十二輝の忍神 ーシノビガミ― 第一部

陵月夜白(りょうづきやしろ)

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43 追撃、お蘭と鉄之介

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第五話 追撃、お蘭と鉄之介

 武蔵の巨体が崩れきったあとも――その場だけ、妙に静かだった。

 灰が舞う。
肉が砂へほどける。
 骨の白さも、すぐにくすみ、土へ混じっていく。

 だが。
武蔵が手放した鉞だけは、倒れもせずに残っていた。

 刃の根元に刻まれた筋が、まだ熱を持っているように見える。

 そして、その鉞の影から。

 ――ころり。
何かが転がった。

 石のような音。
けれど石ではない。
 小さな球体が、灰の上で止まり、鈍い光を返した。

 鼠の珠。
闇に馴染むはずの黒い輝きが、いまは逆に、場の中心で存在を主張していた。

 忠壽は、その光を一度だけ見た。
 そして――迷わず懐へ手を入れる。

 取り出したのは、布だ。
白い布ではない。
 血と灰で汚れても惜しくない、使い古した布。

 忠壽はその布を広げ、珠にそっと被せた。

 ぎゅ、と包む。
珠が布の内側で脈を打つ。

 どく。
 どく。

 それが一瞬、忠壽の指先へ“何か”を伝えたように見えたが、忠壽は表情を変えない。

 ただ、握り締めて立ち上がる。
その動作で、ようやく――動きを止めていた者が、息をした。

 お蘭だ。
彼女はさっきまで、武蔵が崩れるのを“見届ける”ように立っていた。

 目が空ろだった。
 口が半開きだった。

 毒を吐く舌すら動いていなかった。
 だが今、忠壽が珠を拾った瞬間、その瞳に火が戻る。

「……くそ」
唇がひくりと吊り上がった。
「……くそ! くそくそくそくそ……!」

 お蘭の肩が震える。

 怒りだ。
 憎しみだ。

 それ以上に――“奪われた”という感覚が、彼女を狂わせる。
 お蘭の視線が、忠壽ではなく、鉄之介へ向く。

 近い。
 一番近くにいる。
 一番、殴りやすい。

 お蘭の脚が、地を蹴った。
「お前ら……許さない!」

 声が割れる。
「殺してやる!」

 お蘭は一直線に鉄之介へ詰め寄った。
 髪が乱れ、顔が歪み、“美貌”を保つ余裕など最初からない。

 鉄之介は、軽く身を引いた。
足を滑らせるように、半歩、二歩。

 距離を取る。
 間合いを外す。

 それだけで、お蘭の突進は空を切った。

「おおおっ!?」
お蘭が踏み込んだ地面が沈み、灰が舞う。

 鉄之介は笑った。
いや、笑った“ふり”だ。
 唇だけが動き、目はまったく笑っていない。

「……さあ」
鉄之介が大槌を肩へ担ぎ直す。

 視線はお蘭に固定したまま、息だけを整える。
「次は――俺たちの番だ」

 一拍。
鉄之介はゆっくり言った。
「存分に楽しもうぜ」

 お蘭の喉が鳴る。
怒りのまま、口が開く。
 その口の奥が、ぬらりと光った。

 毒液だ。

 鉄之介は、それを見逃さない。
顔を背けない。
 距離だけを、詰めない。
“吐かせない間合い”を保ったまま、
隙を作らないように足を運ぶ。

 お蘭が舌を見せた瞬間――
鉄之介の足が横へ滑る。

 毒が飛ぶ。
 しゅっ。

 地面へ落ちた毒が、灰を溶かし、じゅ、と煙を立てた。

 鉄之介の頬に、僅かに熱が当たる。
 近い。危ない。
だが鉄之介は眉ひとつ動かさない。

「……ほらな」
低く言う。
「そういうのが厄介なんだよ、お前」

 お蘭が歯を剥いた。
「だったら、もっと吐いてあげる!」

 武蔵のときは躊躇したが、追い詰められたお蘭は、迷ってはいられなかった。

 美貌よりも今は命を優先するしかなかった。

 お蘭が身をかがめ、
今度は“吐くために”踏み込もうとした瞬間。

 鉄之介の目が、ふっと横へ振れた。

 忠壽の方だ。
忠壽は珠を包んだ布を懐へ納め、刀を鞘へ戻しかけている。

 鉄之介は、無言で忠壽を見た。

 ――手出しするなよ。
言葉はない。だが圧があった。

 忠壽の目が、鉄之介を一瞬だけ捉える。
 そして、忠壽は何も言わず、鞘を押さえる手を止めた。

 “見守る”という選択をした。
鉄之介の背中が少し軽くなる。

 次の瞬間。
お蘭が、口を大きく開いた。

 吐く。
鉄之介は、その“吐く予備動作”を見て、大槌を振り上げない。

 振り上げれば隙が出来る。
毒が入る。

 鉄之介は逆に――
踏み込んだ。
