145 / 1,156
特訓8
しおりを挟む
後ろ回し蹴りの動作を停止し、固まる安鶴沙。それを見つめるルカ。
「…」
「…」
しばらくの間沈黙する両者。しばらく見つめ合った後、先に口を開いたのは安鶴沙の方だった。
「い、今の…見てました?」
「…はい」
「ど、どの辺りから?」
「その…顔へキックを放った辺りからです」
「あ、ああ~そうですか。えっと、ですね、これには深い訳があってですね」
安鶴沙は乱れた髪や衣服をを整え、居住まいを正した。
「なんというかですね、レオンフォルテさんにちょっとムカムカ来てまして…それで、こうやってストレスを発散していたというか…」
「…」
深い訳も何も、見たままの理由だった。
「あの一応言っておきますけど、わたし、普段はあんな言葉使わないですからね!?」
「あんな言葉って…?」
「だから、キ〇タ…い、いえ、何でもないです!と、と、とにかくですね!わたし、普段からこういう事してる訳じゃないんですよ!?レオンフォルテさんの態度があんまりにも頭に来ちゃって――」
安鶴沙は肩を震わせ、そしてがっくりとうなだれた。
「アレクシアさんにあんなに酷い事を言われたのに…でも、わたしには何も出来なくて、それで…」
「――はい、その気持ちは分かりますよ」
安鶴沙は今までアレクシアとレオンフォルテの関係について口を出した事は無かった。だが、それは安鶴沙が何も感じていなかったという訳ではない。いつも明るく振舞っているその裏では、アレクシアの事を想い、哀しみ、憤っていたのだ。
とはいえ、アレクシアの前で彼女の兄に対する侮蔑の言葉を述べる訳にもいかない。この世界の常識に疎い自分が下手に動いても事態が好転するとは思えない。その結果、こうやって怒りをぶつけるしかなかったという事だろう。
「僕もアレクシアさんの力になる事が出来なくて辛い気持ちなのは同じですから。けど、アヅサさんが何も出来ていないなんて事はないと思います。アヅサさんと一緒にいると元気が出るって、アレクシアさん言ってましたから」
「アレクシアさんがそんな事を…?…ぅ」
今までため込んでいた感情が噴き出してきたのだろう、アヅサの目に涙が浮かんでくる。安鶴沙はそれを拭った。
「わ、わたしでもちょっとはお役に立ててるならいいんですけど。…例え、アレクシアさんの縁談をどうにかする事は出来なくても…少しでも、アレクシアさんにいい思い出を作れたら…」
「…」
いい思い出。
アレクシアとの冒険はここで終わり、彼女の中で全ては思い出になってしまうのだろうか。そうはさせない――させたくない。そんな想いがルカの中で膨らむ。
そのためのか細い希望がトーナメントでの優勝。しかし、現在のルカでは優勝は遠いだろう。正攻法で戦った所で、格上である中伝、修伝の剣士に通じるとは思えない。
では、正攻法以外の方法を使えば?この世界の人間が知らない戦闘技術、それを扱う事が出来れば――。
「アヅサさん、お願いがあります」
「は、はい。えっと、何でしょう…?」
「はい。アヅサさんの技術を僕に教えて貰いたいんです」
「それは――」
安鶴沙の表情に迷いが浮かぶ。無論、彼女とてその可能性は頭に思い浮かべてはいた。自分の技術を伝授すれば、トーナメントで有利に戦えるのではないか…と。
だが、それは諸刃の剣でもあった。武術というのはさまざまなものに手を出して何でもかんでも身に着ければ良いというものではない。中途半端に手を出したせいで元々の型が崩れ弱くなってしまう危険性すらある。
しかし、ルカはそれを承知の上で安鶴沙に頼み込んでいるのだろう。
「――分かりました」
安鶴沙は頷いた。
「でも、期間が限られてます。この短期間で私が伝授できる技は、ひとつかふたつ…それでもいいですか?」
「はい、お願いします!」
こうして、少年はアレクシアに続きもう一人の師匠を得る事となった。
「…」
「…」
しばらくの間沈黙する両者。しばらく見つめ合った後、先に口を開いたのは安鶴沙の方だった。
「い、今の…見てました?」
「…はい」
「ど、どの辺りから?」
「その…顔へキックを放った辺りからです」
「あ、ああ~そうですか。えっと、ですね、これには深い訳があってですね」
安鶴沙は乱れた髪や衣服をを整え、居住まいを正した。
「なんというかですね、レオンフォルテさんにちょっとムカムカ来てまして…それで、こうやってストレスを発散していたというか…」
「…」
深い訳も何も、見たままの理由だった。
「あの一応言っておきますけど、わたし、普段はあんな言葉使わないですからね!?」
「あんな言葉って…?」
「だから、キ〇タ…い、いえ、何でもないです!と、と、とにかくですね!わたし、普段からこういう事してる訳じゃないんですよ!?レオンフォルテさんの態度があんまりにも頭に来ちゃって――」
