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第7話 自警団との出会い
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暖かな朝だった。窓から差し込む日差しが、木の床にやわらかな光の模様を描いている。
「さあ、今日もいいお天気よ。お散歩しましょうか、ユーリ」
揺りかごから抱き上げられたユーリは、少し眩しそうに目を細める。
(お、今日はお出かけか。昨日は絵本で魔法にワクワクしてたけど……たまには外の空気も吸いたい気分だった)
マーシャは薄手のケープを羽織り、ユーリを抱えて家を出る。
通い慣れた村の道。だが今日の目的地は、少し“裏手”にある広場だった。
「今日はね、自警団の人たちが訓練をしてるの。あいさつだけでもしておこうと思って」
(じけいだん……おお、いかにもファンタジー村らしい響き……!)
村の治安を守るために活動している有志の集まり。村を襲う魔獣や盗賊などの脅威はそう多くないが、備えは必要だ。
広場に着くと、そこにはすでに何人かの人影があった。木剣を構えて素振りをしていたり、大きな声で指示を飛ばしていたり。鍛錬の音が心地よく響いていた。
「あ、マーシャさん!」
元気な声が飛んできた。振り返ると、快活そうな青年が駆け寄ってくる。
「久しぶりですね! あれ? その子が噂の赤ちゃん……!」
「ええ、ユーリっていうの。この子を連れて、みなさんにあいさつしに来たの」
「そうなんですね! 俺はロイっていいます。村の自警団で一応“副団長”ってことになってます」
(副団長!? いきなり偉い人出てきた!?)
ロイは栗色の髪を後ろで束ね、日焼けした笑顔を浮かべていた。気さくで人懐っこい性格らしく、すぐにマーシャと世間話を始める。
そしてロイの後ろから、次々に自警団のメンバーが集まってくる。
「おーい、ロイ。話してばっかいないで、ちゃんと見張りも頼むぞ」
しっかりした体格の男性が歩いてきた。髭を生やし、いかにも“隊長”といった風格だ。
「この人は団長のガルドさんよ」
「どうも。赤ん坊にはちょっと怖い顔かもしれんが、実は動物好きでな。うちにも猫がいる」
(ギャップが……すごい)
ガルドは大柄で無骨だが、ユーリを見て目尻をゆるめていた。
そこに、二人の女性が並んで現れる。一人はスレンダーな黒髪の女性、もう一人は丸顔で柔らかな雰囲気を持つ茶髪の女性だ。
「マーシャさん、お久しぶり。今日はユーリくんとお散歩?」
「ええ、ミレイナちゃんも来てたのね」
黒髪の女性はミレイナ。弓を得意とする自警団の斥候で、ちょっと物静かな性格。観察力が鋭く、村の異変にはいち早く気づくタイプだ。
「私はエマです。前にマーシャさんから帽子買ったことがあって……」
茶髪の女性はエマ。おっとりしているが怪力の持ち主で、戦いでは大きな盾を使って仲間を守る役回り。
(見た目と中身のギャップがすごい人ばっかじゃない!?)
そして最後にやってきたのは、やや影の薄い青年。小柄で眼鏡をかけており、どことなく頭が良さそうな雰囲気。
「おはようございます。僕はカイっていいます。主に記録係で、戦闘より後方支援が得意です」
「カイくんは怪我の応急処置とか薬の管理とか、なんでもできるのよ。頼りになるわ」
(あ、この人がいれば安心だな……後方支援スキルって実際めっちゃ大事)
こうしてユーリは、自警団の五人と初めて顔を合わせた。
「おー、こりゃ可愛い顔してるな! このままいけば村のアイドルだぞ!」
ロイが無邪気にそう言って、ユーリに指を伸ばす。ユーリは目をぱちぱちとさせたあと、軽く“あうー”と声を出した。
(あいづちうっといたほうが、感じがいいかと思って)
「お、返事したぞ! 頭いいな~こりゃ将来楽しみだ!」
「うちの猫より表情豊かだな」とガルドが呟き、周囲に笑いが広がる。
エマはというと、手編みのぬいぐるみを取り出して見せてきた。
「これ、昨日作ったんです。よかったら……」
「まぁ、手作りなの? ありがとう、エマちゃん」
(この人……戦闘では盾でぶん殴る系の人だったよね?)
