアアア⁉︎


ピンクのアロハ、三線を持った俺。
母親が持っている写真は
さっき沖縄で案内人が撮った写真じゃないか⁉︎

「これが一番和彦らしい。毎日私が見るんだから、どこ向いてたっていい！バックも海でいい感じだわ」

なるほど、そう言うことか…(笑)

こうして俺の遺影は、沖縄で撮った写真になった。



翌日。
俺が死んで3日経った。
もう3日か。

通夜になって、和尚さんに初めてお経をあげてもらう。
お経とは何となく心地いいものだ。
線香の匂いも手伝って、気持ちがとても落ち着く。
成仏するって、こんな感じなのかな。

しばらくすると、周りがとても賑やかになる。
顔の蓋が開けっぱなしになり、次々と人が覗いて来るではないか？

な、何だかすごく恥ずかしい！
こんな格好の俺、見て欲しくない。

『和彦君』
『和ちゃん』
『痛かったね』
『早すぎるよ』

みんなが俺に声をかけて来る。
この人は職場の上司、同僚、同級生も？
病院の看護師さん、親戚、バンドの仲間たち、ライブをさせてもらった茶店の人まで。
かなり遠方の人まで、よくこんな田舎に来てくれている。

一体何人の人が、俺のために駆けつけてくれたんだ⁉︎

懐かしい顔もたくさんだ。
ついこの前まで一緒に遊んだ仲間や幼な馴染み。


俺のために

俺なんかのために…

こんな形で会いたくはなかったけど…

ほんと感謝しかないよ。

長い長い時間、通夜に訪れた人たちの列が続いた。

恥ずかしいなんて思って申し訳ない。
みんな　ありがとうございました！

俺は涙が出そうになった。



「いかがですか～？」
どこかで聴いたことのある声。

「案内人か？」

「はい、そうです」

人が感傷に浸っている時に、ふざけた言い方しやがって！

「呼んでないぞ？な、泣いてなんていないからな」
俺は強がってみせた。

「お通夜なので少し様子を伺いに参りました。大丈夫ですよ。泣いたっていいんです。それにしてもすごい人でしたね。那智さんはとても人との縁が多かった方なんですね～」

俺も今日　改めてそう思った。

「でも、本当に感謝すべきは妹さんだと思いますよ？参列された皆さんに、最後のお別れをって声をかけておられましたからね。でないと、皆さんそのまま帰ってしまわれるところでした」

「そうなのか？」

「はい」

妹が？

「何だかんだ言いながら、一生懸命あなたのために動いてくださっています。葬儀まで着実に準備が整いつつありますよ。」

「…妹なんだから…当たり前のことじゃないか」
俺は恥ずかしくなって、心にもないことを言ってしまった。

案内人は、全部判っていると言った顔で、それ以上は突っ込んでは来なかった。

「ところで、明日はいよいよ告別式。火葬されて納骨になります。その後どうされるか考えは決まりましたか？」

「あ！」

俺はそのことをすっかり忘れていた。

毎日が忙し過ぎて…
って、俺は浮遊してるだけで、忙しいのは家族だけじゃないか。

「ちゃ、ちゃんと考えてるさ。まだあと1日ある！返事は明日ちゃんとする。それと！昨日は…その、ありがとう」

またまた判っているような顔をして、案内人はニコッと笑いながら
「とんでもございません。それではまた明日」
と会釈しながら消えていった。

そうだった。
期限はいよいよ明日。
もう時間がない。