安鶴沙は肩を震わせ、そしてがっくりとうなだれた。
「アレクシアさんにあんなに酷い事を言われたのに…でも、わたしには何も出来なくて、それで…」
「――はい、その気持ちは分かりますよ」
安鶴沙は今までアレクシアとレオンフォルテの関係について口を出した事は無かった。だが、それは安鶴沙が何も感じていなかったという訳ではない。いつも明るく振舞っているその裏では、アレクシアの事を想い、哀しみ、憤っていたのだ。
とはいえ、アレクシアの前で彼女の兄に対する侮蔑の言葉を述べる訳にもいかない。この世界の常識に疎い自分が下手に動いても事態が好転するとは思えない。その結果、こうやって怒りをぶつけるしかなかったという事だろう。
「僕もアレクシアさんの力になる事が出来なくて辛い気持ちなのは同じですから。けど、アヅサさんが何も出来ていないなんて事はないと思います。アヅサさんと一緒にいると元気が出るって、アレクシアさん言ってましたから」
「アレクシアさんがそんな事を…?…ぅ」
今までため込んでいた感情が噴き出してきたのだろう、アヅサの目に涙が浮かんでくる。安鶴沙はそれを拭った。
「わ、わたしでもちょっとはお役に立ててるならいいんですけど。…例え、アレクシアさんの縁談をどうにかする事は出来なくても…少しでも、アレクシアさんにいい思い出を作れたら…」
「…」
いい思い出。
アレクシアとの冒険はここで終わり、彼女の中で全ては思い出になってしまうのだろうか。そうはさせない――させたくない。そんな想いがルカの中で膨らむ。
そのためのか細い希望がトーナメントでの優勝。しかし、現在のルカでは優勝は遠いだろう。正攻法で戦った所で、格上である中伝、修伝の剣士に通じるとは思えない。
では、正攻法以外の方法を使えば?この世界の人間が知らない戦闘技術、それを扱う事が出来れば――。
「アヅサさん、お願いがあります」
「は、はい。えっと、何でしょう…?」
「はい。アヅサさんの技術を僕に教えて貰いたいんです」
「それは――」
安鶴沙の表情に迷いが浮かぶ。無論、彼女とてその可能性は頭に思い浮かべてはいた。自分の技術を伝授すれば、トーナメントで有利に戦えるのではないか…と。
だが、それは諸刃の剣でもあった。武術というのはさまざまなものに手を出して何でもかんでも身に着ければ良いというものではない。中途半端に手を出したせいで元々の型が崩れ弱くなってしまう危険性すらある。
しかし、ルカはそれを承知の上で安鶴沙に頼み込んでいるのだろう。
「――分かりました」
安鶴沙は頷いた。
「でも、期間が限られてます。この短期間で私が伝授できる技は、ひとつかふたつ…それでもいいですか?」
「はい、お願いします!」
こうして、少年はアレクシアに続きもう一人の師匠を得る事となった。
3
あなたにおすすめの小説
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る
神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】
元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。
ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、
理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。
今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。
様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。
カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。
ハーレム要素多め。
※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。
よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz
他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。
物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz
今後とも応援よろしくお願い致します。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる