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天女の帰天
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結果として、魔法陣の書き換えは無事成功した。外輪の神聖魔法陣に手を入れずに済んだのが救いだった。ジャックがいかに神聖文字を読解出来ようとも、神聖文字を書き換えるには手間がかかる。一文字でも間違えれば何が起こるか未知だ。
内輪の古代アルヴィン語は古い言語とはいえ、大掛かりな魔法陣には使うことも多々あるし、メリアンも勉強をしていたこともあったためそれほど時間はかからなかった。
とは言え、流石に神界から降りてきた魔法陣だったからか、とてつもなく大きい。返送の魔法陣はできたものの、今度はそれに魔力を流さなければ機能しない。いつ時間停止が消えるのかもわからない今、魔力を空中に飛ばすより、自分が魔法陣に近づき直に魔力を流すほうが確かだろうということで、ジャックが転移を使おうと言った。
それには転移魔法を使い宙に出た先で浮遊魔法を使わなくてはならない。その上で聖魔法を魔法陣に流し込むとなるとかなりのコントロールが必要になる。
「連続的に転移魔法を使って空中維持をするか…魔力が持つかな」
転移魔法はそれなりに魔力を使う。普通の人なら一度使うと魔力を回復するまで数日は使えないという。ジャックが使う転移は数回ならば問題はないが、転移地点が視覚でしかわからない場合、意識が逸れたらどこへ転移するかわからない危険性を含む。
「翼でもあれば楽なのに」
メリアンがそう呟いたところで、いきなりメリアンの背中に真っ白な翼が生えた。
「ぎゃっ!?な、何?」
ズシリと背中に重みを感じてギョッとするメリアンを見て、ジャックが目を見開いた。
「め、メリー!どうやって翼を……っ!?」
時間停止が神様のギフトなのかと思ったが、この翼もギフトなのだろうか。ジャックが狂ったようにメリアンの周りをまわり、どういう仕掛けなのか、魔法陣や魔法の痕跡を調べようと躍起になっていたが、そんな暇はない。この翼、ものすごい勢いでメリアンの魔力を吸収しているのだ。
「ジャック!マテ!」
「しかしっ…!」
子犬を躾けるようにピッと指を指したメリアンに、ジャックはグルグルと喉を鳴らしながらも一歩引いた。
「今は時間との勝負でしょう」
「そ、それはそうだが、しかしっ」
「検証は後よ」
「だが!」
「ものすごい魔力を消耗してるのよっ!」
「うっ、………わかった」
この翼が誰からのギフトであろうと今は有難い。ジャックの魔力だって無尽蔵ではないのだ。使えるものならなんでも使おう、とメリアンは天を睨んだ。
「では、行って参ります」
前回とは違う場面で、同じ言葉を使った気がする、とメリアンはふと思う。あのときは黒部屋にいるティアレアに向き合うためだった。今回はどうだろう。ティアレアは落ち着いて話ができるだろうか。また泣き濡れているかもしれない。絶望しているかもしれない。早く、助けてあげないと。
「天女、鼻水に帰す」ってなんか気が抜けるけど…。
ふわりと宙に浮き器用に翼を動かすと、ジャックが眩しそうに目を細めた。
「メリー」
「な、なにかしら?」
「……本当に風切鳥みたいだ」
「ふふ。……そうね」
「気をつけて。何かあれば、俺も飛ぶ」
風を切り、真っ直ぐ飛び上がるとあっという間に魔法陣に辿り着き、ティアレアに近づいた。
眠っているように宙に横たわったティアレアはまるで女神のように輝いていたが、顔を覗き込んだメリアンは思わず息を呑んだ。
「……!?」
顔の造形ができていなかったのだ。
ティアレアの全身は人間っぽく模られてはいたが、女神レアーの鼻水から人間に形が変わりつつある状態だったのだ。ぬるりと濡れた体に手を胸の前で組んでいるように見えたが、腕と体はまだ融合したままで、指らしきものもなく。足もまだ飛沫のままで人魚のようにつながっていた。ちょうど目の部分が窪み始めた感じで鼻はただの突起、口は見る影もなく、ちょっとしたホラーだった。
「……見なければよかった」
メリアンは麗しい姿だったティアレアを思い出し胸を痛めたものの、まだ意識もなく形もないのなら、自我もなく。
それなら、知らない場所に落とされて恐れることも悲しむこともなく、ただ女神の鼻飛沫として天界に帰った方が良いだろう。涙が溢れたように見えたが、飛沫なのだから濡れてて当然かも知れない。
「さようなら」
ティアレア、と呼びかけたが、ふと女神が言った「名前は特別な加護」だというのを思い出し、言葉を飲み込んだ。
「受取人不明、送付先不明のため送付者へ返送しますわ、女神様。今度くしゃみをする際はきっちりハンカチーフをお使いくださいませ。<受取拒否返送>」
魔法陣が淡く光り、金色の魔力がティアレアを覆った。眩しさに思わず目を閉じると、その瞬間にティアレアの姿はなく魔法陣も霧のように薄れていった。
「終わった…のね?」
魔法陣のあった辺りを眺め、感慨に耽っていると下界が騒がしい事に気がついた。
止まっていた時間が動き出したようで、皆が皆メリアンを見上げていたのだ。
「え、ちょ、ちょっと。わたくし注目されてますの?」
それはそうだろう。魔法で空を飛ぶことはあれど、背中から翼を生やした人間など見たことがないのだ。このままどこかに飛び去ってしまいたいと思ったところで、突然翼が消えた。
「!?」
思う間も無く、メリアンは重力に従い落下を始めたのだ。
「嘘……死ぬ!?」
ティアレアは天に返し、もう世界崩壊の危機はない。つまりメリアンが再びループ地獄に落ちることはない、と思った矢先で空から落下。激突すれば無惨な死体となって地面に転がり、そして。
二度と蘇ることはない。
風を巻き起こそうと魔力を練るが、もう魔力もほとんど残っていないのと、パニックになっているのとで旋風すら起こらない。というか、落下速度が上がって……。
もうダメだというところで、ふわりと体が包まれた。
「メリー!」
「……ジャック?」
ガッチリと抱きとめたジャックの胸にメリアンの顔があった。高さは王宮の物見塔より高い、まだ宙に浮かんだ状態だ。
「重力無効の魔法だ。実は俺、闇属性が得意でね」
「……そういえば、そうよね。ブラックホールの魔法だって…」
「魔法陣が消えた途端にみんな動き出した。で、空に君が翼を広げて浮かんでいるから、天使降臨ってすごい騒ぎになってるんだけど」
「て…天使……」
「ひとまず、魔導宮に移動しようか」
「!それは、ダメ。まだ妊婦さんが。それに、教皇の悪巧みの証拠も、」
「全部、片付けた」
「えっ」
「君がティアレアを送り返してすぐ、広場に転移して盗人と例の男を捕獲した。カバンの中身も抜き取ったからここにこの通り」
「そうだ、亜空間に入れたものは?」
「残念ながら何一つ残っていなかった」
「はぁ…やっぱり。……でも、証拠はきっちり掴めたのね」
「そう。それに、ティアレアの降臨は無かったことにされたから、誰一人彼女の存在は覚えていない。報告も不必要だろう。ああ、いや。報告といえば、教皇のことで早急に手を打たなければいけないけど。それから、君の婚約者も捕縛して牢に入れてある」
「ええ?」
「聖騎士として有るまじき不純異性行為と麻薬保持の現行犯だ」
「麻薬!?」
魔法陣が切れてそれほど時間も経っていないのに、色々終わらせてしまったジャックの能力に驚愕する。妊婦とそのあたりの事件は理解できるが、ジョセフはどうやって捕まえたのか。
「どうやってジョセフを?」
「君が初めに撲殺されたっていっただろう?だからきっとまだ、あの辺の路地裏にいるんじゃないかと辺りをつけた。あいつも天を見上げて固まってたからね、捕縛は簡単に済んだし、一応意識も刈り取っておいたから」
「……えぇ?」
当然のように胸を張るジャックにメリアンは顔を引き攣らせた。ジョセフの一晩のお相手も共に捕縛したらしい。証拠は揃った。
「ええと………じゃあ魔導士宮に急ぎましょうか、ジャック」
「……」
「ジャック?」
「……もう少しだけ、このままで」
「え、ええ?ちょっと、あなた、何を言ってるの」
無言でメリアンを抱きしめたせいで、ジャックの鼓動が胸を突き破る勢いでメリアンの耳に届いた。それを意識してしまい、メリアンも真っ赤になる。
「メリーが好きだ」
唐突な告白にメリアンは顔を上げた。
「俺は、もうすぐ王宮魔導師団長に昇格する。後1年だ。そうなった時、俺の立場は君に値するだろうか?俺が、求婚するチャンスを貰えるだろうか?」
「き、求婚……っ」
「今の婚約者はもう終わりだ。叩けばまだまだきっと埃が出てくる。君には勿体無い。二度と顔を見る心配もしなくて良い」
そういうジャックの顔に、黒い笑みが浮かび上がる。
「教皇を引き摺り下ろして神殿の力が弱まれば、君のご両親だって聖騎士にこだわる必要はないと思う。婿養子になれというのなら、それでもいい。君が領主で俺がサポートする。なんなら魔導士団長の座もいらない」
「ジャ、ジャック…っ」
「翼を広げて空に浮かんだ君を、きっと町中の人間が見てた。きっとこれから求婚者が増えるだろう。なんたって天使が降臨したんだ。だけど俺は……メリーを誰にも渡したくない」
俯いて耳を真っ赤にさせたジャックにメリアンは思いのほかキュンとした。
何度も馬車を避けて一緒に転がり、助けてもらった。
抱きしめるその腕も、繋ぐその手も、大きくて優しい。柔らかく笑う笑顔も、心配して眉を下げるその顔も、拘束する魔法の優しさも、真っ直ぐ向ける恋慕の情も、メリアンの心を浮き立たせる。
魔術に夢中になるところも、ちょっと自慢げに胸を張るところも、絶望して泣きながらも容赦無くジョセフを握りつぶした魔王さながらの闇の深さも。
とうの昔に。
「バカね、ジャック。わたくし、もうずっとあなたに夢中なの。他の人なんて考えられないわ」
内輪の古代アルヴィン語は古い言語とはいえ、大掛かりな魔法陣には使うことも多々あるし、メリアンも勉強をしていたこともあったためそれほど時間はかからなかった。
とは言え、流石に神界から降りてきた魔法陣だったからか、とてつもなく大きい。返送の魔法陣はできたものの、今度はそれに魔力を流さなければ機能しない。いつ時間停止が消えるのかもわからない今、魔力を空中に飛ばすより、自分が魔法陣に近づき直に魔力を流すほうが確かだろうということで、ジャックが転移を使おうと言った。
それには転移魔法を使い宙に出た先で浮遊魔法を使わなくてはならない。その上で聖魔法を魔法陣に流し込むとなるとかなりのコントロールが必要になる。
「連続的に転移魔法を使って空中維持をするか…魔力が持つかな」
転移魔法はそれなりに魔力を使う。普通の人なら一度使うと魔力を回復するまで数日は使えないという。ジャックが使う転移は数回ならば問題はないが、転移地点が視覚でしかわからない場合、意識が逸れたらどこへ転移するかわからない危険性を含む。
「翼でもあれば楽なのに」
メリアンがそう呟いたところで、いきなりメリアンの背中に真っ白な翼が生えた。
「ぎゃっ!?な、何?」
ズシリと背中に重みを感じてギョッとするメリアンを見て、ジャックが目を見開いた。
「め、メリー!どうやって翼を……っ!?」
時間停止が神様のギフトなのかと思ったが、この翼もギフトなのだろうか。ジャックが狂ったようにメリアンの周りをまわり、どういう仕掛けなのか、魔法陣や魔法の痕跡を調べようと躍起になっていたが、そんな暇はない。この翼、ものすごい勢いでメリアンの魔力を吸収しているのだ。
