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トーナメント開催
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トーナメント開催初日。闘技場《コロシアム》の観客席は人で埋め尽くされていた。
「ううーん、凄い熱気ですねえ…」
安鶴沙はキョロキョロと闘技場《コロシアム》内を見回す。天幕に覆われた貴賓席に座り、優雅にお茶を飲みながら談笑する貴族達。剣士同士の戦いを純粋に心待ちにしている様子の冒険者や自警団の者達。とにかく戦いを見てエキサイトしたいだけの庶民達。そして、彼らに対して酒や軽食を売り歩く商人達。
アレクシアと安鶴沙は、庶民の多い観客席中段に腰かけている。
「それだけ注目度の高い大会という事なんだろうね。やはり新人トーナメントとは言ってもレベルは高そうだ」
アレクシアの表情はやや固い。ルカへの想い、自らの未来に対する懸念。色々な感情が彼女の中で渦巻いているのだろう。安鶴沙はそんなアレクシアの様子を見て取り、
「でも、ルカ君なら大丈夫ですよね。だってルカ君なんですから!」
そう言いながらアレクシアの顔を覗き込む。
「うん。彼は…強いからね」
結果はどうあれ、このトーナメントがルカにとってプラスになればいい。アレクシアはそう考えていた。自分の縁談話など気にせず、ただただ全力を尽くしてくれればそれでいい、と。
「よう、こんな所にいたのか」
突然、声をかけられた。そちらに視線を向ければ、軽く手を上げながら近付いてくる人物がひとり。美男子…というにはやや歳を取っているが、秀麗な容貌を持った中年男性。アレクシアの叔父、レオンゼーレだった。
「叔父上」
アレクシアは立ち上がって挨拶をしようとするが、
「やめてくれ。座っててくれ。叔父と姪つったって庶民と王族なんだからさ。ああ、そっちの嬢ちゃんもな」
と、アレクシアと安鶴沙が立ち上がろうとするのを制した。
「それより、あの少年…確か名前はルカ君だったか。調子はどうだ?まあ、さすがに初伝剣士じゃ勝ち残るのは難しいだろうが…」
「調子はいいですよ。何しろ、私が一本取られたくらいですから」
「は――?」
レオンゼーレは、一瞬笑いかけた。アレクシアが冗談を言ったのだと思ったからだ。アレクシア・ツヴァイクは奥伝剣士。その位階の意味する所をレオンゼーレは承知している。初伝剣士が奥伝剣士を相手に一本取るなど、例え百万回試合を繰り返そうとあり得ない事を。だから、アレクシアの言葉は冗談だ――レオンゼーレは咄嗟にそう判断した。
しかし同時に、レオンゼーレはアレクシアが剣に関してこの上なくひたむきな人間だという事も知っている。剣についての話題で(それ以外の話題でもあまり冗談を言うような性格ではないが)冗談を言うような事は、彼女に限って考えられない。それ故に…笑いかけた口元をすぐに戻し、呟いた。
「マジかよ…。レオンフォルテ相手に臆せず喋ってた時からただもんじゃないとは思ってたが…こりゃあ、もしかするともしかする…かもな」
口元に手を当て、嬉々とした表情を浮かべるレオンフォルテ。
「いや、今回はなかなか面白い奴らが出場しててな。この大会は盛り上がりそうだとは思ってたんだが…はは、こりゃいっそう白熱しそうだ」
「面白い奴ら…?」
安鶴沙が疑問を口にする。
「ああ、そうだ。えっと、お嬢ちゃん…あんたは確か…」
「アヅサ・クルシマです」
「そうそう、アヅサちゃんだったな。悪ぃな。オッサンになると物覚えが悪くてなあ…」
「いえいえ」
「しかし、アヅサってのは変わった名前だな。へんな事を聞くようだが、もしかして――」
とレオンゼーレが言いかけた所で、闘技場《コロシアム》にファンファーレが鳴り響いた。
「こりゃあ…開会式の合図だな。戻らねえと。出場者についてはこれから紹介があるからそれを見てくれ。――じゃあまたな、アレクシア。アヅサちゃん」
レオンゼーレは、貴賓席に向かって足早に去っていく。だが何かを思い出したように途中で振り返り、
