上 下
2 / 2

あなたの話。

しおりを挟む
コト、という音で目が覚めた。

「おや、起こしてしまいましたか。お気になさらずもう少しお休みになってください。」

優しい声色に自然と安心した。

さっきの音はペンを置いた音らしい。
男の人の手には、手帳が握られていた。

「千久沙様?どうかなさいましたか」

僕がじっと見ていたことに気づいたのか、わざわざ近づいて来てくれた。

「あまり眠くなくて…」

「そうでしたか。では少しお話でもしましょうか」

「僕…あまり話すのが上手くなくて…ごめんなさい」

話を持ちかけてくれたのに、自分勝手だ…
そう思ってベッドの端に視線を落とす。

「大丈夫ですよ。…まず自己紹介でもしましょうかね」

自己紹介…か
中学校に入学したときにやったことが1番記憶に新しい。
あまり、いい思い出ではないけど…

「ふふ、そんなに不安そうにしないでください。」

そう言って2人しか居ない自己紹介が始まった

男の人の名前は『並沼 彗ナミヌマ セイ

年齢は今年で24

紅茶が好きらしい。

彗さんは僕の執事で、この家に代々仕えている並沼家の人なんだって…

話によると、おそらく…この家は名家らしい…

この部屋も、前の世界のような黄ばんだ家具じゃなく、美しい純白で統一された豪華な部屋だ。

逆に落ち着かなくなる。

僕なんかが触っていいものなのか…

そう思っていると、彗さんは見透かしたように言ってきた。

「ここにある物は、千久沙様がお好きになさって結構ですよ。お父様からの大切な贈り物ですから…」

少しギクリとした。
僕と彗さんだけな訳ないよね…

もしこの世界のお父様やお母様が来たら、この世の終わりかもしれない…

だって、こんな僕すぐに嫌われるでしょ?
すぐ捨てるでしょ…?
すぐ透明人間扱いされるんだ…

僕は途端に落ち込んで、遂には床に視線を落とした。
このままだと泣いてしまいそうで怖い。

泣いたら、呆れられるかな…

「千久沙様、あまりご自分を責めないで下さい。貴方様のお父様、お母様方はとても優しい方々ですよ。まだ慣れないかもしれませんが、私たちは貴方を大切に、大切に思っています」

彗さんはベッドの脇に膝を着いて、真剣な表情をしていた。

その力強い言葉で、僕の心はふっと軽くなった。

「もし、私に貴方のことを教えてくださるなら…私は貴方の力になります。…絶対に」

真っ直ぐに見詰められて、僕は何も言えなくなった。

ただ…

ただ、僕は1人じゃないかもしれない。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

社畜サラリーマンの優雅な性奴隷生活

BL / 連載中 24h.ポイント:773pt お気に入り:1,493

片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:12

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,002pt お気に入り:33

婚約破棄させてください!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:3,011

悪役王子だるまにされてエロBL世界を生き抜いていく

BL / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:591

処理中です...