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ミヤザキマサミという聖女(後編):ジャハール視点
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私は好奇心でいっぱいだった。
成功だ。何も手を加えていないのに彼女はこの世界へ五体満足で降り立った。
言葉は通じるのだろうか。魔法は使えるのだろうか。
不安はある。壊れていたらどうしよう。
私の治療魔法で治せるか。
それとも、前聖女と同じで使い物にならないか。
声をかけると、聖女は肺にいっぱいの息を吸い込み、生まれたばかりの赤ん坊のように叫び声をあげた。
いや、どちらかというと、セイレーンかマンドラゴラのような叫びだった気もしないでもない。何せ、あまりの事に近くにあった柱にヒビが入った。音量もそうだが、叫びとともに魔力を吐き出したのだ。
爆風が私の身体を突き抜けた。うっかり魂が体から引き剥がされたような気がした。
すごい。こんな魔力の放出をして、まだ生きているなんて。
魔力管も繋げていなければ、体内器官も言語中枢も意識変換も私はノータッチで彼女を手放したというのに。時空間に落ちずに、ほんの数分の時差の後、場所もそれほど違えず、彼女自身で降臨した。
まるで自分で選んでここへ降り立ったかのように。
聖女は、生きて、ここに立って、魔力を身体中から放出している。
暴走しているのかと焦ったが、ムスターファが現れて彼女の魔力が落ち着いた。
なぜだ。
おそらくあいつは、彼女の溢れ出る魔力に気がついて、魔物が神殿に現れたのかと慌てたに違いない。聖女の魔力放出が治まったのは、ムスターファの魔力がバカみたいに飛び抜けているからだろうか。それにしても、あれだけ念魔や魔獣と戦っていながら、なお、ここまで瞬間移動できるだけの魔力を保持しているとは。さすが私の目標とする男、覇者の名を受け継ぐ男なだけある。
ともかく最悪の事態は免れたと思う。ムスターファには感謝しても仕切れない。
聖女の顔を見れば、ムスターファに見とれているようだった。ああ、何でそんな無防備な顔を…。まさかあの顔で聖女の魔力をなだめすかしたのか。
嫌な予感がした。
頼むから、色恋に走って前回の聖女のようになってくれるなと、思わず祈ってしまった。
だが、それは杞憂に終わった。
彼女はどうやら戦士のように気の荒い性格らしかった。美しい聖戦士。
まるでおとぎ話の月光兵のようだ。月の女神が誇る月光兵は、ただひたすらに美しく、氷のように冷酷で。
恐ろしいことに、新聖女は、ムスターファの浄化魔法の形を真似しただけで、とんでもない量の魔力を吐き出した。念魔が一瞬にして消え去った。というより、獰猛に襲いかかった聖魔力にバクリと食われた。今までに見たことのない狂暴なまでの聖魔法。従来の聖女の持つ癒しの聖魔法ではなく、闇を殲滅させんばかりの浄化魔法を使う聖女。
私は異世界ではなく、時空間で女神を呼び寄せてしまったのだろうか。この人は本当に人間なのか、わからなくなった。
爆音で鼓膜が破れるかと思うほどの凄まじい聖の力。聖女自身も吹っ飛んで、ひっくり返ったはずみで艶かしいふくらはぎがあらわになった。
聖職者にあるまじき行為だが、体が反応してしまい、私は慌てて目を逸らし神に赦しを請うた。
何ということだ。この私が女性の肌に反応するなんて。修行が足りない!
