【R18】鏡の聖女

里見知美

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円満な力関係1:ムスターファ視点

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 この国において、魔力は何よりも評価される。国王はもちろんのこと、この国のトップに立つべく人間は血筋に関係なく魔力第一主義のはずだった。それが、違うのだと教えられたのは俺が10歳の時だった。

 国王の魔力はなきに等しい。王宮魔導師団が全てを補っているからこそ、成り立っているのが我が神国だ。神は既に去り、この国の終わりは近い。その前に隣国へ今のうち逃れた方が良い。

 どこからか流れてきた噂。

 俺は生まれた時から、かなりの魔力を有していて、5歳になる頃には特別施設で生活をし、力ある立場に立つための教育を施されていた。国の歴史をはじめとする座学、剣技から作法、魔法において地位のある師から学び、俺自身も常に意識向上を図ってきた。

 俺の出身の村は貧しく、物流も少なかった。冬は厳しく夏は暑い。せめて物流が盛んならば、この村も冬を越せるのに、待てども暮らせども生活は変わらなかった。俺は物心がついた頃から一人で親の顔も知らない。それでも俺が育った村はそんな奴らがたくさんいたせいで、全員が家族のように助け合って生きてきた。
 俺は魔力が高いせいもあって、狩りが得意だったし、火をおこしたり水を出したりといった生活魔法も問題なくできた。尽きることのない魔力を分け与え、村の人々を俺なりに守り、支えてきた。だがある冬、何日も続くブリザードで村は隔離され、寒さを凌げない家や老人、弱い者からが次々と死んでいった。食べるものもなくなり、狩りにすら行けず、雪を食べ、塩を舐め、木の根を食べて俺は一人生き残った。

 3ヶ月間のブリザードから解放された俺は、弱った体に鞭を打ち、旅に出た。運よく商人の馬車に助けられ、護衛で付いていた戦士が俺の魔力を見初め、大きな街へと俺を連れて行った。特別施設で常識を学んだ後、神殿で魔力検査をしたが上限が掴めないまま、俺は王宮魔導師団へと入れられた。歴史上最年少で10歳の時だった。

 それからは魔導師団と施設による特訓に次ぐ特訓、勉強に次ぐ勉強で無我夢中で5年が過ぎた。その中で知り合ったジャハールは俺より二つばかり上だったが、魔力の質が似ていることから仲良くなった。
 そしてジャハールに教えられた。今の王族はクズばかりで、法を変え、権力を我が物にしているのだ、と。

 ジャハールの出身も俺の村と似たようなものだった。死病が蔓延したにもかかわらず、見捨てられた。ジャハールはその経験で光魔法を発揮し、助かった村人と共に王都へ逃げた。そこで生活をするために、有料で光魔法で回復などを施していたところを見つけられ、特別施設に送られた。

 俺とジャハールは部屋を共にし、互いに学び牽制しあったが、もともと狩りなどで活動的だった俺と、光魔法に特化したジャハールと体格の差はどんどん広がっていき、奴は魔導師より神官を目指し、道を分けた。

 それでも、魔導師と神官は共同で討伐をする機会も多く、俺とジャハールの絆は親友へと変わっていった。俺たちは王族とはできる限り距離をおきながらも、現況を見つめ、やはり王族はクズばかりでこの国は腐りきっていると結論づいた。

 それからさらに5年が過ぎ、俺とジャハールの魔力は右へ出るものがいないほど成長した。ジャハールは光属性と水属性を好み、治癒や聖魔法を得意とし穏やかな性格からか、副神官長へと順調に進んでいった。俺は神殿の中に篭るよりも、外に出ていた方が性格的にもあっており、同じように聖魔法も使うが、治癒や回復より攻撃に特化していった。

 俺はいずれ王になり、国を豊かにできると信じていた。だからこそ血を吐くような訓練にも耐え、礼儀作法や政治についても学んだというのに。

 魔導師として頭角を現し始めた頃、王になれるのはその血筋の者だけだと団長に言われた。たとえ能力がなくても、魔力が少なくとも王子が王になることは変えられないのだと。それが、いつの間にか歴史の中で塗り替えられた虚だとしても、それを覆すだけの人がいなかった。

 だが、王族の力は次第に弱まり、現王の無能力さと横暴な政治に国民の苛立ちは次第に大きくなっていった。

 いつの間にか俺は特務1課の団長へと押し上げられ、魔力と剣技で俺の右に出る者はいなくなった。

 王にならずとも、人々を豊かにすることはできる。手助けをすることはできる。俺は国の隅々まで飛び回り、道を整え水路を整え、薬師を育て、魔力のある人間に知恵を与えた。
 王都を離れれば離れるほど、俺たちの力は必要とされ、王族や国に不満を持つ人が増えていった。そういった不平不満は大気に気散する魔力に募りやすくなる。負の念は魔力に宿り、病や災害を起こすため、それを解消させるのが特務1課の仕事だった。

