ハンナと先生 南の国へ行く

マツノポンティ さくら

文字の大きさ
6 / 12

王宮の森

しおりを挟む
「パロ王国に観光に来られる方はみんなこのホテルに泊まるんです。私も先生方をホテルまでお送りするようパロの王様から依頼されました」
運転手が私たちの荷物を降ろすのを手伝いながら教えてくれました。
私たちがいる場所は森の中と言ってもいいくらい木々に囲まれていました。ホテルの周辺だけがひらけていて、太陽の光が降り注いでいましたが、ホテルは森にうまく溶け込んでいました。ホテルといってもこの建物は3階までしかありません。建築材として木がふんだんに使われており、壁に使われた漆喰しっくいの白だけが、周囲の森とホテルとを区別していました。

私たちはホテルの中に入りました。屋内は主に自然の光だけで照らされていたので、一瞬薄暗い気がしましたが、適度に効いた空調と相俟あいまってかえって心地よく感じました。
入り口から入って斜め奥にカウンターがありました。カウンターには受付の人がいました。念のために言うと、受付の人は人間です。
これが鳥だったら面白いのにと思った私は、
「ホテルの人たちは鳥ではないんですね」
と思わず言ってしまいました。
受付の人はハハハと笑って、
「ええ、私たちはオーブタウンから通いで来ている者です。1週間だけここで働いて次の人と交代します。大体1ヶ月ごとに来ていますね」
「へぇー、そうなんですね」
「はい、ここで働くにはその方がいいんです。このホテルは人間と鳥が共同で建てたものです。なので利益の半分はオーブ共和国に、残り半分はパロ王国に帰属きぞくします」
と受付の人は裏の事情まで教えてくれました。
「けど鳥たちはあまりお金に興味がないようです。パロ側の利益は銀行口座にほったらかしにされているんじゃないですかね」

ホテルのチェックインを済ませると、私たちは部屋に案内されました。部屋は3階にありましたので、一応最上階ということになります。
「こちらが当ホテル唯一のスイートルームでございます」
私たちを案内してくれたボーイが言いました。
「スイート!?」
私はびっくりしました。
部屋に入ると、入り口から奥のリビングまで一目で見渡すことができました。リビングの先は全面がフランス窓におおわれ、広いバルコニーと繫がっていました。床まで届く窓で区切られていたので、外の光が差し込んできます。カーテンは全て開かれていて、その先のしっとりと濡れた森の様子をハッキリと見ることができました。
濃い緑の木々の中に、ところどころ赤や黄色の花を咲かせている木もあります。パロは一年を通じて気温が高い国です。冬の無い国で、木々はどういうタイミングで花を咲かせるのだろうと、ふと思いました。

リビングだけでも今まで私が泊まったことのある部屋の何倍もの広さがありました。
私はソファーに荷物を置くと、ベッドルームやバスルームを見にいきました。まずベッドルームがいくつもあることに衝撃しょうげきを受けました。そしてベッドには、ベッドカバー全体に花びらを置いて作った模様もようが描かれていました。ベッドルームごとに違う花、違う模様です。私は全部写真に撮りました。そしてリビングに戻ってさっき撮り忘れていた写真を撮りました。
その後、あらためてバスルームを見にいきました。バスルームも二つあり、一つは外の景色が見えるようになっていました。バスルームの内にも外にも、至るところに南国の花が生けられていました。

私は興奮のうちにリビングに戻りました。
「先生、凄い部屋ですね!」
先生はもうリビングの片隅にあった机の上に自分の荷物を開け始めていました。
そのとき、バサッバサッという羽音はおとが聞こえてきました。外から聞こえてくるようです。
窓の外に目をやると、一羽のペリカンが、丁度バルコニーに降り立ったところでした。
先生はすぐに窓を開け、そのペリカンを部屋に招き入れました。間違いなく先日先生の病院を訪れたバロン・ペリカーノ卿です。

「ペリカーノ卿、ご無事でしたか?」
先生が口を開きました。
「おかげさまで」
「どうせここで会えるのなら、一緒のフライトで来てもよかったですね」
ペリカーノ卿は首を左右に振りました。
「王様にいち早くジョン先生のお越しをお知らせしたかったのです。それに先生にいただいたこの眼鏡のおかげで、一度も道に迷うことなくパロに帰ってくることができました」
ペリカーノ卿は満足げに、眼鏡のかかった自分の顔を上下させました。
「先生、間もなく日暮れの時間になります。パロ王国における歓迎晩餐会かんげいばんさんかいは、日暮れから始まります。参りましょう。ご案内致します」

