追放された少年は『スキル共有スキル』で仲間と共に最強冒険者を目指す

散士

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特訓8

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 後ろ回し蹴りの動作を停止し、固まる安鶴沙。それを見つめるルカ。

「…」

「…」

 しばらくの間沈黙する両者。しばらく見つめ合った後、先に口を開いたのは安鶴沙の方だった。

「い、今の…見てました?」

「…はい」

「ど、どの辺りから?」

「その…顔へキックを放った辺りからです」

「あ、ああ~そうですか。えっと、ですね、これには深い訳があってですね」

 安鶴沙は乱れた髪や衣服をを整え、居住まいを正した。

「なんというかですね、レオンフォルテさんにちょっとムカムカ来てまして…それで、こうやってストレスを発散していたというか…」

「…」

 深い訳も何も、見たままの理由だった。

「あの一応言っておきますけど、わたし、普段はあんな言葉使わないですからね!?」

「あんな言葉って…?」

「だから、キ〇タ…い、いえ、何でもないです!と、と、とにかくですね!わたし、普段からこういう事してる訳じゃないんですよ!?レオンフォルテさんの態度があんまりにも頭に来ちゃって――」

 安鶴沙は肩を震わせ、そしてがっくりとうなだれた。

「アレクシアさんにあんなに酷い事を言われたのに…でも、わたしには何も出来なくて、それで…」

「――はい、その気持ちは分かりますよ」

 安鶴沙は今までアレクシアとレオンフォルテの関係について口を出した事は無かった。だが、それは安鶴沙が何も感じていなかったという訳ではない。いつも明るく振舞っているその裏では、アレクシアの事を想い、哀しみ、憤っていたのだ。

 とはいえ、アレクシアの前で彼女の兄に対する侮蔑の言葉を述べる訳にもいかない。この世界の常識に疎い自分が下手に動いても事態が好転するとは思えない。その結果、こうやって怒りをぶつけるしかなかったという事だろう。

「僕もアレクシアさんの力になる事が出来なくて辛い気持ちなのは同じですから。けど、アヅサさんが何も出来ていないなんて事はないと思います。アヅサさんと一緒にいると元気が出るって、アレクシアさん言ってましたから」

「アレクシアさんがそんな事を…?…ぅ」

 今までため込んでいた感情が噴き出してきたのだろう、アヅサの目に涙が浮かんでくる。安鶴沙はそれを拭った。

「わ、わたしでもちょっとはお役に立ててるならいいんですけど。…例え、アレクシアさんの縁談をどうにかする事は出来なくても…少しでも、アレクシアさんにいい思い出を作れたら…」

「…」

 いい思い出。

 アレクシアとの冒険はここで終わり、彼女の中で全ては思い出になってしまうのだろうか。そうはさせない――させたくない。そんな想いがルカの中で膨らむ。

 そのためのか細い希望がトーナメントでの優勝。しかし、現在のルカでは優勝は遠いだろう。正攻法で戦った所で、格上である中伝、修伝の剣士に通じるとは思えない。

 では、正攻法以外の方法を使えば?この世界の人間が知らない戦闘技術、それを扱う事が出来れば――。

「アヅサさん、お願いがあります」

「は、はい。えっと、何でしょう…?」

「はい。アヅサさんの技術を僕に教えて貰いたいんです」

「それは――」

 安鶴沙の表情に迷いが浮かぶ。無論、彼女とてその可能性は頭に思い浮かべてはいた。自分の技術を伝授すれば、トーナメントで有利に戦えるのではないか…と。

 だが、それは諸刃の剣でもあった。武術というのはさまざまなものに手を出して何でもかんでも身に着ければ良いというものではない。中途半端に手を出したせいで元々の型が崩れ弱くなってしまう危険性すらある。

 しかし、ルカはそれを承知の上で安鶴沙に頼み込んでいるのだろう。

「――分かりました」

 安鶴沙は頷いた。

「でも、期間が限られてます。この短期間で私が伝授できる技は、ひとつかふたつ…それでもいいですか?」

「はい、お願いします!」

 こうして、少年はアレクシアに続きもう一人の師匠を得る事となった。
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