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第八章 警視庁
第八章 警視庁
第一話 山上と牧村
深夜の警視庁。明かりの落ちた執務室で、数少ないデスクだけモニターの光に照らされていた。
山上稔はそのひとつに肘をつき、資料を前に黙り込んでいた。
「……どうしたんですか?山上さん。らしくないですよ」
向かいの席から、牧村千夏がマグカップを持ったまま首をかしげた。
「何言ってんだ。俺だって、たまには考えたり悩んだりする」
「へぇ。考えずに突っ走る山上さんしか、私は知らないですけど」
「うるせえ」
山上は書類を手に取り、乱暴にページをめくった。
牧村が小さく笑いながら資料の束を差し出す。
「……あ、そうそう。頼まれてた“例のやつ”、だいたいまとめましたよ」
「おお、あの会社の……」
「はい。“ネウロリンク社”。かなり細かいところまで調べてみましたけど、やっぱりちょっと怪しいんですよね」
「どのへんがだ?」
山上の目が鋭くなる。牧村は一枚のグラフ付きレポートを開いて指を置いた。
「この会社、表向きは“国産人気ゲームタイトルを運営する開発会社”ってことになってますが――」
「うん」
「……海外との取引が、異常に多いんです」
「ゲームって、そもそも世界中で売れるもんだろ?違うのか?」
「まあ、それはそうなんですけど……普通、ゲーム業界の輸出相手って、アメリカ・ヨーロッパ・中国・中東・シンガポールとか、わりと先進国か富裕層マーケットがメインになるんです」
「それがどうした?」
「このネウロリンク社、なぜか“アフリカ諸国”“中南米の政情不安国”“旧東側諸国”とやたら取引が多くて、しかも金融ルートも一部仮想通貨なんです」
山上は鼻を鳴らした。
「……“なんか匂う”な。ゲーム会社にしちゃ、妙な外貨の流れだ」
「はい。正直、名前だけゲーム会社で、別の活動をしてる可能性もあります。輸出入の品目も“ソフトウェア技術支援”って名目で、ごまかしが効く分野ですし」
「……かなり臭いな…」
山上は顎に手をやって目を細めた。
「――ファントムリングと、つながってるかもしれねぇな。 まったく、また厄介な話になりそうだ」
「レポート、途中までですが、明日までに精査版お渡しします」
「ああ、頼む」
モニターの光の中、山上の視線はどこか遠くを見ていた。
その奥では、ネウロリンク社のビルの会議室で出会った“あの女”の目が、いまも冷たく笑っている気がしていた――
第二話 課長室
「山上警部補、課長がお呼びです」
事務担当の女性職員が声をかける。
山上稔は手元の書類から目を離し、無言で立ち上がった。
「……ああ、また叱られそう」
牧村千夏が向かいの席でぼそっと呟く。
山上は眉をひそめたまま、無言で拳を握り――
冗談めかして殴るふりをして牧村に突き出す。
「ひぃっ、冗談ですってば」
牧村が軽く手を挙げて降参ポーズ。
山上はそのまま書類を放り、課長室のドアをノックもせず開けて入っていった。
「山上です。……なんでしょう?」
「……お前、またやったな」
課長の眉間にはすでに深いシワが刻まれている。
机の上には、何通かの印刷されたメールと電話メモが無造作に置かれていた。
「何を、でしょうか?」
山上は知らぬ顔で聞き返す。
課長は苛立ったように資料の一枚を突きつける。
「“ネウロリンク”とかいう会社から、正式にクレームが来たんだ。“公安の刑事に、イベントを中止しろと脅された”とさ」
「……待ってくださいよ。脅してませんよ、俺は」
「向こうが“そう受け取った”んだよ。企業相手にアポなし突撃、情報開示要求。挙げ句“中止しろ”ときたら、十分“圧”だ」
「ですが、実際にイベント襲撃予告のメールは届いています。脅迫文としての形式も成立している。公安として確認する義務は――」
「“義務”の前に、“手続き”があるんだよ」
課長が一段と声を低くした。
「“それらしい予告”なんて、年間に何千件来ると思ってる? それを片っ端から企業に直接伝えたら、どうなる?」
「……混乱が起きるかもしれません。でも、無視して事件になったらどうするんですか?」
「お前の正義感には、たまに殺意を覚えるよ。何度言ったらわかる。“勝手に動くな”ってな」
山上は歯を食いしばる。
だが、目の奥はまるで怒られている気配がない。
逆に何か確信を深めているような、そんな目だった。
「次やったら、お前、対テロ対策室から飛ばすからな。田舎の交番が恋しいか?」
「……はい。ご忠告、肝に銘じます」
