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第二章 快進撃

潮時

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 一方のトリニティスイーツ。
 ヤマトが宿の部屋のイスに座ってのんびり本を読んでいると、扉の外で慌ただしい足音と甲高い声が聞こえてきた。

『――わわっ、待って待って!』

『そうです! ラミィさん落ち着いてください! 今はヤマトさんを信じて待ちましょうよ!』

『いいや、もう待てない! ヤマトー!』

 ドタバタ騒ぎながら扉を勢いよく開け、飛び込んできたのはラミィ、ハンナ、シルフィの三人だった。
 勢いよくなだれ込んできて、ヤマトの目の前に倒れるが、すぐに立ち上がりそそくさと身なりを整えた。

「みんな、そんなに慌ててどうしたの?」

「どうしたもこうしたもないよ! もう我慢の限界なんだ!」

 ラミィは目をキッとつり上げ、ヤマトへ詰め寄る。

「にゃははぁ……こうなったらラミィちゃん止まらないんだよね~」

「ヤマトさん、突然押しかけてごめんなさい」

 苦笑するハンナと申し訳なさそうにペコペコ頭を下げるシルフィ。
 ヤマトはなんとなく、ラミィの言わんとしていることが分かった。

「……もしかして、クエストの件かな?」

「そうだよ。いい加減教えてほしい。いくら強い装備を作るためには素材が必要だからといっても、一か月も鉱石採取だけなんてあんまりじゃないか!」

「わ、私も理由ぐらいは知りたいかにゃ~なんて……」

「ヤマトさん……」
 
 実はこの一か月、彼女たちにひたすら鉱石採取をさせていた。
 魔物と戦うことをかたく禁じ、消耗アイテムの使用や武器の修理や製造・強化なんてもってのほか。
 とにかく出費を抑えさせ、鉱物資源を蓄えさせたのだ。
 そのせいで、微々たる報酬に生活は困窮し、とうとう不満が爆発したということだろう。

 とはいえ、ヤマトの言葉に強制力はないので、彼女たちが今まで根を上げずにアドバイスを聞き入れたことに感心していた。
 それだけ信じてもらえていることがなんだかむずがゆい。
 
「最近は、私たち以外にも鉱石素材を求めるハンターが大勢いるせいで採取クエストが取り合いになってね。そろそろ採取できる資源も枯渇してきてるらしいんだよ」

「……潮時か」

 ヤマトは呟くと、手にしていた本を机に置き立ち上がる。

「ヤマトさん?」

「今まで僕の言葉を信じてくれてありがとう。それじゃあ、今まで集めた素材を売りに行こうか」

「へ? 売りに?」

「武器の強化に使うんじゃないの??」

「そんなもったいないことはできないよ」

 ヤマトの意図が分からず首を傾げる三人だったが、ハッとしたラミィは首をブンブンと横へ振る。

「待ってヤマト。まださっきの質問に答えてもらってないよ」

「行けば分かるよ。それまでのお楽しみさ」

「分かった……ヤマトがそう言うのなら」

 ラミィはあまり納得していない様子だが、渋々頷き保管してある素材を回収しに行く。
 彼女たちが部屋へ戻った後、ヤマトは机の引き出しを開け、数枚の券を取り出した。

「クェッ!」

「そうだね、いくらで売れるか楽しみだ」

 それは、鉱物資源の先物取引に使われる所有券という金融商品だった。
 彼は自己資金を使い、ダークマターやミスリルなどの所有券を買いだめていたのだ。
 そして資源価格が高騰している今、その真価を発揮する。
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