「ジャック!マテ!」
「しかしっ…!」
子犬を躾けるようにピッと指を指したメリアンに、ジャックはグルグルと喉を鳴らしながらも一歩引いた。
「今は時間との勝負でしょう」
「そ、それはそうだが、しかしっ」
「検証は後よ」
「だが!」
「ものすごい魔力を消耗してるのよっ!」
「うっ、………わかった」
この翼が誰からのギフトであろうと今は有難い。ジャックの魔力だって無尽蔵ではないのだ。使えるものならなんでも使おう、とメリアンは天を睨んだ。
「では、行って参ります」
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「天女、鼻水に帰す」ってなんか気が抜けるけど…。
ふわりと宙に浮き器用に翼を動かすと、ジャックが眩しそうに目を細めた。
「メリー」
「な、なにかしら?」
「……本当に風切鳥みたいだ」
「ふふ。……そうね」
「気をつけて。何かあれば、俺も飛ぶ」
風を切り、真っ直ぐ飛び上がるとあっという間に魔法陣に辿り着き、ティアレアに近づいた。
眠っているように宙に横たわったティアレアはまるで女神のように輝いていたが、顔を覗き込んだメリアンは思わず息を呑んだ。
「……!?」
顔の造形ができていなかったのだ。
ティアレアの全身は人間っぽく模られてはいたが、女神レアーの鼻水から人間に形が変わりつつある状態だったのだ。ぬるりと濡れた体に手を胸の前で組んでいるように見えたが、腕と体はまだ融合したままで、指らしきものもなく。足もまだ飛沫のままで人魚のようにつながっていた。ちょうど目の部分が窪み始めた感じで鼻はただの突起、口は見る影もなく、ちょっとしたホラーだった。
「……見なければよかった」
メリアンは麗しい姿だったティアレアを思い出し胸を痛めたものの、まだ意識もなく形もないのなら、自我もなく。
それなら、知らない場所に落とされて恐れることも悲しむこともなく、ただ女神の鼻飛沫として天界に帰った方が良いだろう。涙が溢れたように見えたが、飛沫なのだから濡れてて当然かも知れない。
「さようなら」
ティアレア、と呼びかけたが、ふと女神が言った「名前は特別な加護」だというのを思い出し、言葉を飲み込んだ。
「受取人不明、送付先不明のため送付者へ返送しますわ、女神様。今度くしゃみをする際はきっちりハンカチーフをお使いくださいませ。<受取拒否返送>」
魔法陣が淡く光り、金色の魔力がティアレアを覆った。眩しさに思わず目を閉じると、その瞬間にティアレアの姿はなく魔法陣も霧のように薄れていった。
「終わった…のね?」
魔法陣のあった辺りを眺め、感慨に耽っていると下界が騒がしい事に気がついた。
止まっていた時間が動き出したようで、皆が皆メリアンを見上げていたのだ。
「え、ちょ、ちょっと。わたくし注目されてますの?」
それはそうだろう。魔法で空を飛ぶことはあれど、背中から翼を生やした人間など見たことがないのだ。このままどこかに飛び去ってしまいたいと思ったところで、突然翼が消えた。
「!?」
思う間も無く、メリアンは重力に従い落下を始めたのだ。
「嘘……死ぬ!?」
ティアレアは天に返し、もう世界崩壊の危機はない。つまりメリアンが再びループ地獄に落ちることはない、と思った矢先で空から落下。激突すれば無惨な死体となって地面に転がり、そして。
二度と蘇ることはない。
風を巻き起こそうと魔力を練るが、もう魔力もほとんど残っていないのと、パニックになっているのとで旋風すら起こらない。というか、落下速度が上がって……。
もうダメだというところで、ふわりと体が包まれた。
「メリー!」
「……ジャック?」