 成人してから、実に倍の年数を国中を飛び回ることで過ごしてきた。ジャハールから聖女という存在も何度か耳にしたが、関わり合いになる機会もなく、ただ聖なる魔法で国を助ける存在だと理解していた。そして、それが王都に限った存在だということも。それもあってか、俺たち特務1課は王都には近寄らず、辺境地を中心に討伐をしながら転々としていた。

 それが、覆されたのが前聖女のスキャンダルだった。聖女として呼び出されたのにも関わらず浄化ができず、王子を誑かし淫魔へ変えてしまったと。

 なんだそりゃ、と内心笑った。

 聞けばジャハールが呼び出した初めての聖女だったらしい。もちろん聖女の問題はジャハールのせいではなく、あの役にも立たない自堕落な王子のせいだろうが、あの能無しの王族はおそらくジャハールを糾弾するんだろうなと予想を立て、俺は久々に王都へ戻った。

 ひどいものだった。王都だというのに、辺境地よりも荒れ果てている。周囲の空気は念魔で濁り、国民は疲弊し、病が溢れ、浮浪者で溢れかえっていたのだ。
 貴族の坊ちゃんだけで作られた特務2課は何をしているんだ!自分たちの小さな領域すら守れないのか。

 聞けば奴らは自分たちの領地を守ることに専念し、王都はほったらかしになっているらしい。俺の部下は国民を助けるため四散し、小さな念魔を霧散させながら神殿に向かった。

 そこでジャハールから、聖女の治療依頼を請け負った。聖女の魔力が凄まじく、医療部隊の特務3課ですら手に負えないというのだ。ジャハールの魔力と見合った力の持ち主なら当然と言えば当然だった。

 初めて見た聖女は、第一王子の部屋に監禁されていた。牢に繋いだと聞いていたが、やはりこんなところかとウンザリした。暴れに暴れて、牢に繋ぐよりもアルフォンソ王子の匂いに浸しておいたほうがマシということだった。

 聖女は18歳になるかならないかの女だったが、実年齢より若く見え、腰まで伸びた長い黒髪となけなしの布を身につけただけで、だらしなくソファーに身を投げ出していた。そして俺を見るなり目を輝かせ、あらわになった自分の胸を揉み始めた。

 俺は固まった。これが、聖女?

『はあん……。お兄さん、触って…』

 薄紫色のもやが聖女から噴き出し、甘い匂いが鼻についた。これは、媚薬の匂いか?
 くそ第一王子め。聖女の何を開発したんだ。

 そもそも持っていた力なのか、後から開発されたものなのかわからないが、魔力の少ない王子はこれに当てられたんだと頭が痛くなった。もっと早くにわかっていたら淫魔などになる前に対処できただろうに。

 俺は、なるべく傷をつけないように聖女に清浄魔法をかけた。ついでに結界魔法を自分にかける。状態異常を防止するためだ。

『ああん、だめ、よ。そんなの、しないで。触って欲しいの。お願い』

 だめだ。この聖女自体、淫魔になりつつある。俺はどうしたものかと考えつつ眉間にしわを寄せた。本当は触るのも嫌だ。垂れ流しの媚薬の匂いは甘ったるくて吐きそうになる。
 だが、本来は聖女であるこの女の魔力に対抗できるのは、俺かジャハールぐらいしかいないだろうし、治療も無理だろう。面倒臭いことになった。

『お願い。辛いの。助けて……。シて』

 ジャハールは聖職者で聖行為は禁じられているし、こんな聖女の姿を見たらおそらくパニクるだろうな。俺が身じろぎもせず聖女を見下ろしていると、とうとう自慰をはじめ、クチュクチュと水音がし始めた。

『アルフォンソさまぁ……』

 この女…。有り余る魔力を放出せず、魔力の少ない第一王子につきっきりになってしまったがため、魔力循環がうまくいかず、王子を魔力漬けにしてしまったというあたりか。放出されない魔力で酔ってる状態だ。

 そりゃあ疼いて仕方ないだろうな。だが、それならやりようはある。助けられるかもしれない。

 俺は清浄魔法を自分に纏い、聖女に近づいた。

『辛いか。』
『うん、辛いの…。助けて。お願い』
『……今楽にしてやる。だが一つだけ約束がある』
『ん。なんでも聞く。だから……シて?』
『俺からは触れるが、お前は俺に触れられない。それでもいいか』
『え?触っちゃダメなの?』
『そうだ。これからお前の両手を縛る。だから俺に触れることはできないし、それができなければ、お前を助けることは出来ない』
『わ、わかった。大丈夫。触らない』
『よし』

 俺はベルトを外し、聖女の両手を縛りあげた。




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