ぬいぐるみは、ウサギとクマが合体したような可愛らしいフォルムだった。赤ちゃん心をくすぐるモコモコ感に、思わず手を伸ばしてしまう。
「ふふ、気に入ったみたいね。よかった」
ミレイナは少し離れたところから様子を見ていたが、目が合うとふっと微笑んだ。
「見た目だけじゃないわ。この子、絶対なにかやるわよ」
(いや、“なにか”ってなんだよ。範囲広いな)
カイはその横でメモ帳を取り出し、
「ほほう……目の動きに知性を感じる……これは将来、間違いなく賢くなりますね!」
(評価基準、完全に研究者じゃん……)
そんなこんなで、訓練は一時中断。自警団メンバー全員が“赤ちゃんとのふれあいタイム”に突入していた。
「おーい、ロイ! お前いつまで遊んでんだ! 剣の型、次やるぞ!」
「はいはい、今行きますって! ユーリくん、またね~!」
自警団はすぐに訓練に戻っていった。木剣の音、弓を引く音、掛け声。村の平和は、こうした人たちの努力に支えられているのだ。
マーシャがユーリを抱き直しながら言う。
「みんな、頼れる人たちばかりなのよ。もしものときも、安心していられるわ」
(……たしかに)
幼いながらも、なんとなくわかる。“守る”ということの重み。そしてそれを楽しげにやっている彼らの存在の大きさ。
(いつか俺も……あんなふうになれるのかな)
まだ赤ん坊の体のまま、そんなことを思った。
(とりあえず、まずは……)
「んー、ばぶっ」
(まずは機動力確保だ。ハイハイで行動半径を広げよう)
それが彼の、密かな次なるステップだった。
「さあ、今日もいいお天気よ。お散歩しましょうか、ユーリ」
揺りかごから抱き上げられたユーリは、少し眩しそうに目を細める。
(お、今日はお出かけか。昨日は絵本で魔法にワクワクしてたけど……たまには外の空気も吸いたい気分だった)
マーシャは薄手のケープを羽織り、ユーリを抱えて家を出る。
通い慣れた村の道。だが今日の目的地は、少し“裏手”にある広場だった。
「今日はね、自警団の人たちが訓練をしてるの。あいさつだけでもしておこうと思って」
(じけいだん……おお、いかにもファンタジー村らしい響き……!)
村の治安を守るために活動している有志の集まり。村を襲う魔獣や盗賊などの脅威はそう多くないが、備えは必要だ。
広場に着くと、そこにはすでに何人かの人影があった。木剣を構えて素振りをしていたり、大きな声で指示を飛ばしていたり。鍛錬の音が心地よく響いていた。
「あ、マーシャさん!」
元気な声が飛んできた。振り返ると、快活そうな青年が駆け寄ってくる。
「久しぶりですね! あれ? その子が噂の赤ちゃん……!」
「ええ、ユーリっていうの。この子を連れて、みなさんにあいさつしに来たの」
「そうなんですね! 俺はロイっていいます。村の自警団で一応“副団長”ってことになってます」
(副団長!? いきなり偉い人出てきた!?)
