追放された少年は『スキル共有スキル』で仲間と共に最強冒険者を目指す

新メンバー6

「さあさあ、どうぞルカ君。座ってください」

　ルカが少女に案内されたのは、宿屋の一階に併設されている食堂だ。主人に掛け合って使用させてもらったのだろう。ルカはテーブルの前に腰掛ける。

「それじゃあ今から配膳するので待っていてくださいね」

　そう言って奥へ下がる少女。しばらくすると、アレクシアと共に皿を持って現れた。彼女達が持つ皿の上に盛られているのは、奇怪な料理だった。

　白い小さな粒の塊――おそらく米を炊いた物だろう――が、ちょうど手のひらでつまめる程度の大きさに整えられている。そしてその上に乗るのは、鮮やかなピンク色をした細長い板のような物体。何かの魚…それも生魚を切ったものだ。

　さらに、その奇怪な物体の乗った皿とは別の小さな皿には真っ黒な液体が入っている。魚醤ガルムだ。

　それらの皿がルカの前に置かれた。すると、ルカはツン…と鼻に刺激臭を感じる。酢ビネガーの香りに違いない。

　少女の作った料理とは、炊いた米に酢をまぶし一口で食べれる程度の大きさに整えその上に生魚の切り身を乗せた物、すなわち――、

「これこそが我が国の誇る料理――『寿司』です！」

　と、少女は胸を張って言い放った。

「手巻き寿司くらいしか作った事がなかったんで、ちょっと不恰好ですけど…それでも今朝取れた新鮮なお魚を使ってあるんで美味しいはずです！」

「えっと、その…質問してもいいですか？」

　ルカは少女と『寿司』なる奇怪な食べ物を見比べながら言った。

「はい、何でも聞いてください！…って言っても、お寿司の歴史とか聞かれても答えられないですけど…」

「あの…この炊いたお米の上に乗ってるのって、魚…ですよね？」

「はい！」

「生の魚…で、間違いありませんか？」

「はい、それがお寿司という料理ですから！」

「魚の種類はなんですか？」

「鱒ますですね！鮭さけと魚としての種類は同じだっていうから捌いてみたんですけど、本当にサーモンそっくりな身の色で驚きました！あ、ちなみに捌いてくれたのはアレクシアさんです。アレクシアさん、刃物捌きが板についてますねえ…びっくりしました」

「そうですか…」

　ルカは真剣な表情になって、まじまじと目の前の寿司を見つめた。

「さあどうぞルカ君！ぜひともお寿司をご賞味あれ！あ、手で取ってパクッといっちゃっていいですからね！」

　目を輝かせ、ルカが食べるのを心待ちにしている少女。ルカはそんな少女の顔をチラリと見上げ、申し訳なさそうに言った。

「…ごめんなさい、この料理は食べられません」

「あ…やっぱり生のお魚って抵抗ありますかね？でも食べて見ると美味しいんですよ？ほら、こうやって――」

　と、寿司をつまみ口に運ぼうとする少女。

「だ、駄目です！」

　ルカは慌てて少女の手を掴む。

「ど、どうしたんですか？…ひょっとして、生のお魚を食べるのは宗教的にアウト、とか…そういうのがあったり…？」

　少女は寿司を口に運びかけた姿勢のまま固まり、腕にしがみつくルカの顔を見つめる。

「いえ、そういった宗教はありません。ただ…川魚には寄生虫がいる可能性が高いので、生で食べる事はできないんです」

「え…？」

「生の鱒ますを食べてそこに寄生虫がいた場合、最悪…死ぬ事すらあり得ます」

「えええ～！」