ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美

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シンファエルの憂い⑤

 私は王子なのに、まるで手に入らない孤高の花を指を咥えてみている気分になって、イライラしてアルヴィーナ嬢に近づいた。

「アルヴィーナ!私を無視して学園に登校するとは何事だ!」
「はい?」
「お、お前はこれから王宮に住んで、私と一緒に通学する。わかったな!」

 私の婚約者なんだから、私の言うことを聞いて当たり前だろう。
 なんでそんな冷めた視線を向けるんだ。

「お言葉ですが、殿下。私はあなたの婚約者になってすぐ、王妃様の勧めで王宮に住まいを移しております。すでに三ヶ月も経っていましてよ。わたくしと共に通学なさるのでしたら、あと1時間は早くお目覚めくださいませ。王子ともあろうお方が、始業時間ギリギリに登校するなど、恥ずべきですわ。率先垂範してくださいませ。それから親しき仲にも礼儀ありと言います。名前呼びならまだしも、お前呼びは受け入れられませんわ。改めてくださいまし」
「な、なんだと?」

 情報が多すぎて訳がわからない!

 えっと、すでに王宮にって、よく見かけると思ったら王宮に住んでいたのか。
 母上も誰もそんなこと教えてくれなかった!
 私は朝8時には起きているぞ!お前は一体何時に目覚めるんだ!?

 あと、恥ずべき行為と言ったか?始業より早く来ただろう!
 なんの問題があると言うんだ?
 そのソッセンスイハンとはなんだ!

「き、今日はおま……そなたを待っていたために遅くなったんだ!」
「まあ、そうでございましたか。それは失礼いたしました。わたくし、学園に入学して以来三ヶ月、朝は6時から騎士科の皆様とお稽古をこなし、その後で園芸部のお手伝いをしていますので、始業の2時間前には学園に来ていますの。殿下もご一緒にいかがですか?」

 だから何時に起きてるんだよ?!

「騎士科?男に混じって何をしているんだ」
「お稽古と申しました。走り込みや素振り、剣技の訓練ですわ。それに騎士科の皆様は、男性ばかりではありませんことよ?お城にも女性騎士の方がいらっしゃるでしょう?」

 そんなこと知らなかった。騎士は男で、女は侍女だと思っていた。

「こ、これからそれは禁止する!くだらない土いじりもなしだ!」
「殿下、それは横暴というものです。わたくしにも学園では共に学び、教育を受ける義務があるのですから立場は同じ。わたくしはこれでも殿下をお支えするために、妃教育も真面目に取り組んでおりますし、国のため役に立つことは全て覚えたいと思っているのです。

 殿下は、土いじりと卑下されますが、美しい花を咲かせるには土壌の手入れは大事ですし、美味しい野菜も土が悪くては育ちません。草木を育てることは一昼一夜ではできませんから、こうして毎日手入れをしなければならないのですよ。

 それは国についても同じことが言えます。『ローマは一日にして成らず』という言葉を賢者の書で読み、感銘を受けましたわ。人々に関心を持たねば、人々も関心を寄せません。お芋を…いえ、国を作るためには、こうした日々の努力が必要だということです」

 私も含め、周りにいた人間は皆ぽかんとした顔をした。

 何を言っているんだか、半分も理解できなかった。
 賢者の書?あの汚い字で書かれた本か。
 古語だと父上は言っていたが、いつの間に読めるようになったのだ?訳書でもあるのか?

は一日にしてならず』?なんの隠語だ?一日では馬を慣らすことは出来ないということか?
 確かに馬とは心を通じ合わせなければ、慣れることは無いだろうが…。

 そこで始業10分前のベルが鳴り、アルヴィーナ嬢は見惚れるようなカーテシーをして自分の教室へと向かっていった。
 周囲にいた人たちも一人去り、二人去り、私だけが取り残された。

 私が間違っているのか、それともアルヴィーナ嬢がおかしいのか。


『一人の男として守る者も持たずに、国を任せることは出来ない』

 伯父上の言葉が蘇る。

 あの女は守る価値などないではないか。私が男として守れる女性を見つけないことには、私はいつまで立っても王子のまま。子供のままなのだ。

 だから私は―――。



 扉のノックの音で意識が現実に引き戻された。

 入室を促すとそこには簡素な服装をした金髪の男が立っていて、夏の海のような美しい青い瞳が細められたのを見た。

 その手にあるのは、麻のような網のような細長い乾いた物体と美しいガラスの小瓶だ。白っぽい粉末状のものが入っている。

「さあ、まずは服を脱ぎましょうか」

 私の元に突如として現れた男を目の前にして、私は冷や汗と共に後ずさった。




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