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第二章 快進撃

シルフィの怒り

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 ヤマトたち四人は、それぞれ鉱物資源の詰まった袋を持って、喧騒でにぎわう大通りの市場へと移動した。
 ヤマトはすぐに素材屋の店を見つけると扉を開ける。
 ソウルヒートのメンバーだったときに常連だった店だ。

「こんにちは、ガーフさん」

「おぅ、ヤマトじゃねぇか。久しぶりに見たな」

「はい。最近、色々ありましたから……」

 ヤマトが困ったような笑みを浮かべながら言うと、ガーフは髭をなでながらそのいかつい顔に薄ら笑いを浮かべた。
 いつもの嫌な感じだ。

「知ってるぜぇ。お前さん、ソウルヒートを追いだされたんだってな」

「え? ま、まぁそうですけど」

「いつかはそうなるだろうと思ってたぜ。パーティーのメンバーが戦ってるときに、買い出しをしてるようなひ弱な男じゃなぁ。あっ、勘違いするなよ? 俺のお得意先はヤマト、お前じゃなくてソウルヒートなんだからな」

「は、はぁ、そうですか……」

「そうだとも。いくらお前さんが金に困ってても、値切り交渉には一切応じないからそのつもりでな。とはいえ客は客だ。ほら、さっさとなにが欲しいか言いな」

「いえ、今日来たのは購入目的ではないんです」

 ヤマトはなんとも思っていないというように、淡々と言いながら、小袋をカウンターの上に置く。
 ガーフが眉をしかめながらその中身を確認すると、目を見開いた。
 
「なに!? エーテル鉱石にダークマター、ミスリス銀鉱石まであるじゃねぇか!? 今は手に入りづらいってのに、よくこんなに集めたもんだ」

「いいえ、それだけじゃありませんよ。三人とも……あれ? どうしたの?」

 ヤマトが後ろを振り向くと、トリニティスイーツの三人は不機嫌そうに眉をつり上げ、ガーフをにらみつけていた。
 その迫力にヤマトは息をのむ。
 すると、ハンナがガーフを指さし言った。

「なにこの失礼なおじさん」

「ちょっとハンナ、どうしたのさ? この人は店長のガーフさんだよ。ほら、集めた素材を売ろうよ」

「ヤマトくん、こんな人に売るのやめて、他のとこへ行こ?」

「同感だな」

 穏やかでないハンナの提案に頷くラミィ。
 彼女もまた険しい表情だった。
 さすがのガーフも、額に青筋を立て低い声で言う。

「お嬢ちゃんたち、ずいぶんな言い草じゃねぇか」

「ちょ、ちょっと二人とも待ってよ! 鉱物資源なんてどこで売っても同じだよ!?」

 ヤマトが焦って言うと、ガーフが目を丸くした。

「……は? ちょっと待てヤマト! まさかあの嬢ちゃんたちが持ってる袋に入ってるのは……」

「はい、すべて価格が高騰してる鉱物資源ですよ。ずっと使わずにためておいたんです」

「そうかそうか。よし、いい値段で買い取ってやろうじゃねぇか」

 先ほどまで怒りを滲ませていたガーフだったが、急に上機嫌になる。
 しかし、ハンナはぷぃっとそっぽを向いた。

「やだ」

「は?」

「あなたに売るぐらいなら、遠出してでも別のところで売る」

「ちょ、ちょっと待てよ! せっかく持ってきたってのに、それはねぇだろ?」

 ガーフは少し焦りを見せていた。
 無理やり笑みを浮かべ、ハンナの機嫌を損ねないようにしているのが露骨に分かる。
 彼はヤマトに目配せし、「お前もなんとか言ってやれ」と訴えてくるが――

「――謝ってください」

 強い口調でそう告げたのは、シルフィだった。
 彼女にしては珍しく感情的になっており、怒りの表情を見るのはヤマトも初めてだ。
 しかしガーフは笑みを消し、いらだたしげに声を震わせる。

「なんだと?」

「ヤマトさんに謝ってください。それでないと交渉はできません」

「シルフィ……」

 ヤマトもなにも言えず、女ハンターたちににらまれたガーフは次第に顔をひきつらせ、ついに折れた。

「……す、すまなかった」

「い、いえ、僕は別に……」

「いや、俺が間違ってた。今までお前さんのことを無能だと思っていたが、そうじゃなかったみたいだ」

「え?」

「これだけの素材をためてたってのは偶然じゃないじゃずだ。今回の資源高騰を予測してのことだろ? それならお前さんは、とんでもない先見の明を持っていたってことさ。これからもうちで取引をしてくれ」

 ガーフに頭を下げられ、ヤマトは嫌な気がしなかった。
 認められたことが嬉しかったのだ。
 三人へ目を向けると、彼女たちもニッコリと笑みを浮かべている。

「……もちろんですよ。これからもよろしくお願いします」

 顔を上げたガーフは、心の底からホッとしたように頬を緩ませるのだった。
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