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第四章 ライトニングハウンド
マーヤの慈愛
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それから数日。
久しぶりに穏やかな日々を過ごすシュウゴだったが、先延ばしにしていた問題をメイが掘り起こす。
「お兄様、時は来ました――」
というわけで、メイの働き口を求め、シュウゴとメイはカムラの南西にある第一教会に向かっていた。
第一教会はカムラの第三の勢力である教団の本拠地であり、教徒たちを束ねる数名の司祭、白魔法を扱い公務の補助をする神官、そして教団の代表でありカムラの教徒たちの心を一つにまとめた立役者であるシスター『マーヤ』の拠点である。
また、周辺には孤児院と診療所が並んでおり、どちらも教団が運営している。
マーヤはシスターという立場上、直接教団の運営に口を出すことはないが、教徒たちの熱狂的な信頼故、民の代表としてバラムやヴィンゴールと直接意見を交わすこともある。
司祭単独でこれはできない。
シュウゴたちが教会に入ると、奥の教壇で一人の司祭が聖書を音読していた。
その手前の会衆席に十数人の教徒たちが座り熱心に聞いている。
シュウゴたちが入ってすぐのところで立ち止まっていると、脇に立っていた助祭の男が近づいて来た。
白の祭服で手には聖書を持ち、柔和な微笑みを浮かべながらシュウゴに話しかける。
「こんにちは。今日はどうされましたか?」
「こんにちは。シスター『マーヤ』にお話があり参りました。俺はシュウゴ、こちらはメイと言います。事前に面会の許可はとってあるのですが……」
助祭は二人の恰好を今一度確認すると、納得したように破顔した。
「あなた方がそうでしたか。マーヤ様からお聞きしております。では、こちらへどうぞ」
シュウゴは助祭に案内され、会衆席の横を通って奥にあるシスターマーヤの執務室に足を踏み入れた。
執務室は質素なものだった。
いや、清貧というべきか。
部屋は狭く掃除は行き届いているものの、特に装飾品などは飾っておらず、マーヤの執務セットと応接用の簡素なソファとテーブル。あとは聖書などが並んだ書棚ぐらいだ。
シュウゴの姿を見ると椅子に座っていたマーヤが立ち上がった。
「……シュウゴさん」
「お久しぶりです。シスターマーヤ」
シュウゴが懐かしさに頬を緩めながら頭を下げ、メイも続いて「こんにちは」と挨拶し頭を下げる。
シスターマーヤは白と黒のベール状の頭巾に、ローブのような黒の修道服を身に纏っていた。
大して上質のものには見えないが、整った色白の顔に全てを包み込むような温かい笑みを浮かべ、堂々とした立ち振る舞いもあり、まるで聖女のような雰囲気を醸し出している。
年齢は四十を超えているはずだが、その美しさに変わりはない。
「本当にひさしぶりですね。見違えるほど大きくなったわ」
マーヤは遠い記憶に想いを馳せるように目を細める。
シュウゴがまだ孤児院にいたとき、教会側は人不足でマーヤもよく手伝いに来ていた。
シュウゴは彼女を姉のように慕っており、メイの件も彼女なら相談に乗ってくれると思ったのだ。
シュウゴは孤児院を出てからこれまでにあったことを話した。
常にギリギリの生活をしながら素材を集めていたこと、設計した装備を完成させて今はハンターとして活動していること、デュラやメイとの出会いなど……
「――大変、だったのですね……よく頑張りましたね」
マーヤは真剣な表情で瞳を潤ませていた。
シュウゴは、その言葉だけで救われるような思いだった。
なぜかメイも涙ぐんでいる。
「俺はもう、大丈夫です。今日来たのは、メイに仕事を与えてやってほしいからなんです」
「仕事、ですか?」
マーヤが聞き返すと、メイが強い眼差しをマーヤへ向けた。
「はい。私はシュウゴお兄様たちのお役に立ちたいのです。戦闘ではもちろんのこと、生活費だってお兄様に負担させてばかりではいられません」
それがメイの抱えていた悩みだった。
シュウゴと一緒にいることは絶対に変わらないが、一緒にクエストへ行っても、クエストの報酬金が増えるわけではない。
それでもメイの分の家賃や服代などの生活費がかかる。
だからこそ、自分の力だけで生活費を工面したかったのだ。
メイの熱心な口ぶりに、マーヤは口を挟むことなくしっかり聞き届けた。
そしてマーヤは深く頷くと、椅子に座って机から一枚の紙を取り出した。
「分かりました。現実から目を逸らさず、懸命に生き抜こうとしているあなたたちのためです」
マーヤは急いでペンを走らせると、書き終えた手紙を折り畳みシュウゴへ渡した。
「これは私からの紹介状です。彼女がここに来た経緯、彼女特有の性質、働く目的なども詳細に書いてあります。これを孤児院の院長に渡してください」
「……本当にありがとうございます」
シュウゴはそれを受け取ると、深く頭を下げた。メイもそれに続く。
「いいえ。これぐらいはさせてください。あなたたちの行く末に幸福が待っていること、心からお祈りしていますよ」
シュウゴとメイは再度マーヤに礼を言い、彼女の温かい笑みに背中を押されながら教会を後にする。