 真っ直ぐではない。
斜めだ。

 毒の射線を外しながら、距離を殺す。

「なっ――!」
お蘭の吐息が、毒になる前に乱れる。

 鉄之介の大槌が、地面すれすれを横に走った。

 ぶおん――!
風圧が灰を巻き上げ、お蘭の足元のバランスを崩す。

 お蘭の身体が僅かに揺れた。
その揺れを、鉄之介は見逃さない。

 “隙”だ。

 鉄之介は、初めて笑った。
「よし」
 短い。

 そして、そのまま――
大槌が、今度は上から落ちた。

 どんッ!!
廃村の地面が鳴り、灰が爆ぜる。

 お蘭の顔が、恐怖で歪む。
間に合わない。
 毒を吐く暇も、身を引く暇もない。

 ――潰される。
その瞬間、鉄之介の脳裏に、武蔵の崩れた身体が浮かんだ。

 喰っても追いつかない焦り。
初めて見せた恐れ。

 鉄之介の腕に、力がさらに乗る。
「……逃げんなよ」
声が低い。

 茶化しがない。
 本気の声だ。
 
 大槌が、お蘭へ向けて――落ちた。

 大槌が落ちる――その直前。
お蘭は、地面を蹴って転がった。
 髪が乱れ、袖が裂け、灰が肌に張りつく。

 間一髪。

 鉄之介の一撃は、空を砕いた。
どんッ――と鈍い衝撃で地面が沈み、廃村の土が跳ねる。

「……ちっ」
鉄之介が舌打ちする。

 追う。
お蘭は逃げる。

 逃げながら、振り向く。
そして――吐いた。

 しゅっ。
毒が霧になって空気を裂き、灰の上へ落ちた瞬間、じゅう、と泡立って溶かした。

 鉄之介は、身をひねって避ける。
 大槌を盾にせず、距離をずらすだけで躱す。

 お蘭は分かっていた。
この男は――
“毒に引っかからない”。

 追い詰められる。
なら、もっと吐くしかない。

 お蘭は息を吸い、
胸の奥から毒を絞り出そうとした。

 その瞬間だった。
喉の奥が、焼けた。
「……っ」

 吐き出しかけた毒が、途中で詰まり、舌の根を刺すような痛みが走る。

 お蘭は、反射的に口元を押さえた。
指先が震える。

 ――おかしい。
吐くたびに、何かが変わっている。

 薄々、分かっていた。
お蘭は恐る恐る、自分の腕を見る。

 肌の一部が――黒ずんでいる。
いや、黒ずみではない。

 変色だ。
灰色とも緑ともつかない色が滲み、その部分だけ、妙に硬く盛り上がっている。

 指で触れた瞬間。
 ごり、とした。
 肌ではない。
 石でもない。

 ――鱗だ。
「……うそ……」

 息が漏れる。
変色した部分が、硬くなり、小さな鱗のような形状へ変わっていく。

 お蘭は、顔に手を当てた。
 頬が、引きつっている。

 熱い。
 痛い。

 そして――形が違う気がする。
鏡はない。けれど分かる。

 “人間の顔”が崩れていく感覚がある。
 お蘭は喉の奥で、ひゅ、と息を吸った。

 舌が、違和感を訴える。
舌先が――割れている。
 じわじわと二股に裂け、蛇の舌のように、勝手に形を変えようとしている。

「……やだ……やだやだやだ……!」
お蘭の声が震えた。

 恐怖だ。
このままじゃ、戻れない。
 このままじゃ、人間じゃなくなる。

 だから――吐けない。
吐けば吐くほど、変わる。
 吐けば吐くほど、蛇に近づく。
攻めなきゃいけないのに。

 殺さなきゃいけないのに。
お蘭の足が、後ずさる。

 鉄之介は、それを見ていた。
お蘭の攻撃が鈍った。
毒を吐けなくなった。
目が泳いでいる。

「……どうした」
 鉄之介が低く言う。

 煽りではない。
“気づいた”声だ。
 お蘭は答えない。
 答えられない。

 次の瞬間、彼女は――逃げた。

 逃げる。
 走る。
 必死に。

 攻めるのではなく、“逃げるため”に脚を動かす。

 鉄之介は追う。
追いながら、眉をひそめた。

 逃がすわけにはいかない。
ここで逃げられたら、また毒を吐ける場所まで行ってしまう。

 追いつくしかない。
叩き潰すしかない。
 お蘭は振り向いた。
泣きそうな目で、叫ぶ。

「来ないで……! 来ないでぇ!」
その叫びは、恐怖で濁っている。

 敵への憎しみではない。
“変わっていく自分”への恐怖だ。

 鉄之介は、足を止めない。

 止められない。
 追いつく。
 大槌を、肩から外す。
 振り上げる。

 お蘭は、最後の最後で毒を吐こうとした。

 だが――吐けない。
 喉が焼ける。
 舌が裂ける。
 肌が硬くなる。
 恐怖が身体を縛る。

 鉄之介は、一瞬だけ目を伏せた。
 そして言う。

「……すまんな」
それだけだった。

 次の瞬間。

 どんッ!!

