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第二章 快進撃

激突する新旧パーティ

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 それからのトリニティスイーツは、順調に成長を続け、知名度もそれなりに上がっていた。

「ヤマトく~ん」

「なに? って、うわっ!?」

 パーティメンバーと露店の並ぶ市場を歩いていると、ヤマトの腕へハンナが抱きついてきた。
 
「にゅふふっ、ヤマトくんの腕は細くて可愛いね~」

「ちょ、ちょっとハンナ!? 急にどうしたのさ?」

「そ、そうですよハンナちゃん! そんなうらやまっ、じゃなくて……急に抱きついたりしたら、ヤマトさんが転んじゃいますよ」

「ただのスキンシップだよぉ」

 そう言ってハンナは幸せそうに目を細めながら、ヤマトの腕に頬ずりしてくる。
 彼女はこの頃、ヤマトに過剰なスキンシップをとるようになっていた。
 心を開いてくれているのだから喜ばしいことだが、獣人族とはいえ同年代の女の子に密着されれば彼も気が気でない。
 これも動物に好かれるヤマトの性質なのだろうか。

「ス、スキンシップなら、私もいいですよね? ……え、えいっ」

 小さく呟いたシルフィがハンナの反対側に回り、左腕へギュッと抱きついていた。
 エルフの尖った耳が真っ赤になっている。
 
「シ、シルフィまで!?」

 ハンナとは違って控えめに優しく抱き着くものだから、なんだかムズムズする。
 露店の店員や通行人の視線が突き刺さり、居心地が悪い。
 すると、ヤマトの右肩と左肩からピー助とポゥ太が冷やかすように鳴いた。

「クェェェ」

「クックッ」

(しょ、しょうがないだろ!)

 今度は、ラミィが笑いながら小鳥たちの言葉を代弁した。

「まったく、モテモテじゃないか」

「ラ、ラミィまで……」

 しばらくヤマトは、左右から上目遣いに見上げて話しかけてくる美少女たちに難儀なんぎしながら、転ばないようにゆっくり歩いた。
 慣れていない彼は内心胸がドキドキで気が気でない。

 やがて、彼の前を歩いていたラミィが足を止める。
 目の前に四人組のパーティーが立ち、道をふさいでいたからだ。
 彼らが目を向けていたのはヤマトただ一人だった。

「なんだぁ? 無能の資金管理野郎じゃねぇか。お前、まだここにいたのかよ」

「マキシリオン……」

「君、ザコのくせになんで可愛い女の子たちに囲まれてるわけ? もしかして、ソウルヒートの名前でも借りて、チヤホヤされようって魂胆こんたん?」

「ふんっ、下品ですわね」

「い、いや、僕は別に……」

 ライダとスノウがさげすむような目を向けて吐き捨てた。
 それを聞いたハンナとシルフィは、むっとして眉を寄せ、ヤマトから体を離すと彼を守るように一歩前へ出た。

「ヤマトくん、この人たち誰?」

「ハンターパーティのソウルヒートだよ」

 ヤマトはそう紹介しつつ、ソウルヒート三人の後ろに、長くて綺麗な黒髪を後ろへ流した美女が立っていることに気付いた。
 初めて見る女性だが、ハンター用の装備をしているところを見るに、ヤマトが抜けた後に加入した新メンバーといったところだろう。
 饒舌じょうぜつなライダたちとは違い、なぜだか表情が暗い。
 その視線に気付いたマキシリオンは、三日月のような歪んだ笑みを浮かべた。

「あぁ、紹介するぜ。こいつはマヤ、てめぇを追いだして加えたメンバーだ。資金管理だけじゃなくて、後方支援もできる優秀なやつだ」

「そう、なんだ」

 ヤマトは複雑な心境で顔を引きつらせる。
 しかしマヤは、なにも言わず目も合わせなかった。

「そんなことより君たち、そこの無能なんかといるより僕と遊んだほうが楽しいよ」

 ライダは優しい声色で言って、前髪をかきあげ微笑みながら近づいて来る。
 しかし、ラミィの横を通りすぎようとしたとき、彼女はささやいた。

「これがソウルヒートですって? 冗談でしょ?」

「ん? なにか言ったかい? お姉さん」

 ラミィが答える前にハンナが答えた。

「信じらんない。少しでも憧れた私がバカだったよ」

「訂正してください。ヤマトさんは無能なんかじゃないです」

 シルフィも加わり、雲行きが怪しくなってきた。
 しかしマキシリオンはバカにするように吹き出し、スノウが片頬をつり上げながら告げる。

「あなたたち、気は確かですの? その男は、ただの無能でしてよ。一緒にいても邪魔なだけですわ」

「酷い……」

「ああ、聞き捨てならないな。彼は無能なんかじゃない。最強パーティのメンバーにふさわしい男だよ」

「あぁん? てめぇら、なに言ってやがる。そいつは、財布の管理ぐらいしかできない無能だろうが!」

 マキシリオンがいらだち怒声を発するが、ラミィは気丈に言い返す。

「あんたたち、ずっと一緒のパーティーにいたのに、なにも分かっていないんだね」

「あ?」

「私たちがどん底からはい上がれたのは、ヤマトがアドバイスをしてくれたからだ! 資金管理をなめるな!」

「「「っ!」」」

 ラミィの言葉に、ソウルヒートの面々は目を見開く。
 そしてその後ろにいたマヤも、顔をバッと上げヤマトを見つめた。
 
「……ふんっ、ずいぶんと手なずけてるみたいだな」

「つまらないね」

「どうせすぐに分かることですわ。自分たちが間違っていたと」

「どっちがだ」

「そうだよ。ヤマトくんのほうが、そこのナルシストくんなんかより、よっぽどカッコいいし」

「んなっ!?」

「ふふっ、ハンナちゃんの言う通りです」

 ソウルヒートとトリニティスイーツの面々がにらみ合い、バチバチと火花を散らす。
 その火種となったヤマトは、一触即発の雰囲気に戸惑うが、マキシリオンたちの装備からあることに気が付いた。

「……なぁ、大丈夫か?」

「あ? なにがだよ」

「装備の質が前よりもだいぶ落ちてるみたいだけど……」

「っ……」

 心配するようなヤマトの問いに、マキシリオンは固まる。
 代わりにスノウが甲高い声を上げた。

「そ、そんなことありませんわ!」

「でも、スノウだって、いつもの高いアクセサリー着けてないし」

「あ、あなたには関係のないことですわっ」

 スノウは頬を引きつらせて目をそらした。
 気まずい沈黙が訪れ、やがてマキシリオンが舌打ちして告げる。

「……行くぞ」

 マキシリオン、ライダ、スノウは忌々しげに顔を歪め、なにも言わずにヤマトたちの横を通りすぎて行く。
 しかしそこで初めて、ヤマトは気付いた。
 マヤが自分を凝視していることに。

「マヤさん、だっけ? どうかした?」

 しかしヤマトと目が合うと、彼女は頬をみるみる紅潮させ目をそらした。
 そしてそそくさとマキシリオンたちの後を追う。

「……あれがソウルヒートだなんて、いまだに信じられない」

「うん、ヤマトくんが無能だなんて、本気で言ってるのなら頭がおかしいとしか思えないね」

「ヤマトさんっ、私たちはあなたの味方ですから!」

 シルフィはヤマトの手を握り、柔らかく微笑んだ。
 
「……ありがとう」

 気恥ずかしくなって、うつむいたヤマトの表情は見えなかったが、その声は感謝に震えていた。
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