その後すぐに孤児院へ生き、院長にマーヤの手紙を渡すと、快くメイを職員として受け入れてくれた。
久しぶりに穏やかな日々を過ごすシュウゴだったが、先延ばしにしていた問題をメイが掘り起こす。
「お兄様、時は来ました――」
というわけで、メイの働き口を求め、シュウゴとメイはカムラの南西にある第一教会に向かっていた。
第一教会はカムラの第三の勢力である教団の本拠地であり、教徒たちを束ねる数名の司祭、白魔法を扱い公務の補助をする神官、そして教団の代表でありカムラの教徒たちの心を一つにまとめた立役者であるシスター『マーヤ』の拠点である。
また、周辺には孤児院と診療所が並んでおり、どちらも教団が運営している。
マーヤはシスターという立場上、直接教団の運営に口を出すことはないが、教徒たちの熱狂的な信頼故、民の代表としてバラムやヴィンゴールと直接意見を交わすこともある。
司祭単独でこれはできない。
シュウゴたちが教会に入ると、奥の教壇で一人の司祭が聖書を音読していた。
その手前の会衆席に十数人の教徒たちが座り熱心に聞いている。
シュウゴたちが入ってすぐのところで立ち止まっていると、脇に立っていた助祭の男が近づいて来た。
白の祭服で手には聖書を持ち、柔和な微笑みを浮かべながらシュウゴに話しかける。
「こんにちは。今日はどうされましたか?」
「こんにちは。シスター『マーヤ』にお話があり参りました。俺はシュウゴ、こちらはメイと言います。事前に面会の許可はとってあるのですが……」
助祭は二人の恰好を今一度確認すると、納得したように破顔した。
「あなた方がそうでしたか。マーヤ様からお聞きしております。では、こちらへどうぞ」
シュウゴは助祭に案内され、会衆席の横を通って奥にあるシスターマーヤの執務室に足を踏み入れた。
執務室は質素なものだった。
いや、清貧というべきか。
部屋は狭く掃除は行き届いているものの、特に装飾品などは飾っておらず、マーヤの執務セットと応接用の簡素なソファとテーブル。あとは聖書などが並んだ書棚ぐらいだ。
シュウゴの姿を見ると椅子に座っていたマーヤが立ち上がった。
「……シュウゴさん」
「お久しぶりです。シスターマーヤ」
シュウゴが懐かしさに頬を緩めながら頭を下げ、メイも続いて「こんにちは」と挨拶し頭を下げる。
シスターマーヤは白と黒のベール状の頭巾に、ローブのような黒の修道服を身に纏っていた。
大して上質のものには見えないが、整った色白の顔に全てを包み込むような温かい笑みを浮かべ、堂々とした立ち振る舞いもあり、まるで聖女のような雰囲気を醸し出している。
年齢は四十を超えているはずだが、その美しさに変わりはない。
「本当にひさしぶりですね。見違えるほど大きくなったわ」
マーヤは遠い記憶に想いを馳せるように目を細める。
シュウゴがまだ孤児院にいたとき、教会側は人不足でマーヤもよく手伝いに来ていた。
シュウゴは彼女を姉のように慕っており、メイの件も彼女なら相談に乗ってくれると思ったのだ。
シュウゴは孤児院を出てからこれまでにあったことを話した。
常にギリギリの生活をしながら素材を集めていたこと、設計した装備を完成させて今はハンターとして活動していること、デュラやメイとの出会いなど……
「――大変、だったのですね……よく頑張りましたね」
マーヤは真剣な表情で瞳を潤ませていた。
シュウゴは、その言葉だけで救われるような思いだった。
なぜかメイも涙ぐんでいる。
「俺はもう、大丈夫です。今日来たのは、メイに仕事を与えてやってほしいからなんです」
「仕事、ですか?」
マーヤが聞き返すと、メイが強い眼差しをマーヤへ向けた。
「はい。私はシュウゴお兄様たちのお役に立ちたいのです。戦闘ではもちろんのこと、生活費だってお兄様に負担させてばかりではいられません」
それがメイの抱えていた悩みだった。
シュウゴと一緒にいることは絶対に変わらないが、一緒にクエストへ行っても、クエストの報酬金が増えるわけではない。
それでもメイの分の家賃や服代などの生活費がかかる。
だからこそ、自分の力だけで生活費を工面したかったのだ。
メイの熱心な口ぶりに、マーヤは口を挟むことなくしっかり聞き届けた。
そしてマーヤは深く頷くと、椅子に座って机から一枚の紙を取り出した。
「分かりました。現実から目を逸らさず、懸命に生き抜こうとしているあなたたちのためです」
マーヤは急いでペンを走らせると、書き終えた手紙を折り畳みシュウゴへ渡した。
「これは私からの紹介状です。彼女がここに来た経緯、彼女特有の性質、働く目的なども詳細に書いてあります。これを孤児院の院長に渡してください」
「……本当にありがとうございます」
シュウゴはそれを受け取ると、深く頭を下げた。メイもそれに続く。
「いいえ。これぐらいはさせてください。あなたたちの行く末に幸福が待っていること、心からお祈りしていますよ」
シュウゴとメイは再度マーヤに礼を言い、彼女の温かい笑みに背中を押されながら教会を後にする。
その後すぐに孤児院へ生き、院長にマーヤの手紙を渡すと、快くメイを職員として受け入れてくれた。
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