 大槌が落ちた。
お蘭の頭が、砕けた。

 音がした。
 骨が潰れる音。
 肉が裂ける音。

 脳漿と血が、灰の上へ広がる。
赤が、黒と混ざり、湯気のように熱が立った。

 お蘭の身体は、その場で崩れた。
 潰れた頭部から、力が抜け、残りの肉も骨も、武蔵ほどではないが――

 砂のように灰へ溶けていった

 鉄之介は、息を吐いた。
そして、ふと足元を見る。
そこに残ったものがあった。

 簪。

 折れた簪の装飾の根元から、
ころり、と抜け落ちた小さな球体。

 巳の珠。

 毒のように艶のある光を、鈍く返しながら徐々に大きくなっていく。

 鉄之介は、まだ熱を残す大槌を肩に担いだまま、足元の光を見下ろしていた。

 簪から抜け落ちた巳の珠が、鈍く艶めいている。

 ――生き物みてえだな。
そう思った瞬間、背筋がひやりとする。

 珠はただの石ころじゃない。
人を変える。
 鉄之介は腰を落とし、乱暴にならないように指先だけで珠をつまんだ。

 冷たい。
いや、冷たいだけじゃない。
 皮膚の内側まで“舐められる”ような感覚がある。

「……気持ち悪ぃ」
吐き捨てるように言いながら、それでも鉄之介は懐から布を出して包んだ。

 そのとき。
少し離れた場所で、灰を踏む音がした。

 鉄之介が顔を上げる。
忠壽が歩いてきた。
 肩で息をしている。
だが足取りは乱れていない。

 左腕に大鉞の刃で裂かれた浅い傷が走り、そこから血が滲んでいる。

 それ以上に目を引いたのは――右手だ。
 忠壽の掌の中で、鼠の珠が布に包まれていた。

 布越しでも分かる。
じんわりと熱がある。
鈍いが、確かな鼓動がある。

 鉄之介は、忠壽の手元を見て眉を上げた。
「……取ったのか」

 忠壽は小さく頷いた。
「武蔵の鉞から、抜け落ちた」

 一拍。

「……落ちる瞬間、妙な音がした。
 まるで――魂が抜けたみたいな音だ」

 鉄之介は鼻で笑いかけて、やめた。
 今それを茶化せる空気じゃない。

 視線を落とし、忠壽の腕の傷を見る。
「おめえ……平気かよ」

「平気だ」
 即答。

 だが、その声に僅かに掠れがあった。
 鉄之介は、その掠れを見逃さない。

 忠壽は前からそうだ。
“平気”という言葉で、自分を押し通す。

 鉄之介は布に包んだ巳の珠を持ち上げた。
「こっちも取った。巳だ」

 忠壽の目が僅かに細くなる。
「……巳」
 声が低い。

 鉄之介は、ふっと笑って見せた。
「蛇女の残りカスだ。
 でも……こいつも、気持ち悪ぃくらい生きてる」

 忠壽は、巳の珠を見るでもなく、周囲を一度見回した。

 灰に埋もれた家。
 崩れた屋根。

 噴火の名残が、村全体に張りついている。
「ここは……静かすぎる」

 鉄之介が眉を上げる。
「静かな方がいいだろ。
 俺はもう今日は十分だ」

 忠壽は首を横に振った。
「静かすぎるのは、嫌な兆しだ」

 鉄之介は舌打ちして、空を仰いだ。
「嫌な兆しだらけじゃねえか。
 噴火も、黒屍人も、珠も、全部よ」

 忠壽は答えない。
ただ、鼠の珠を包んだ布を、指先で少しだけ握り直した。

 布越しに、珠が脈打つのが分かる。
 鉄之介はその様子を見て、ふっと表情を変えた。

「……なあ、忠壽」
珍しく真面目な声だった。

「……」
「忠壽!」
鉄之介が叫ぶ。

「あ、ああ…」
忠壽が驚いたように鉄之介の顔を見た。

「おめえ、やっぱり耳悪いのか?」

 忠壽は、短く息を吐いた。
「大丈夫だ。 ときどき音が消えるときがあるだけだ」

「珠ってやつは、…厄介だなやっぱり」
鉄之介が下を向いた。