「俺は主催者側の人間だから表立って誰かに肩入れするって事はできないが…個人的にはあの子の健闘を祈ってるぜ」
そう言い残して姿を消した。
「ううーん、凄い熱気ですねえ…」
安鶴沙はキョロキョロと闘技場《コロシアム》内を見回す。天幕に覆われた貴賓席に座り、優雅にお茶を飲みながら談笑する貴族達。剣士同士の戦いを純粋に心待ちにしている様子の冒険者や自警団の者達。とにかく戦いを見てエキサイトしたいだけの庶民達。そして、彼らに対して酒や軽食を売り歩く商人達。
アレクシアと安鶴沙は、庶民の多い観客席中段に腰かけている。
「それだけ注目度の高い大会という事なんだろうね。やはり新人トーナメントとは言ってもレベルは高そうだ」
アレクシアの表情はやや固い。ルカへの想い、自らの未来に対する懸念。色々な感情が彼女の中で渦巻いているのだろう。安鶴沙はそんなアレクシアの様子を見て取り、
「でも、ルカ君なら大丈夫ですよね。だってルカ君なんですから!」
そう言いながらアレクシアの顔を覗き込む。
「うん。彼は…強いからね」
結果はどうあれ、このトーナメントがルカにとってプラスになればいい。アレクシアはそう考えていた。自分の縁談話など気にせず、ただただ全力を尽くしてくれればそれでいい、と。
「よう、こんな所にいたのか」
突然、声をかけられた。そちらに視線を向ければ、軽く手を上げながら近付いてくる人物がひとり。美男子…というにはやや歳を取っているが、秀麗な容貌を持った中年男性。アレクシアの叔父、レオンゼーレだった。
「叔父上」
アレクシアは立ち上がって挨拶をしようとするが、
「やめてくれ。座っててくれ。叔父と姪つったって庶民と王族なんだからさ。ああ、そっちの嬢ちゃんもな」
と、アレクシアと安鶴沙が立ち上がろうとするのを制した。
「それより、あの少年…確か名前はルカ君だったか。調子はどうだ?まあ、さすがに初伝剣士じゃ勝ち残るのは難しいだろうが…」
「調子はいいですよ。何しろ、私が一本取られたくらいですから」
「は――?」
レオンゼーレは、一瞬笑いかけた。アレクシアが冗談を言ったのだと思ったからだ。アレクシア・ツヴァイクは奥伝剣士。その位階の意味する所をレオンゼーレは承知している。初伝剣士が奥伝剣士を相手に一本取るなど、例え百万回試合を繰り返そうとあり得ない事を。だから、アレクシアの言葉は冗談だ――レオンゼーレは咄嗟にそう判断した。
しかし同時に、レオンゼーレはアレクシアが剣に関してこの上なくひたむきな人間だという事も知っている。剣についての話題で(それ以外の話題でもあまり冗談を言うような性格ではないが)冗談を言うような事は、彼女に限って考えられない。それ故に…笑いかけた口元をすぐに戻し、呟いた。
「マジかよ…。レオンフォルテ相手に臆せず喋ってた時からただもんじゃないとは思ってたが…こりゃあ、もしかするともしかする…かもな」
口元に手を当て、嬉々とした表情を浮かべるレオンフォルテ。
「いや、今回はなかなか面白い奴らが出場しててな。この大会は盛り上がりそうだとは思ってたんだが…はは、こりゃいっそう白熱しそうだ」
「面白い奴ら…?」
安鶴沙が疑問を口にする。
「ああ、そうだ。えっと、お嬢ちゃん…あんたは確か…」
「アヅサ・クルシマです」
「そうそう、アヅサちゃんだったな。悪ぃな。オッサンになると物覚えが悪くてなあ…」
「いえいえ」
「しかし、アヅサってのは変わった名前だな。へんな事を聞くようだが、もしかして――」
とレオンゼーレが言いかけた所で、闘技場《コロシアム》にファンファーレが鳴り響いた。
「こりゃあ…開会式の合図だな。戻らねえと。出場者についてはこれから紹介があるからそれを見てくれ。――じゃあまたな、アレクシア。アヅサちゃん」
レオンゼーレは、貴賓席に向かって足早に去っていく。だが何かを思い出したように途中で振り返り、
「俺は主催者側の人間だから表立って誰かに肩入れするって事はできないが…個人的にはあの子の健闘を祈ってるぜ」
そう言い残して姿を消した。
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