前回の聖女も太腿まで丸出しにした短いスカートを履いていて、それでも(破廉恥なと眉はしかめたが)何も感じなかったというのに。
あの美しい衣装からチラリと白い生足が見えただけで、こんな。
ぼけっとしていないで、とっとと隠して欲しいのに。気がつけば、近くにいた魔導師たちも、神官たちも、ムスターファまでが生足に釘付けになっていた。聖女だけが、削られた山を青ざめた顔で見ていた。
私はいたたまれなくなって、思わず自分のマントで彼女を包んでしまおうかと立ち上がったところで、全員が我に返ったようだ。そそくさと聖女は立ち上がり、裾を整えた。
かがんだ拍子に項から伸びた細い首筋が目に入り、白い腕に喉を鳴らし、全員が咳払いをしたり、そわそわと視線を泳がせた。神官たちはススッと壁際により、股間を押さえ気配を消していた。
ふっ……。皆、同じか。女神の力に抗えるものなどいるわけがない。この神官長である私でさえ惑わされるほどの魅了の力だ。抗えるはずもない。ムスターファが睨みをきかせているおかげで全員なんとか理性を保っている。
あの衣装がいけないのだ。肌を隠しまくっているくせに、動くたびに、チラリと見えてしまう。
聖女の履いている変わった靴は、足の指を二分にし、親指の付け根で二手に分かれて細い紐はやんわりとサイドで靴を支えている。あんなのでは走ることもできないだろう。白い靴下は足首までしかなく、そこから上がほんの少しだけ、ちらりちらりと動く度に見える。見せるのか、隠すのかどっちかにできないものか。
隠された足指がどんな甘さなのか舐めて……いやいやいや!私は何を!恐ろしい!煩悩退散!
気にし始めたら聖女の一挙一動、全員が固唾をのんで見守っていた。
彼女は私が連れてきたのだ。
私が責任をもって、この神殿で囲い込んで、ゲフンゲフン、聖女へと育て上げてみせよう。
さすがムスターファは立ち直りが早く、聖女と通常通りに会話を始めた。普段は無口なくせに。く…っ。羨ましいなどという負の感情は気がつかなかったことにする。
名前はミヤージャ……キマ…ミ、なんとか、という名前で、馴染みやすくするためにミミ様と名付けた。
苦痛に歪んだ表情を見て、ムスターファが聖女の異変に気がついた。どうやら肩を痛めたらしい。私が聖女の肩を直そうと近づいたところで、衝撃が私を襲い、私の意識はまたしても刈り取られた。
聖職者たるもの、煩悩を持ってその体に触れようとしたバチが当たったのだ。
神よ。お許しください。
成功だ。何も手を加えていないのに彼女はこの世界へ五体満足で降り立った。
言葉は通じるのだろうか。魔法は使えるのだろうか。
不安はある。壊れていたらどうしよう。
私の治療魔法で治せるか。
それとも、前聖女と同じで使い物にならないか。
声をかけると、聖女は肺にいっぱいの息を吸い込み、生まれたばかりの赤ん坊のように叫び声をあげた。
いや、どちらかというと、セイレーンかマンドラゴラのような叫びだった気もしないでもない。何せ、あまりの事に近くにあった柱にヒビが入った。音量もそうだが、叫びとともに魔力を吐き出したのだ。
爆風が私の身体を突き抜けた。うっかり魂が体から引き剥がされたような気がした。
すごい。こんな魔力の放出をして、まだ生きているなんて。
魔力管も繋げていなければ、体内器官も言語中枢も意識変換も私はノータッチで彼女を手放したというのに。時空間に落ちずに、ほんの数分の時差の後、場所もそれほど違えず、彼女自身で降臨した。
まるで自分で選んでここへ降り立ったかのように。
聖女は、生きて、ここに立って、魔力を身体中から放出している。
暴走しているのかと焦ったが、ムスターファが現れて彼女の魔力が落ち着いた。
なぜだ。
おそらくあいつは、彼女の溢れ出る魔力に気がついて、魔物が神殿に現れたのかと慌てたに違いない。聖女の魔力放出が治まったのは、ムスターファの魔力がバカみたいに飛び抜けているからだろうか。それにしても、あれだけ念魔や魔獣と戦っていながら、なお、ここまで瞬間移動できるだけの魔力を保持しているとは。さすが私の目標とする男、覇者の名を受け継ぐ男なだけある。