ガッチリと抱きとめたジャックの胸にメリアンの顔があった。高さは王宮の物見塔より高い、まだ宙に浮かんだ状態だ。
「重力無効の魔法だ。実は俺、闇属性が得意でね」
「……そういえば、そうよね。ブラックホールの魔法だって…」
「魔法陣が消えた途端にみんな動き出した。で、空に君が翼を広げて浮かんでいるから、天使降臨ってすごい騒ぎになってるんだけど」
「て…天使……」
「ひとまず、魔導宮に移動しようか」
「!それは、ダメ。まだ妊婦さんが。それに、教皇の悪巧みの証拠も、」
「全部、片付けた」
「えっ」
「君がティアレアを送り返してすぐ、広場に転移して盗人と例の男を捕獲した。カバンの中身も抜き取ったからここにこの通り」
「そうだ、亜空間に入れたものは?」
「残念ながら何一つ残っていなかった」
「はぁ…やっぱり。……でも、証拠はきっちり掴めたのね」
「そう。それに、ティアレアの降臨は無かったことにされたから、誰一人彼女の存在は覚えていない。報告も不必要だろう。ああ、いや。報告といえば、教皇のことで早急に手を打たなければいけないけど。それから、君の婚約者も捕縛して牢に入れてある」
「ええ?」
「聖騎士として有るまじき不純異性行為と麻薬保持の現行犯だ」
「麻薬!?」
魔法陣が切れてそれほど時間も経っていないのに、色々終わらせてしまったジャックの能力に驚愕する。妊婦とそのあたりの事件は理解できるが、ジョセフはどうやって捕まえたのか。
「どうやってジョセフを?」
「君が初めに撲殺されたっていっただろう?だからきっとまだ、あの辺の路地裏にいるんじゃないかと辺りをつけた。あいつも天を見上げて固まってたからね、捕縛は簡単に済んだし、一応意識も刈り取っておいたから」
「……えぇ?」
当然のように胸を張るジャックにメリアンは顔を引き攣らせた。ジョセフの一晩のお相手も共に捕縛したらしい。証拠は揃った。
「ええと………じゃあ魔導士宮に急ぎましょうか、ジャック」
「……」
「ジャック?」
「……もう少しだけ、このままで」
「え、ええ?ちょっと、あなた、何を言ってるの」
無言でメリアンを抱きしめたせいで、ジャックの鼓動が胸を突き破る勢いでメリアンの耳に届いた。それを意識してしまい、メリアンも真っ赤になる。
「メリーが好きだ」
唐突な告白にメリアンは顔を上げた。
「俺は、もうすぐ王宮魔導師団長に昇格する。後1年だ。そうなった時、俺の立場は君に値するだろうか?俺が、求婚するチャンスを貰えるだろうか?」
「き、求婚……っ」
「今の婚約者はもう終わりだ。叩けばまだまだきっと埃が出てくる。君には勿体無い。二度と顔を見る心配もしなくて良い」
そういうジャックの顔に、黒い笑みが浮かび上がる。
「教皇を引き摺り下ろして神殿の力が弱まれば、君のご両親だって聖騎士にこだわる必要はないと思う。婿養子になれというのなら、それでもいい。君が領主で俺がサポートする。なんなら魔導士団長の座もいらない」
「ジャ、ジャック…っ」
「翼を広げて空に浮かんだ君を、きっと町中の人間が見てた。きっとこれから求婚者が増えるだろう。なんたって天使が降臨したんだ。だけど俺は……メリーを誰にも渡したくない」
俯いて耳を真っ赤にさせたジャックにメリアンは思いのほかキュンとした。
何度も馬車を避けて一緒に転がり、助けてもらった。
抱きしめるその腕も、繋ぐその手も、大きくて優しい。柔らかく笑う笑顔も、心配して眉を下げるその顔も、拘束する魔法の優しさも、真っ直ぐ向ける恋慕の情も、メリアンの心を浮き立たせる。
魔術に夢中になるところも、ちょっと自慢げに胸を張るところも、絶望して泣きながらも容赦無くジョセフを握りつぶした魔王さながらの闇の深さも。
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