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最終章 逆襲の投資家
祖国へ
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「――本当によろしかったのですか?」
「……うん。イーリンたちを巻き込むわけにはいかないからね」
悲しげにまつ毛を伏せ問うアリサに、ノベルは淡々と答えた。
二人は再びエデンの地に戻って来た。
そこはエデンの大都市の郊外。
辺りは既に暗くなり、まるで以前ここから逃げ出したときまで、時間をさかのぼったかのような錯覚を覚える。
だがあのときとは違い、今は陰謀に対抗するだけの力を手にしていた。
「行こう」
「はい」
ノベルはアリサを連れ歩き出す。
ここに来たのは二人だけ。
本来、魔人族の報復から逃れるため、スルーズ商会はドルガンへ移動すべきだとルインに提案し、各商会との縁も切った。
スルーズ商会と共にノートスを出る直前になって、ノベルはルインたちに告げた。
『僕にはエデンに戻り、果たさなければならないことがあります』
と。
もちろんルインやイーリンは、手伝うと言ってくれたが、彼らを血塗られた復讐の道に引きずり込むわけにはいかない。
そして、ノベルはスルーズ商会への投資をここで取り止め、元本に対する今までの利益分を所有券で受け取ると、別れを告げアリサと二人でエデンへと向かったのだ。
そのときのイーリンの悲しげな表情がノベルの脳裏に焼き付いて離れない。
『いつまでも、ノベルさんのお帰りをお待ちしておりますわ。それまで、どうかお元気で』
「……イーリン……」
彼女と過ごした輝かしい日々がノベルの心を満たす。
そして、一旦それを思い出の引き出しに封じ、覚悟を決める。
これから自分が行うのは逆襲なのだ。
おそらく、裏では魔人が糸を引いている。
一切の迷いも加減も許されない――
「――着きました」
ノベルは、アリサの声で無意識に動かしていた足を止める。
目の前に立つ立派な屋敷は、ホロウ商会のものだ。
エデンで最も信頼のおける男、リュウエンの協力を得ることがこの戦いを左右すると言っても過言ではない。
緊張の面持ちでノベルが屋敷に入ると、一階では商会員たちが忙しそうに動き回っていた。
ある者は書類の束を机に積み重ねて必死に目を通し、ある者は若手の男たちへてきぱきと指示を出している。
ピリピリとした雰囲気で穏やかではない。
そもそも、この遅い時間帯に会員たちが残って忙しそうに仕事をしていることが異様だった。
「なにかあったのでしょうか?」
「そうかもしれない。これは普通じゃないな」
会員たちは忙しさのあまり、屋敷内に現れた二人に気付かない。
ノベルがリュウエンの執務室へ行こうと歩き始めると、どこからか野太い叫び声が上がった。
「あぁぁぁっ! ランダー王子ぃっ!」
ノベルはビックリして足を止める。
会員たちも手を止め、キョロキョロと周囲を見回した。
そしてようやく、ノベル――ランダーの存在に気が付いたようだ。
大声を上げた人物は、二階へ続いている階段から慌てて降りて来た。
「ハ、ハンガス!?」
白髪を角刈りにした恰幅の良い大男。
ランダーがかつて投資していた、ハンガス工房の店主ハンガスだ。
ハンガスは周囲のホロウ商会員たちがざわついているのを見て、大声で叫んだ。
「おらお前らっ! 油売ってるヒマなんてないだろうが!」
そう叫ぶと、会員たちは渋々と自分の仕事に戻っていく。
ハンガスはランダーの元まで歩み寄ると、苦笑しながら後頭部をかいた。
「いやぁ、大声出してすんません。まさか、またランダー王子に会えるとは思わなかったものですから」
「それは僕も同じ気持ちだよ。でも、どうしてハンガスがホロウ商会に?」
「話すと長くなるので、歩きながらでどうでしょう? どうぞこちらへ」
