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谷間での休暇
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「今日の診察はこれでおしまい。おしまいですよ!」
メティスはそう叫びながら診察室の中を飛び回りました。メティスはもう本当に治療を必要とする患者はおらず、ただ先生見たさに繰り返しやってくる鳥が大半であることを見抜いていたのです。
お昼にはまだ時間がありました。
「ハンナくん。お弁当を持って出かけてみようか?」
「え?」
「せっかくこんな南の国まで来たのにホテルの中だけじゃつまらないだろ? 動物の治療は私が好きでやっていることだがハンナくんまで手伝わせて申し訳なかった」
先生は早速地元の鳥からお勧めの観光スポットを訊き始めました。そしてホテルのカウンターに電話をして何やら色々と話していました。
しばらくして電話を切ると、先生は言いました。
「車を回してもらえることになった。ランチはサンドイッチでいいね? それもすぐに作ってくれるらしい」
私は大慌てで準備を始めました。
「鳥たちがお勧めしてくれたところはどうも鳥の羽根がないといけないところばかりのようだが、その中で唯一車で行けそうなところがあったよ。草原とお花畑が広がっている谷があるらしい。そこへ行ってみよう」
目的地にはホテルの車で向かいました。ホテルの人がドライバーになってくれました。
「セランです」
「ジョンです。本当にいいんですか?」
先生が握手をしながら尋ねると、
「今の時期はお客さんが少ないので大丈夫ですよ。ずっとホテルのカウンターにいるより断然気晴らしになりますから。それにあの場所は私も好きなんです」
車で1時間ほど走ると、セランさんが車を停めました。そこには1軒の小屋が建っており、石でできた階段が小屋に向かって何段か続いていました。
「そこを上って小屋の反対側に出ると凄いものが見られますよ」
私と先生は言われたとおりにしました。そこに広がっていたのは今まで見た中で最も美しい景色でした。
目の前には巨大なお椀をくり抜いたような形の谷が広がっていました。その平たい谷底にはお花畑が広がっていて、それがその先の山々に向かって少しずつ上っていくので、まるで目の前が全て花で埋め尽くされたようです。
その先には頂きに雪を被った峰が連なっており、雪の白さと花の艶やかさが素晴らしいコントラスになっていました。
「山のあの辺りで植物が生えなくなっているでしょう? あれを森林限界と言うんです。あの線を越えて成育できるのはハイマツくらいで、後は岩場が続いているだけです。この辺りは熱帯ですが結構標高が高いんです。だから季節によって様々な景色を見ることができる」
「本当に綺麗」
「秋の紅葉も素晴らしいですよ。またその頃に来てください」
私は先生の方に目を向けました。パロは私たちの国からとても遠くて、実際にはなかなか来ることができないからです。
「こんなにも美しいところでしたら、移住してくる人も多いんじゃないですか?」
先生がセランさんに尋ねました。セランさんは一瞬ギョッとした表情を浮かべました。けどすぐに元の顔に戻り、こう答えました。
「実際私の友人でパロに移住してきた人もいるんですが、なかなか私にはそこまで踏ん切りが付きません」
「住むとなると不便なこともあるんでしょう」
先生が言うと、セランさんはしばらく間を置いてから答えた。
「ええ、そうなんです」
セランさんは谷のあちこちを指差しながら、見所を教えてくれた。
「あの辺りには泉が湧いています。そこから小さな水路ができています。飲めますよ。少し坂を上りますが、あの辺りは見晴らし台のようになっていて、ある程度平らな部分があります。ランチを取るにはいいと思います」
ジョン先生はそうすると答えました。
「私はもうホテルに戻ります。夕方になったらまた迎えにきますから、日が暮れる前にはこの小屋の辺りまで戻ってきてください」
私とジョン先生はまず教えてもらった見晴らし台に向かって歩き始めました。最初は良かったのですが坂は結構きつく、最後の方は登山のような感じでした。
ゼーゼー言いながら登り切ると、爽やかな風がにじみ出た汗をサッと乾かしてくれました。ここから見る谷の景色もまた素晴らしく、私はしばらく何も話せませんでした。
ホテルは森の陰に隠れて見えませんでしたが、王宮の森はあの辺りじゃないかなというところも見えました。
ランチの後、先生は見晴台でスヤスヤと寝入ってしまいました。日はポカポカと暖かく、私は先生をそのままにしてお花畑に向かいました。そこで私は花輪をいくつか作りました。(セランさんは花を摘んでもいいと言っていたので)
鳥はこんなもの喜ばないかなと思いながらも、メティスやピッコロにあげるための小さめの花輪も作りました。
午後の時間はあっという間に過ぎていき、私たちは暗くなる前に小屋に向かって道を戻り始めました。小屋に着いてしばらくするとセランさんがまた車でやって来ました。
丁度そのとき太陽が山の稜線に吸い込まれていきました。
「凄い......」
そのとき見た夕焼けはとても鮮烈なオレンジ色で、その光を浴びて花たちも夜の前にもう一度輝きました。
