追放された少年は『スキル共有スキル』で仲間と共に最強冒険者を目指す

特訓最終日

　特訓10日目。トーナメント前日となったこの日も、ルカはアレクシアと向かい合っていた。今まで幾度となく繰り返してきた実戦形式の訓練だ。しかし、今までの10に日間では決してあり得なかった光景がそこにはあった。アレクシアの手に握られているはずの木剣。それが地面に落ちているのだ。

「――まさか、こんな手を…」

　アレクシアは呆然とした表情でルカを見る。

　ルカはアレクシアの武器を地面に落とす事に成功しただけ――これが実戦だとしてもまだ決着はついていない。しかし、そうだとしても。奥伝剣士相手に一本取ったという事にはなるだろう。

「よしっ…！やりましたね、ルカ君！」

　ガッツポーズする安鶴沙。アレクシアも驚きから冷め、その顔に笑みを作る。

「…見事だ。私は弟子を取るのは初めての経験だけれど…君のような素晴らしい教え子を持つ事が出来て光栄に思うよ」

　そうルカを称えた。だが、ルカの心に沸き上がってきたのは喜びの感情ではない。感謝の念だ。根気よく特訓に付き合ってくれたアレクシア。サポートに徹し、最後はとっておきの技を伝授してくれた安鶴沙。二人がいなければ、この成果はあり得なかっただろう。

「アレクシアさん、アヅサさん」

　少年は、仲間であり師匠である二人の女性に対して交互に視線を向ける。

「――ありがとうございました。お二人の教えのおかげで…僕は、トーナメントで戦えます」

　必ず勝てる――とは言えない。相手は経験、実力ともに自分を上回る猛者揃い。けれど、二人の教えを生かし全力を尽くす。その想いを胸に、少年は固く拳を握りしめた。