追放された少年は『スキル共有スキル』で仲間と共に最強冒険者を目指す

散士

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ドナルド・エルミート

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 ドナルド・エルミート 24歳

 彼は幼い頃から喧嘩っ早く、ガキ大将的な存在だった。頭はあまり良くはないが、腕っぷしが強く周囲の子供たちから一目置かれる存在。そんな彼が冒険者という職業を選んだのは当然の成り行きといえよう。

 15歳で冒険者になり、1年後にはEランク。4年後にはDランクへと昇格した。しかし、彼のランクアップはここで頭打ちとなる。

 剣術の方も18歳でアルトゥース流中伝を習得したが、それ以上の位階に登れる兆しは見えなかった。それは、彼の生来の怠け癖が原因だろう。

 近所の子供たちの中では腕っぷしが強い方だった。ドナルドはすげえ奴だと囃し立てられた。だが、その程度の才能の者は世の中にごまんといる。その中で抜きんでようとすればさらなる研鑽が求められるのだ。

 だが、ドナルドは努力というものが嫌いだった。自分は『すげえ奴』だから努力なんてする必要はないと思っていた。本気で努力をして、自分の限界を知るのが…本当は自分が凄い人間でもなんでもない事を知るのが怖かった。

 ドナルドの中で鬱屈が溜まっていった。自分はもっと認められてもいいはず。自分がこんなランクに留まっているのは間違っている。そんな思いが彼の中で渦巻いた。

 その結果、彼は自分よりランクが低い冒険者に対し高圧的な態度を取るようになった。自分より下の人間を探し、それを貶める事で自尊心を保とうとしたのだ。

 20歳はたちの時に結婚した年上の妻、デボラもそんなドナルドに段々と愛想がつきてきている様子だった。最近は口数も少なく、互いの距離が離れていっているのを感じる。だが…ドナルドにはどうする事もできなかった。どうしていいか分からなかったのだ。

 いや、本当は分かっていた。自分が凡人である事を認めればいい。そしてその上で、少しでも強くなるために地道な努力を積み重ねればいいのだ。だが、それはできなかった。俺は努力なんて必要もないすげえ奴だと、そう思いたかった。

 ◇

 アレクシアやデボラが会話をしている場所から少し離れた位置。彼女たちからは死角になる倉庫裏。そこで、ルカとドナルドは向かい合っていた。

「あの…何でしょうか…?」

 不思議そうな表情で問いかけるルカ。ドナルドはぐっと歯噛みする。彼は何かを言い淀んでいるようだ。しかし、しばらくして…口を開いた。

「お前…俺の事、ろくでもねえ男だと思ってんだろ」

「え…?」

 突然の言葉にルカは驚く。

「そんな事…」

「いや、いい。俺は実際、ろくでもねえ男だ。出会った時からお前に当たり散らして、何かあれば馬鹿にして…挙句に酒飲んで居眠りして、商隊キャラバンを危険に晒した。誰がどう見たって、ろくでもねえ奴だ」

「…」

「けど、俺は…それを認めたくなかった。…誰だってそうだろ?自分がクソ野郎だなんて、認めたく…ねえよ」

 ドナルドは自分の後ろ首に手をあて、俯きながら言った。

「けど、なんつーか…デボラの奴に言われて渋々お前に謝ってよ、自分が悪かったって言った時に…その…『ああ、こんなもんか』って思ったんだ。今まで俺は、自分の間違いとか…駄目さとか、認めるのが…怖かった。でも、いざ認めてみたらよ。その…意外と、悪い気分じゃなかったんだ。…あー…クソッ。いきなり自分の事語り出して、気持ち悪いよな…」

「そんな事ありませんよ」

 ドナルドは不器用ながら本音で接してくれている。ルカは、それを気持ち悪いなどとは思わなかった。

「何が言いたいかっつーと、その…お前がやった事は…命を捨ててまで俺らを助けてくれようとした事は……すげえ事だと、俺は思う。俺には出来ねえ事だ」

 そこまで言って、顔を上げた。ルカの瞳を真っ直ぐに見つめる。

「お前は――すげえ奴だよ」

 そう言って…ばつが悪そうに、ガシガシと頭を掻いた。

「お、俺が言いたかったのは、それだけだ。…今までさんざん横柄な口をきいてきた奴が何言ってんだ、て思うかもしんねえ。俺の事を馬鹿にしてもかまわねえ。ただな、お前はすげえ奴だ!それだけは知っとけ!」

「――はい。ありがとうございます、ドナルドさん」

「あ、ただな、調子には乗んなよ。調子に乗って努力しねえと…俺みたいになるからな。俺みたいまクズにはなりたくねえだろ?」

「そんな事ないですよ。僕、ドナルドさんの事尊敬してます」

「はあ?お、俺のどこに尊敬される要素があんだよ…」

「ボグリザードの群れから逃げる時…ドナルドさん、デボラさんを庇うようにして戦ってましたよね?口では色々言ってたけど、デボラさんの事が大切なんだなって思いました。自分の大切な人のために戦える方を…僕は、尊敬します」

「なっ…よく見てんな、お前…。でも、まあ…嫁を守るのは当然だろ。あいつは出来た嫁だ。正直、俺なんかには勿体ねえよ」

「デボラさんの事、大好きなんですね」

「…まあな」

「それなのに、なんでデボラさんの前では悪口を言ってしまうんですか?」

「悪口…ああ、俺がよくババア呼ばわりしてるって事か。…だってよ、人前で褒めると…他の奴があいつの魅力に気がつくじゃねえか」

 意外な言葉にルカは眉を上げる。

「他の人に取られたくないからわざと悪口を言ってるって事ですか?」

「ああ、そうだ。…だが、それも考えてみりゃあクソみてえな話だよな。…あいつからしてみれば、ただ罵倒されてるだけだもんな」

「それじゃあ本当は愛してるって事…ですよね」

「…そう、だな。あいつの事は…愛してるよ」

「あら、あんた…あたしの事愛してたんだ」

 突如後方から声が聞こえ、ドナルドは慌てて振り返る。そこにはデボラとアレクシアが立っていた。

「なっ…お前、いつから…!」

「ついさっきからさ。男二人でコソコソ話してるから気になって見に来てみたのよ。それにしても、あんた…あたしの事を愛してくれてたのね。全然そんな事言ってくれないから知らなかったわ」

 ドナルドはデボラとルカを見比べる。ルカの位置からは、デボラが近付いている事が見えていたはず…。そして、そうか…!と気がついた。途中からやけルカが好きだの愛してるだのという方面に話を持って行っていたが…会話を誘導されていたのだ。デボラの事を愛している、と言うように。

 ドナルドは突如気恥ずかしさを覚える。デボラとは夫婦だ。夫婦だからこそ…愛しているなどはっきり口にするのは、恥ずかしいものなのだ。

「いや、今のはだな…」

 誤魔化そうとするドナルド。デボラはその言葉を遮るように言葉を被せる。

「ルカ君もアレクシアちゃんも聞いたわよね?」

「はい」

「ええ」

 ルカとアレクシアは同時に頷いた。

「はあ…あんたみたいなろくでもない男に愛されてるなんて、あたしも本当にツイてないわねえ…。もっとツイてないのは…あたしも、あんたみたいなろくでもない男の事を愛してるって事だけど」

 デボラはため息をつきながら…微笑んだ。

「あんたがあたしの事をどれ程愛してるかは、この後二人っきりの時にしっかりと聞かせてもらおうかしら」

 デボラがドナルドに体を寄せた。ドナルドは少しばつが悪そうな表情をした後…デボラの肩を抱いた。ちらりと振り返れば、少年が優し気な笑顔を向けていた。その顔を見て…思う。

 自分もこの少年のようなひたむきさを、優しさを手に入れる事ができるだろうか。ろくでもない自分も、少しはマシな人間になれるだろうか、と。
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