「そろそろ行きましょうか?」
セランさんの声に促されて私とジョン先生は車に乗り込みました。
メティスはそう叫びながら診察室の中を飛び回りました。メティスはもう本当に治療を必要とする患者はおらず、ただ先生見たさに繰り返しやってくる鳥が大半であることを見抜いていたのです。
お昼にはまだ時間がありました。
「ハンナくん。お弁当を持って出かけてみようか?」
「え?」
「せっかくこんな南の国まで来たのにホテルの中だけじゃつまらないだろ? 動物の治療は私が好きでやっていることだがハンナくんまで手伝わせて申し訳なかった」
先生は早速地元の鳥からお勧めの観光スポットを訊き始めました。そしてホテルのカウンターに電話をして何やら色々と話していました。
しばらくして電話を切ると、先生は言いました。
「車を回してもらえることになった。ランチはサンドイッチでいいね? それもすぐに作ってくれるらしい」
私は大慌てで準備を始めました。
「鳥たちがお勧めしてくれたところはどうも鳥の羽根がないといけないところばかりのようだが、その中で唯一車で行けそうなところがあったよ。草原とお花畑が広がっている谷があるらしい。そこへ行ってみよう」
目的地にはホテルの車で向かいました。ホテルの人がドライバーになってくれました。
「セランです」
「ジョンです。本当にいいんですか?」
先生が握手をしながら尋ねると、
「今の時期はお客さんが少ないので大丈夫ですよ。ずっとホテルのカウンターにいるより断然気晴らしになりますから。それにあの場所は私も好きなんです」
車で1時間ほど走ると、セランさんが車を停めました。そこには1軒の小屋が建っており、石でできた階段が小屋に向かって何段か続いていました。
「そこを上って小屋の反対側に出ると凄いものが見られますよ」
私と先生は言われたとおりにしました。そこに広がっていたのは今まで見た中で最も美しい景色でした。
目の前には巨大なお椀をくり抜いたような形の谷が広がっていました。その平たい谷底にはお花畑が広がっていて、それがその先の山々に向かって少しずつ上っていくので、まるで目の前が全て花で埋め尽くされたようです。
その先には頂きに雪を被った峰が連なっており、雪の白さと花の艶やかさが素晴らしいコントラスになっていました。
「山のあの辺りで植物が生えなくなっているでしょう? あれを森林限界と言うんです。あの線を越えて成育できるのはハイマツくらいで、後は岩場が続いているだけです。この辺りは熱帯ですが結構標高が高いんです。だから季節によって様々な景色を見ることができる」
「本当に綺麗」
「秋の紅葉も素晴らしいですよ。またその頃に来てください」
私は先生の方に目を向けました。パロは私たちの国からとても遠くて、実際にはなかなか来ることができないからです。
「こんなにも美しいところでしたら、移住してくる人も多いんじゃないですか?」
先生がセランさんに尋ねました。セランさんは一瞬ギョッとした表情を浮かべました。けどすぐに元の顔に戻り、こう答えました。
「実際私の友人でパロに移住してきた人もいるんですが、なかなか私にはそこまで踏ん切りが付きません」
「住むとなると不便なこともあるんでしょう」
先生が言うと、セランさんはしばらく間を置いてから答えた。
「ええ、そうなんです」
セランさんは谷のあちこちを指差しながら、見所を教えてくれた。
「あの辺りには泉が湧いています。そこから小さな水路ができています。飲めますよ。少し坂を上りますが、あの辺りは見晴らし台のようになっていて、ある程度平らな部分があります。ランチを取るにはいいと思います」
ジョン先生はそうすると答えました。
「私はもうホテルに戻ります。夕方になったらまた迎えにきますから、日が暮れる前にはこの小屋の辺りまで戻ってきてください」
私とジョン先生はまず教えてもらった見晴らし台に向かって歩き始めました。最初は良かったのですが坂は結構きつく、最後の方は登山のような感じでした。
ゼーゼー言いながら登り切ると、爽やかな風がにじみ出た汗をサッと乾かしてくれました。ここから見る谷の景色もまた素晴らしく、私はしばらく何も話せませんでした。
ホテルは森の陰に隠れて見えませんでしたが、王宮の森はあの辺りじゃないかなというところも見えました。
ランチの後、先生は見晴台でスヤスヤと寝入ってしまいました。日はポカポカと暖かく、私は先生をそのままにしてお花畑に向かいました。そこで私は花輪をいくつか作りました。(セランさんは花を摘んでもいいと言っていたので)
鳥はこんなもの喜ばないかなと思いながらも、メティスやピッコロにあげるための小さめの花輪も作りました。
午後の時間はあっという間に過ぎていき、私たちは暗くなる前に小屋に向かって道を戻り始めました。小屋に着いてしばらくするとセランさんがまた車でやって来ました。
丁度そのとき太陽が山の稜線に吸い込まれていきました。
「凄い......」
そのとき見た夕焼けはとても鮮烈なオレンジ色で、その光を浴びて花たちも夜の前にもう一度輝きました。
「そろそろ行きましょうか?」
セランさんの声に促されて私とジョン先生は車に乗り込みました。
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