ハンガスはそう言って、ランダーに背を向け歩き出した。どうやらリュウエンの元へ案内してくれるようだ。
ランダーとアリサはその背中を追う。
「……うん。イーリンたちを巻き込むわけにはいかないからね」
悲しげにまつ毛を伏せ問うアリサに、ノベルは淡々と答えた。
二人は再びエデンの地に戻って来た。
そこはエデンの大都市の郊外。
辺りは既に暗くなり、まるで以前ここから逃げ出したときまで、時間をさかのぼったかのような錯覚を覚える。
だがあのときとは違い、今は陰謀に対抗するだけの力を手にしていた。
「行こう」
「はい」
ノベルはアリサを連れ歩き出す。
ここに来たのは二人だけ。
本来、魔人族の報復から逃れるため、スルーズ商会はドルガンへ移動すべきだとルインに提案し、各商会との縁も切った。
スルーズ商会と共にノートスを出る直前になって、ノベルはルインたちに告げた。
『僕にはエデンに戻り、果たさなければならないことがあります』
と。
もちろんルインやイーリンは、手伝うと言ってくれたが、彼らを血塗られた復讐の道に引きずり込むわけにはいかない。
そして、ノベルはスルーズ商会への投資をここで取り止め、元本に対する今までの利益分を所有券で受け取ると、別れを告げアリサと二人でエデンへと向かったのだ。
そのときのイーリンの悲しげな表情がノベルの脳裏に焼き付いて離れない。
『いつまでも、ノベルさんのお帰りをお待ちしておりますわ。それまで、どうかお元気で』
「……イーリン……」
彼女と過ごした輝かしい日々がノベルの心を満たす。
そして、一旦それを思い出の引き出しに封じ、覚悟を決める。
これから自分が行うのは逆襲なのだ。
おそらく、裏では魔人が糸を引いている。
一切の迷いも加減も許されない――
「――着きました」
ノベルは、アリサの声で無意識に動かしていた足を止める。
目の前に立つ立派な屋敷は、ホロウ商会のものだ。
エデンで最も信頼のおける男、リュウエンの協力を得ることがこの戦いを左右すると言っても過言ではない。
緊張の面持ちでノベルが屋敷に入ると、一階では商会員たちが忙しそうに動き回っていた。
ある者は書類の束を机に積み重ねて必死に目を通し、ある者は若手の男たちへてきぱきと指示を出している。
ピリピリとした雰囲気で穏やかではない。
そもそも、この遅い時間帯に会員たちが残って忙しそうに仕事をしていることが異様だった。
「なにかあったのでしょうか?」
「そうかもしれない。これは普通じゃないな」
会員たちは忙しさのあまり、屋敷内に現れた二人に気付かない。
ノベルがリュウエンの執務室へ行こうと歩き始めると、どこからか野太い叫び声が上がった。
「あぁぁぁっ! ランダー王子ぃっ!」
ノベルはビックリして足を止める。
会員たちも手を止め、キョロキョロと周囲を見回した。
そしてようやく、ノベル――ランダーの存在に気が付いたようだ。
大声を上げた人物は、二階へ続いている階段から慌てて降りて来た。
「ハ、ハンガス!?」
白髪を角刈りにした恰幅の良い大男。
ランダーがかつて投資していた、ハンガス工房の店主ハンガスだ。
ハンガスは周囲のホロウ商会員たちがざわついているのを見て、大声で叫んだ。
「おらお前らっ! 油売ってるヒマなんてないだろうが!」
そう叫ぶと、会員たちは渋々と自分の仕事に戻っていく。
ハンガスはランダーの元まで歩み寄ると、苦笑しながら後頭部をかいた。
「いやぁ、大声出してすんません。まさか、またランダー王子に会えるとは思わなかったものですから」
「それは僕も同じ気持ちだよ。でも、どうしてハンガスがホロウ商会に?」
「話すと長くなるので、歩きながらでどうでしょう? どうぞこちらへ」
ハンガスはそう言って、ランダーに背を向け歩き出した。どうやらリュウエンの元へ案内してくれるようだ。
ランダーとアリサはその背中を追う。
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