口では従順に答えたが、山上の目には決意の炎が宿っていた。
第一話 山上と牧村
深夜の警視庁。明かりの落ちた執務室で、数少ないデスクだけモニターの光に照らされていた。
山上稔はそのひとつに肘をつき、資料を前に黙り込んでいた。
「……どうしたんですか?山上さん。らしくないですよ」
向かいの席から、牧村千夏がマグカップを持ったまま首をかしげた。
「何言ってんだ。俺だって、たまには考えたり悩んだりする」
「へぇ。考えずに突っ走る山上さんしか、私は知らないですけど」
「うるせえ」
山上は書類を手に取り、乱暴にページをめくった。
牧村が小さく笑いながら資料の束を差し出す。
「……あ、そうそう。頼まれてた“例のやつ”、だいたいまとめましたよ」
「おお、あの会社の……」
「はい。“ネウロリンク社”。かなり細かいところまで調べてみましたけど、やっぱりちょっと怪しいんですよね」
「どのへんがだ?」
山上の目が鋭くなる。牧村は一枚のグラフ付きレポートを開いて指を置いた。
「この会社、表向きは“国産人気ゲームタイトルを運営する開発会社”ってことになってますが――」
「うん」
「……海外との取引が、異常に多いんです」
「ゲームって、そもそも世界中で売れるもんだろ?違うのか?」
「まあ、それはそうなんですけど……普通、ゲーム業界の輸出相手って、アメリカ・ヨーロッパ・中国・中東・シンガポールとか、わりと先進国か富裕層マーケットがメインになるんです」
「それがどうした?」
「このネウロリンク社、なぜか“アフリカ諸国”“中南米の政情不安国”“旧東側諸国”とやたら取引が多くて、しかも金融ルートも一部仮想通貨なんです」
山上は鼻を鳴らした。
「……“なんか匂う”な。ゲーム会社にしちゃ、妙な外貨の流れだ」
「はい。正直、名前だけゲーム会社で、別の活動をしてる可能性もあります。輸出入の品目も“ソフトウェア技術支援”って名目で、ごまかしが効く分野ですし」
「……かなり臭いな…」
山上は顎に手をやって目を細めた。
「――ファントムリングと、つながってるかもしれねぇな。 まったく、また厄介な話になりそうだ」
「レポート、途中までですが、明日までに精査版お渡しします」
「ああ、頼む」
モニターの光の中、山上の視線はどこか遠くを見ていた。
その奥では、ネウロリンク社のビルの会議室で出会った“あの女”の目が、いまも冷たく笑っている気がしていた――
第二話 課長室
「山上警部補、課長がお呼びです」
事務担当の女性職員が声をかける。
山上稔は手元の書類から目を離し、無言で立ち上がった。
「……ああ、また叱られそう」
牧村千夏が向かいの席でぼそっと呟く。
山上は眉をひそめたまま、無言で拳を握り――
冗談めかして殴るふりをして牧村に突き出す。
「ひぃっ、冗談ですってば」
牧村が軽く手を挙げて降参ポーズ。
山上はそのまま書類を放り、課長室のドアをノックもせず開けて入っていった。
「山上です。……なんでしょう?」
「……お前、またやったな」
課長の眉間にはすでに深いシワが刻まれている。
机の上には、何通かの印刷されたメールと電話メモが無造作に置かれていた。
「何を、でしょうか?」
山上は知らぬ顔で聞き返す。
課長は苛立ったように資料の一枚を突きつける。
「“ネウロリンク”とかいう会社から、正式にクレームが来たんだ。“公安の刑事に、イベントを中止しろと脅された”とさ」
「……待ってくださいよ。脅してませんよ、俺は」
「向こうが“そう受け取った”んだよ。企業相手にアポなし突撃、情報開示要求。挙げ句“中止しろ”ときたら、十分“圧”だ」
「ですが、実際にイベント襲撃予告のメールは届いています。脅迫文としての形式も成立している。公安として確認する義務は――」
「“義務”の前に、“手続き”があるんだよ」
課長が一段と声を低くした。
「“それらしい予告”なんて、年間に何千件来ると思ってる? それを片っ端から企業に直接伝えたら、どうなる?」
「……混乱が起きるかもしれません。でも、無視して事件になったらどうするんですか?」
「お前の正義感には、たまに殺意を覚えるよ。何度言ったらわかる。“勝手に動くな”ってな」
山上は歯を食いしばる。
だが、目の奥はまるで怒られている気配がない。
逆に何か確信を深めているような、そんな目だった。
「次やったら、お前、対テロ対策室から飛ばすからな。田舎の交番が恋しいか?」
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