きっとこの世はニャンだふる♪

Ete

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実家に帰る!

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母親猫と話して、俺も少しホッとした。
お世話なったみんなにも、実家に帰ることを説明した。

「まだ家猫になれるとは限らない。そのための苦労もあるだろう。それでもいいのか?」
珍しく黒猫の父親が口を出す。
子ども2人を失って、あとは俺しか居ないからか。

「うん。もう決めたんだ」
俺の意志は変わらない。
「困ったときは、また戻ってこいよ!」
白猫が照れくさそうに言ってくれた。
「ありがとうございます!」
俺は素直に礼を言った。

「ここの生活は本当に楽しかった。みんなが受け入れてくれて、すごく安心も出来た。これから俺なりに頑張ってみようと思います。本当にありがとうございました!」
俺はみんなに胸を張って挨拶した。
ここがなかったら、のたれ死んでいたかもしれない。
母親がいなかったら、みんなと仲良くもできなかっただろう。
俺は本当に幸せ者だ。

チャチャ。
淋しい思いをさせてしまってごめんな。
俺、もうすぐ帰るから。
待っててくれ。

その夜はみんなといっぱい話をした。
そして3日後に旅立つことを決めた。

その日は朝から晴天だった。
製材所が職員で賑やかになる前に、俺は出発する事にした。
「それじゃ、皆さん、お元気で!」
「頑張れよ!」
「泣くんじゃないぞ」
みんなが声をかけてくれる。

「俺、お母さんの子に生まれて良かったよ!」
俺は母親に擦り寄った。
「幸せになりなさい」
母親はそう言ってスリスリしてくれた。

父親は無言だった。
ごめんなさい。お父さん。

「みんな!行ってきます!」
俺はまた実家に向けて走り出した。


俺の足取りはルンルンしていた。
とりあえず目標が決まった。
どうやっても実家に住む‼︎
今回は歩道は通らず、農道をテコテコ歩いた。
草や花の匂いが心地いい。
自然っていいなぁ。

田んぼのあぜ道や畑の中を、尻尾をピンと立てて歩いて行った。
どんどん実家が近くなる。
ワクワクが止まらない。
俺が帰ってきたら、親や嫁は喜ぶかなぁ。
そんなことを考えながら野道を楽しんだ。

墓を通りすぎると新しい花が供えてあった。
俺の好きなコーヒーやジュース、パンも。
すでにカラスが突いていて、蟻が這って、食べ物を運ぶために行列を作っていた。
って事は、命日の後ってことか。
カレンダーを見てくりゃよかった。
ちょっとズレたがまぁいいか。

「祖父さん!祖母さん!帰ってきたよ!」
出てくると長いからサッサと行き過ぎようとした。

「こりゃ待て!和彦!」
ゲッ⁉︎
祖母さん登場⁉︎
「あははは!ただいま」
俺は苦笑いしながら振り返る。
「丁度よかった。ちょっと頼まれてくれ。ワシの息子の様子が変だ。見てきてくれんか?」
息子=俺の父親?
「変だって、どうかしたの?」
「ええい!見に行けば分かる!早よ行け!」
「はいはい!」
何が何だか分からないが、俺は実家まで走って行った。

玄関まで辿り着いたが、この重いドアが開けられるわけもなく、かと言ってドアホンが押せる訳もない。
一応ジャンプしてみたが、届くわけがない!
どこか開いてないかな?

俺は家の周りをうろついた。
縁側はカーテンで見えない。居間は見えるが人気は無さそう。
裏に回って両親の部屋辺り。
ヒョイと木の家に登ってみる。

すると、父親がタンスを背に座り込んでいるのを見つけた!
目は開いてるから意識はありそう。
だけど動く様子がない。
何やってるんだ⁉︎
俺が死ぬ前に分かった病気の発作か?
近くに母親の姿もない。
家に1人か⁉︎

どうする⁉︎
猫のままじゃどうにもできない。
母親が近くに居るんじゃないか?
探さないと!

俺は家をクルクル廻ったり、近くの畑に行ってみたりして母親を探した。
一体どこに行ったんだ?
もう一度玄関に行ってみる。
そこで偶然、母親とご対面‼︎

「ありゃ?猫が…クロ…?お前、クロか?」
「にゃ…にゃー!」
俺を覚えていてくれた‼︎
「お前、突然居なくなったから心配してたんだよ?どこ行ってたの?チャチャ死んでしまったよ‼︎」
ハイハイハイハイ!
それはですね(汗)
あ、今それどころじゃなかったら!
「ニャーニャー!ニャーニャー!」
あ~!人間の言葉が喋りたい!

俺は母親に父親のことを知らせようと必死に鳴いた。
「腹減ったのか?ちょっと待ってな!」

ちっがーーーーーう!
そーじゃなくて!

母親は家の中に入ってしまった。
でも待てよ?
家に入ったら父親のこと見つけてくれるんじゃないか?
そうだよ!
どうか気がつきますように‼︎

俺は玄関先で待った。
しばらくすると、家の中から大きな声が聞こえる。
父親を見つけたのかな?

それから随分時間が経って、タクシーが家の前にやって来た。
母親は父親を支えて歩いている。
「クロ!お父さんが手を折ってるみたいだから今から病院に行ってくる。どこにも行かずに待ってるんだよ!いいね!」
そう母親は言って、2人はタクシーに乗り込んだ。

「にゃー」
俺は分かったと返事して、タクシーを見送った。

そうか。骨折してたのか。
見つかって良かった!
俺も少しは役に立ったかな。

俺は母親の言う通り、家の横の倉庫に入り、両親の帰りをじっと待った。
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