ロイは栗色の髪を後ろで束ね、日焼けした笑顔を浮かべていた。気さくで人懐っこい性格らしく、すぐにマーシャと世間話を始める。
そしてロイの後ろから、次々に自警団のメンバーが集まってくる。
「おーい、ロイ。話してばっかいないで、ちゃんと見張りも頼むぞ」
しっかりした体格の男性が歩いてきた。髭を生やし、いかにも“隊長”といった風格だ。
「この人は団長のガルドさんよ」
「どうも。赤ん坊にはちょっと怖い顔かもしれんが、実は動物好きでな。うちにも猫がいる」
(ギャップが……すごい)
ガルドは大柄で無骨だが、ユーリを見て目尻をゆるめていた。
そこに、二人の女性が並んで現れる。一人はスレンダーな黒髪の女性、もう一人は丸顔で柔らかな雰囲気を持つ茶髪の女性だ。
「マーシャさん、お久しぶり。今日はユーリくんとお散歩?」
「ええ、ミレイナちゃんも来てたのね」
黒髪の女性はミレイナ。弓を得意とする自警団の斥候で、ちょっと物静かな性格。観察力が鋭く、村の異変にはいち早く気づくタイプだ。
「私はエマです。前にマーシャさんから帽子買ったことがあって……」
茶髪の女性はエマ。おっとりしているが怪力の持ち主で、戦いでは大きな盾を使って仲間を守る役回り。
(見た目と中身のギャップがすごい人ばっかじゃない!?)
そして最後にやってきたのは、やや影の薄い青年。小柄で眼鏡をかけており、どことなく頭が良さそうな雰囲気。
「おはようございます。僕はカイっていいます。主に記録係で、戦闘より後方支援が得意です」
「カイくんは怪我の応急処置とか薬の管理とか、なんでもできるのよ。頼りになるわ」
(あ、この人がいれば安心だな……後方支援スキルって実際めっちゃ大事)
こうしてユーリは、自警団の五人と初めて顔を合わせた。
「おー、こりゃ可愛い顔してるな! このままいけば村のアイドルだぞ!」
ロイが無邪気にそう言って、ユーリに指を伸ばす。ユーリは目をぱちぱちとさせたあと、軽く“あうー”と声を出した。
(あいづちうっといたほうが、感じがいいかと思って)
「お、返事したぞ! 頭いいな~こりゃ将来楽しみだ!」
「うちの猫より表情豊かだな」とガルドが呟き、周囲に笑いが広がる。
エマはというと、手編みのぬいぐるみを取り出して見せてきた。
「これ、昨日作ったんです。よかったら……」
「まぁ、手作りなの? ありがとう、エマちゃん」
(この人……戦闘では盾でぶん殴る系の人だったよね?)
ぬいぐるみは、ウサギとクマが合体したような可愛らしいフォルムだった。赤ちゃん心をくすぐるモコモコ感に、思わず手を伸ばしてしまう。
「ふふ、気に入ったみたいね。よかった」
ミレイナは少し離れたところから様子を見ていたが、目が合うとふっと微笑んだ。
「見た目だけじゃないわ。この子、絶対なにかやるわよ」
(いや、“なにか”ってなんだよ。範囲広いな)
カイはその横でメモ帳を取り出し、
「ほほう……目の動きに知性を感じる……これは将来、間違いなく賢くなりますね!」
(評価基準、完全に研究者じゃん……)
そんなこんなで、訓練は一時中断。自警団メンバー全員が“赤ちゃんとのふれあいタイム”に突入していた。
「おーい、ロイ! お前いつまで遊んでんだ! 剣の型、次やるぞ!」
「はいはい、今行きますって! ユーリくん、またね~!」
自警団はすぐに訓練に戻っていった。木剣の音、弓を引く音、掛け声。村の平和は、こうした人たちの努力に支えられているのだ。
マーシャがユーリを抱き直しながら言う。
「みんな、頼れる人たちばかりなのよ。もしものときも、安心していられるわ」
(……たしかに)
幼いながらも、なんとなくわかる。“守る”ということの重み。そしてそれを楽しげにやっている彼らの存在の大きさ。
(いつか俺も……あんなふうになれるのかな)
まだ赤ん坊の体のまま、そんなことを思った。
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