ともかく最悪の事態は免れたと思う。ムスターファには感謝しても仕切れない。
聖女の顔を見れば、ムスターファに見とれているようだった。ああ、何でそんな無防備な顔を…。まさかあの顔で聖女の魔力をなだめすかしたのか。
嫌な予感がした。
頼むから、色恋に走って前回の聖女のようになってくれるなと、思わず祈ってしまった。
だが、それは杞憂に終わった。
彼女はどうやら戦士のように気の荒い性格らしかった。美しい聖戦士。
まるでおとぎ話の月光兵のようだ。月の女神が誇る月光兵は、ただひたすらに美しく、氷のように冷酷で。
恐ろしいことに、新聖女は、ムスターファの浄化魔法の形を真似しただけで、とんでもない量の魔力を吐き出した。念魔が一瞬にして消え去った。というより、獰猛に襲いかかった聖魔力にバクリと食われた。今までに見たことのない狂暴なまでの聖魔法。従来の聖女の持つ癒しの聖魔法ではなく、闇を殲滅させんばかりの浄化魔法を使う聖女。
私は異世界ではなく、時空間で女神を呼び寄せてしまったのだろうか。この人は本当に人間なのか、わからなくなった。
爆音で鼓膜が破れるかと思うほどの凄まじい聖の力。聖女自身も吹っ飛んで、ひっくり返ったはずみで艶かしいふくらはぎがあらわになった。
聖職者にあるまじき行為だが、体が反応してしまい、私は慌てて目を逸らし神に赦しを請うた。
何ということだ。この私が女性の肌に反応するなんて。修行が足りない!
前回の聖女も太腿まで丸出しにした短いスカートを履いていて、それでも(破廉恥なと眉はしかめたが)何も感じなかったというのに。
あの美しい衣装からチラリと白い生足が見えただけで、こんな。
ぼけっとしていないで、とっとと隠して欲しいのに。気がつけば、近くにいた魔導師たちも、神官たちも、ムスターファまでが生足に釘付けになっていた。聖女だけが、削られた山を青ざめた顔で見ていた。
私はいたたまれなくなって、思わず自分のマントで彼女を包んでしまおうかと立ち上がったところで、全員が我に返ったようだ。そそくさと聖女は立ち上がり、裾を整えた。
かがんだ拍子に項から伸びた細い首筋が目に入り、白い腕に喉を鳴らし、全員が咳払いをしたり、そわそわと視線を泳がせた。神官たちはススッと壁際により、股間を押さえ気配を消していた。
ふっ……。皆、同じか。女神の力に抗えるものなどいるわけがない。この神官長である私でさえ惑わされるほどの魅了の力だ。抗えるはずもない。ムスターファが睨みをきかせているおかげで全員なんとか理性を保っている。
あの衣装がいけないのだ。肌を隠しまくっているくせに、動くたびに、チラリと見えてしまう。
聖女の履いている変わった靴は、足の指を二分にし、親指の付け根で二手に分かれて細い紐はやんわりとサイドで靴を支えている。あんなのでは走ることもできないだろう。白い靴下は足首までしかなく、そこから上がほんの少しだけ、ちらりちらりと動く度に見える。見せるのか、隠すのかどっちかにできないものか。
隠された足指がどんな甘さなのか舐めて……いやいやいや!私は何を!恐ろしい!煩悩退散!
気にし始めたら聖女の一挙一動、全員が固唾をのんで見守っていた。
彼女は私が連れてきたのだ。
私が責任をもって、この神殿で囲い込んで、ゲフンゲフン、聖女へと育て上げてみせよう。
さすがムスターファは立ち直りが早く、聖女と通常通りに会話を始めた。普段は無口なくせに。く…っ。羨ましいなどという負の感情は気がつかなかったことにする。
名前はミヤージャ……キマ…ミ、なんとか、という名前で、馴染みやすくするためにミミ様と名付けた。
苦痛に歪んだ表情を見て、ムスターファが聖女の異変に気がついた。どうやら肩を痛めたらしい。私が聖女の肩を直そうと近づいたところで、衝撃が私を襲い、私の意識はまたしても刈り取られた。
聖職者たるもの、煩悩を持ってその体に触れようとしたバチが当たったのだ。
神よ。お許しください。
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