私たちはホテルを出て、ペリカーノ卿の後をついて行きました。
ペリカーノ卿は森の中へ続く小径こみちを進んでいきました。
「この道は空を飛ばない鳥たちが作ったものです。なので先生方には歩きにくいでしょうが、ご容赦ようしゃください」
森の中に入ると、暑く湿った空気が体にまとわりついてきました。
あちらこちらから鳥の鳴く声が聞こえます。
「この森は王宮の森と言うんですよね?」
と先生が尋ねました。
「さようです。王の在所ざいしょがございますから」
「さぞかし王宮は立派な建物なんでしょうね」
ペリカーノ卿は首を傾げました。そしてフッフッと笑いながら答えました。
「森そのままの姿が王宮ですよ。ですから今皆さんがおいでのところも王宮です」
私は周囲を見回しました。いくつもの木々が重なり合った普通の森です。思っていた王宮のイメージとは違いました。
「人間たちは建物を建てた後、その中に木を植えたり草花を育てたりしています。なんでわざわざそんなめんどくさいことをするんでしょうね。建物を建てなければ、もっと多くの木々や花々とともに過ごせるというのに」

ペリカーノ卿は小径の途中で止まりました。
「この先は普通の観光客には分からない道となっております」
そう言うとペリカーノ卿は、とても道とは思えないような木々の間の空間にを進めていきました。私たちもそれに続きました。
この森自体ゆるやかな登り傾斜になっていましたが、そこから先はさらに傾斜がきつくなり、先生も私もいつしかハァハァと荒い息をするようになりました。
「もう少しです。頑張ってください。さあこちらです」
そこは木々の生えていない開けた空間になっていました。ジムのプールくらいの広さはありそうです。
そこに木製の大きな長方形のテーブルがしつらえてありました。ただこんなにも大きなテーブルなのに、椅子は2脚しかありません。すぐに気づきました。椅子が必要なのは先生と私だけです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

【運命】と言われて困っています

桜 花音
児童書・童話
小6のはじまり。 遠山彩花のクラスである6年1組に転校生がやってきた。 男の子なのに、透き通るようにきれいな肌と、お人形さんみたいに、パッチリした茶色い瞳。 あまりにキレイすぎて、思わず教室のみんな、彼に視線が釘付けになった。 そんな彼が彩花にささやいた。 「やっと会えたね」 初めましてだと思うんだけど? 戸惑う彩花に彼はさらに秘密を教えてくれる。 彼は自らの中に“守護石”というものを宿していて、それがあると精霊と関われるようになるんだとか。 しかも、その彼の守護石の欠片を、なぜか彩花が持っているという。 どういうこと⁉

オバケの謎解きスタンプラリー

綾森れん
児童書・童話
第3回きずな児童書大賞 奨励賞をいただきました! ありがとうございます! ――七不思議を順番にめぐると、最後の不思議「大階段踊り場の鏡」に知らない自分の姿が映るんだって。 小学六年生の結菜(ユイナ)が通う三日月(みかづき)小学校では、そんな噂がささやかれていた。 結菜は難関中学に合格するため、塾の夏期講習に通って勉強に励んでいる。 だが一方で、自分の将来にひそかな期待と不安をいだいてもいた。 知らない自分を知りたい結菜は、家族が留守にする夏休みのある夜、幼なじみの夏希(ナツキ)とともに七不思議めぐりを決意する。 苦労して夜の学校に忍び込んだ二人だが、出会うのは個性豊かなオバケたちばかり。 いまいち不真面目な二宮金次郎のブロンズ像から、二人はスタンプラリーの台紙を渡され、ルールを説明される。 「七不思議の謎を解けばスタンプがもらえる。順番に六つスタンプを集めて大階段の鏡のところへ持って行くと、君の知らない君自身が映し出されるんだ」 結菜と夏希はオバケたちの謎を解いて、スタンプを集められるのか? そして大階段の鏡は二人に何を教えてくれるのか? 思春期に足を踏み入れたばかりの少女が、心の奥底に秘めた想いに気付いてゆく物語です。

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】

猫都299
児童書・童話
沼田海里(17)は幼馴染でクラスメイトの一井柚佳に恋心を抱いていた。しかしある時、彼女は同じクラスの桜場篤の事が好きなのだと知る。桜場篤は学年一モテる文武両道で性格もいいイケメンだ。告白する予定だと言う柚佳に焦り、失言を重ねる海里。納得できないながらも彼女を応援しようと決めた。しかし自信のなさそうな柚佳に色々と間違ったアドバイスをしてしまう。己の経験のなさも棚に上げて。 「キス、練習すりゃいいだろ? 篤をイチコロにするやつ」 秘密や嘘で隠されたそれぞれの思惑。ずっと好きだった幼馴染に翻弄されながらも、その本心に近付いていく。 ※現在完結しています。ほかの小説が落ち着いた時等に何か書き足す事もあるかもしれません。(2024.12.2追記) ※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。(2024.12.2追記) ※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ノベルアップ+、Nolaノベル、ツギクルに投稿しています。 ※【応募版】を2025年11月4日からNolaノベルに投稿しています。現在修正中です。元の小説は各話の文字数がバラバラだったので、【応募版】は各話3500~4500文字程になるよう調節しました。67話(番外編を含む)→23話(番外編を含まない)になりました。

処理中です...