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戦う聖女、爆誕!
しおりを挟むギュボオォォォォォォォォォォォォォーーーーー!!!
唸り挙げて渦巻いていた黒い竜巻は、私の放った波動拳?を真正面から受けて、霧散した。
ちょっとばかり(ええ、ほんのちょっとですよ。山の形が変わったなんてそんなことはないんですよ)森をえぐってしまったようで、痛々しい山肌が波動の軌跡を物語っている。残された木々はそよ風に吹かれ、空には真っ青な青空が広がっていた。
えぐられた痕さえなければ、ハイジが駆け降りてきそうな山だったわ。
アレ、私のせいかしら。それとも竜巻のせいかしら。
この山、国立公園とかじゃないわよね?
自然破壊とかで起訴されたりしないよね?
「ほう…やるな」
いや、ほうって。何やらすのよ!
現実逃避して開いていた口を慌てて閉じ、我に戻った私はハッとして立ち上がり、着物の裾を直した。自分で着付けできないからね。乱れたら困っちゃうのよ。着物で大股開きとか、恥ずかしい真似したわ。大正袴なら良かったのに。と屈み込んだところで肩に痛みが走った。
いったーー!!!
あれか。猟銃とか、ちゃんと脇を締めて構えないと反動で肩外すとかあるって聞く。
脱臼はしていないようで動く。フウ。くだらないとかにして嘲笑っておいて、肩外していたり、鎖骨折ってたりしたら恥ずかしい限りだもんね。
脱臼って戻すのめっちゃ痛いんだよね?波動拳?は二度と使わないでおこう。自分大事。うん。
「す、素晴らしい。聖女様。我々は間違ってはいなかった…」
え、素晴らしいの…?山削っちゃったけど?いいの?
「聖女、名はなんという?」
黒マントがニヤリと口角を上げて私を見た。うわ。嘲笑ったの、気づいてたのかしら。
つい、ノリで形作って怪我するとか。めっちゃ恥ずかしいんだけど。
「聖女じゃないですけどね。宮崎雅美と言います。」
「ミヤジャキマチャミ……長い名だな。舌を噛みそうだ」
噛んでる。思いっきり。
「おお。ミミ様ですね」
ちょっと、神官様。勝手に愛称つけないでよ。最初と最後の言葉くっつけただけじゃん!
名字が宮崎、名が雅美だと正そうかとも思ったが、あまり関わり合いになりたくもない。どうせすぐに帰してもらえれば、どう呼ばれようと構ったことではない。
「そういう、黒マントのあなたは名乗らないのかしら?」
「ああ……。俺はムスターファ。ムスターファ・アッサム・ベルモンテという。魔導師だ」
ムスターファ・アッサム・ベルモンテ。紅茶なんだか、ケチャップなんだか色々ごった混ぜな名前だわ。美味しそうに聞こえるのは気のせいかしら。そういえば、ジャハールって名前もなんかアラビアンナイトとかに出てきそうな名前。悪役だったな。うん。
どうでもいいけど、こいつら信用ならない気がする。だいたい小説に出てくる召喚士とか、神官とか、魔法使いって腹黒なのが多いのよね。自分の非礼も詫びないし。
「ジャハール。ミミの肩を癒してやれ。それが終わったら俺についてこい」
「え」
「おや。先ほど転げた時に打撲でもしましたか。」
「あ、え、ええ。ちょっと右肩を」
「では、失礼して…」
ジャハールが手をかざすと、ぞくりと全身に鳥肌がたった。バチッと音がすると、ジャハールが吹き飛ばされた。
「ぎゃっ!」
「へ?」
一瞬の出来事に目を丸くした。ジャハールの体はドカッと音を立てて壁に打ち付けられ、どしゃっと崩れ落ちた。
「え…え?ちょ、ちょっと。大丈夫ですか?」
私何もしてないよ!
「ほう…やるな」
だーかーらー!ムスターファさん!何が『ほう、やるな』なのよ!私、何もしてないし!?
「おい、お前たち。ジャハールを宮殿へ連れて行け。治療師に治してもらってこい」
「「「は、はい!」」」
それまで、いるかいないかわからないほど存在を消していた神官たち?が、わらわらと現れてジャハールを担ぎ上げて行ってしまった。私は思わずオロオロして、走り去っていく人々を見送った。
………あれってやっぱり私のせい?
環境破壊行為と暴行罪?傷害罪?ええ、アクシデントとはいえ、私やばくない?
「あの…」
「ああ。気にするな。多分そうなるんじゃないかと思った。」
「え?」
「君が彼を信用していないからか、体が拒否反応を起こしたんだな」
「……拒否反応……」
「そうだ。お前が信用できると思った人間以外は触れることもできないのだろう。警戒結界というやつだな」
「ケイカイケッカイ。ケッコウケッタイナワザデスコト」
早口言葉か。漢字に変換しないとよくわからない言葉だわ。まあ、確かに信用はしていないけど、だからって張り倒すような真似をしたかったわけじゃないんだけど。
「おそらく、俺が治癒魔法をかけようとしても同じことになっただろうな」
あり得る。それで、ジャハールにやらせたわけか。確信犯め。
ってか、治癒魔法、あんたも使えるの?神官長、立場なくない?
「そんなわけだから自分で治せよ」
投げやりだなあ!おい。痛いの痛いのとんでけーって……あれ?自分で肩をさすったら、痛みが引いた?え?私すごくない?ってか、怖いよ、なにこれ。
「ふーん。治癒魔法も既に使いこなしてるわけか。さすがだな」
「あの、私帰りたいんですけど」
「無理だ」
うーわー。即答ですか。
「それより…ふむ。物は試しだ。ミヤジャキマチャミ。【我が名をもってその名を掴み我が命に従え】」
「……はあ?」
「跪け」
「……」
なにこいつ?何様のつもり?なに突然「跪け」とか言ってんの?
ってか、名前思っきし噛んでるんだけど。笑えるんですけど?
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