忠壽は、その鉄之助の肩に手を置いて言う。

「いや、……あれは希望だ。
 神珠の力無しに、この世は救えぬ。」

 鉄之介が、少しだけ目を細める。
「強くなるってのはいい。
その代償も仕方がねえ。
 でも……あれは“強くなる”って感じじゃねえ」

 一拍。

「人が、別の何かに作り替えられてく感じだ」

 忠壽は沈黙した。
 否定しない。

 鉄之介はその沈黙に、逆に息を詰めた。
「……清十郎の顔、見たか?」

 忠壽の目が、僅かに動く。
「ああ」

 鉄之介は続けた。
「一瞬だけ……あいつ、目が違った。
 なんつうか……獣みたいな目だった」

 忠壽は、その言葉を遮らずに聞いている。
「……お菊様がいるのは救いだと思ってた」

 鉄之介が言う。
「巫女だろ?
 封印だろ?
 善い方に導くんだろ?」

 一拍。
「でも、珠が集まれば集まるほど、巫女が狙われるってことでもあるんだよな」

 忠壽が小さく頷いた。
「……そうだ」

 鉄之介は、巳の珠の包みをぎゅっと握った。
「俺ら、守れてんのか?」

「守る」
「守れるのか?」
「守る」
忠壽の声は短い。

 だが、それが忠壽の覚悟だった。
 鉄之介はそれを聞いて、少しだけ口角を上げた。

「……おめえさ、ほんとそういうとこ、ずるいよな」
 忠壽は少しだけ眉を寄せる。

「何がだ」
「言い切るとこだよ。
 それ言われると、俺も腹くくらなきゃって思うだろ」

 忠壽はそれには返さない。
ただ、耳に指を当てて――一瞬だけ目を閉じた。
 鉄之介はすぐに気づいた。
「……耳、やっぱり、相当悪ぃな」
 忠壽は目を開ける。
「……いや」
 ほんの僅かな間。
「遠い音が、薄い」

 鉄之介は、言葉を失う。
忠壽が弱音を吐くことなんて、ほとんどない。

 忠壽は、何事もないように続けた。
「だが、今は構わぬ。
 戦いに支障はない」

「……支障あるだろ」
鉄之介が言いかけたが、忠壽の目を見てやめた。

 今は、言い合う時間じゃない。
忠壽は鼠の珠を軽く持ち上げた。

「珠が二つ増えた」
「増えたな」
「……だが、増えた分だけ、敵も必ず動く。
武蔵とお蘭は、その“前座”だと思った方がいい」

 鉄之介は目を細める。
「じゃあ、これから出てくるやつは……もっとヤバい」

 忠壽は、はっきり言った。
「……清十郎が加わったとはいえ、油断できぬ」

 鉄之介は、その言葉を聞いた瞬間、不意に胸の奥が熱くなった。

 忠壽が“清十郎”を認めている。
認めたうえで、心配している。

 鉄之介は珍しく、真面目に言った。
「……俺さ、清十郎のこと、嫌いじゃねえ」

 一拍。
「強えし。
 礼儀もあるし。
 ……なんか、腹立つくらい真っ直ぐだ」

 忠壽は黙って聞いている。

「でもよ」
鉄之介の声が低くなる。
「真っ直ぐなやつほど、折れたとき――怖ぇんだよ」

 忠壽の目が、僅かに細くなる。
「……そうだな」

 鉄之介は、自分の言葉に驚いたように息を吐く。
 茶化さないで、ちゃんと言えた。
 それが余計に怖かった。

 忠壽は、踵を返した。
「戻る」

 鉄之介が頷く。
「戻るか。……金之助たちが来る前に、合図残しとくんだろ」

 忠壽は短く言う。
「……ああ」

 鉄之介は歩き出しながら、巳の珠の包みを一度だけ見下ろした。

 鈍く光る。
蛇女の最後の輝き。

 だが――これは終わりじゃない。
「……珠が増えるたびに、世界が歪む」
鉄之介が呟く。

 忠壽は歩きながら、ほんの僅かに口角を動かした。
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