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序章
竜人の戦士たち
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とある世界のかたすみに、『竜人族』という亜人種の住む村があった。
彼ら竜人は、怪物並の高い身体能力に加え、人間同様の高い知性を持つ希少な種族だ。
その多くがハンターとして、村を守るために日夜戦っていた。
「――ギャオォォォォォンッ!」
荒々しい野獣の咆哮が森中へ響き渡る。
ジリジリと頭部の角に雷を溜め、獰猛な牙を光らせる猛獣。筋骨隆々な四肢に紫の剛毛を纏い、四足歩行している全長三メートルのモンスターの名は『べヒモス』。
竜人の村近傍の森に出現する凶暴なモンスターだ。
「「「――はぁぁぁっ!」」」
鋭い牙と荒々しい戦意を向けられながらも、四人の竜人が立ち向かう。
双剣使いの男と長剣使いの青年が左右から斬りかかり、後方から矢が放たれる。
べヒモスは、左右からの斬撃を強靭な爪で払い、飛来する矢は身を反らしてかわした。
そして反撃とばかりに、勢い良く斬りかかってきた長剣使い『ウィルム・クルセイド』へ噛みつく。
「くっ!」
ウィルムは、反射的に長剣を横に構え、べヒモスの牙を受け止めた。
強靭な牙に挟まれた刃は、なんとか持ちこたえているが凄まじい咬合力だ。
すぐにウィルムの腕は震え始め、いつまで耐えられるか分からない。
「――ウィル! しゃがめぇ!」
背後から野太い叫び声が発されると、ウィルムはすぐにロングソードから手を離し、上体を下げる。
すると、後ろから巨大なハンマーが迫り、べヒモスの顔面へ直撃した。
「クアァァァァァ!」
太い角は雷光の拡散と共に砕け、べヒモスが勢いよくのけぞり、バランスを崩して倒れ込む。
すかさず、後方から矢が連続して放たれ、ウィルムはローグソードを拾って双剣使いと共に斬りかかった。
腹部の皮膚へは刃がたやすく通って深く裂き、飛来した矢も目に刺さって失明させることに成功。
もがきながら苦しそうに呻くべヒモスの頭部へ、巨大なハンマーが振り下ろされる。
「これで終わりだぁっ!」
空間を揺らすほどの衝撃が叩きつけられ、戦いはハンターたちの勝利で幕を終えた。
「……ふぅ、どっと疲れたぜ」
ハンマー使いの大男がため息を吐き、べヒモスの死骸を前にドカッと腰を下ろす。
彼はスキンヘッドの大男で、名は『シルバ・クルセイド』。このハンターパーティーのリーダーをやっている。
筋力には自信があり、愛用の巨大なハンマーは勝敗を決め手となるかなめだ。
「こらこら兄さん、油断は禁物だろ。もしコイツが死んだふりしてたらどうするんだ? この森にいる限り、戦いは終わってないよ」
べヒモスの剛毛を切り取りながら告げたのは、ウィルム・クルセイド。
シルバの弟だ。
強面の兄とは対照的で、短い金髪に爽やかな面貌の好青年。
身体能力は全体的に高く、パーティーのエースとも言える存在だ。
その横で素材を剥ぎ取っていた双剣使いも、ウィルムの言葉に同意するように頷いている。
「はいはい分かったよ」
耳をほじくりながら面倒くさそうに言って、シルバはのっそりと立ち上がる。
そのときようやく、遠方で援護していた弓使いが駆け寄って来る。
「みんな大丈夫? 怪我はない?」
「うん、君の援護のおかげだよ。助かった」
「良かったぁ……」
女竜人の『アクア』は、安堵で顔をほころばせる。
年齢はウィルムと同じ十五歳の、銀髪ショートカットの女の子だ。いわゆる幼馴染。
活発な性格に愛らしい顔立ちで、村のハンターの中でも男女問わず人気がある。
笑ったときに覗く八重歯が魅力的だ。
「ウィルちゃんが噛みつかれたときは、本当に心配したよ」
「心配しすぎだって。あんなのまともに受けるわけないだろ? それに、君からもらったブレスレットもあるし」
ウィルムは腕に着けていた、ミスリル銀製のブレスレットを胸の前で見せる。
数日前、アクアがプレゼントしたアクセサリーだ。
なんでも、国の都市部で流行っているらしく、身に着けている者には幸運が訪れるのだとか。
それを見てアクアは嬉しそうに頬を緩ませた。
彼女も左腕に同じものを着けている。
「えへへ」
それを見たシルバがこれ見よがしにため息を吐いた。
「お揃いのアクセサリーねぇ……お前ら、もう結婚しちまえよ」
「きゅ、急になにを言い出すのさ、兄さん!」
ウィルムは慌てた様子で声を上げ、目を泳がせる。
しかしアクアは頬を赤らめまんざらでもなさそうだ。
というのも、彼女は以前から「私、ウィルちゃんのお嫁さんになる!」と宣言しているから周知の事実なのである。
気恥ずかしくなったウィルムは、助けを求めようと周囲を見渡すが――
彼ら竜人は、怪物並の高い身体能力に加え、人間同様の高い知性を持つ希少な種族だ。
その多くがハンターとして、村を守るために日夜戦っていた。
「――ギャオォォォォォンッ!」
荒々しい野獣の咆哮が森中へ響き渡る。
ジリジリと頭部の角に雷を溜め、獰猛な牙を光らせる猛獣。筋骨隆々な四肢に紫の剛毛を纏い、四足歩行している全長三メートルのモンスターの名は『べヒモス』。
竜人の村近傍の森に出現する凶暴なモンスターだ。
「「「――はぁぁぁっ!」」」
鋭い牙と荒々しい戦意を向けられながらも、四人の竜人が立ち向かう。
双剣使いの男と長剣使いの青年が左右から斬りかかり、後方から矢が放たれる。
べヒモスは、左右からの斬撃を強靭な爪で払い、飛来する矢は身を反らしてかわした。
そして反撃とばかりに、勢い良く斬りかかってきた長剣使い『ウィルム・クルセイド』へ噛みつく。
「くっ!」
ウィルムは、反射的に長剣を横に構え、べヒモスの牙を受け止めた。
強靭な牙に挟まれた刃は、なんとか持ちこたえているが凄まじい咬合力だ。
すぐにウィルムの腕は震え始め、いつまで耐えられるか分からない。
「――ウィル! しゃがめぇ!」
背後から野太い叫び声が発されると、ウィルムはすぐにロングソードから手を離し、上体を下げる。
すると、後ろから巨大なハンマーが迫り、べヒモスの顔面へ直撃した。
「クアァァァァァ!」
太い角は雷光の拡散と共に砕け、べヒモスが勢いよくのけぞり、バランスを崩して倒れ込む。
すかさず、後方から矢が連続して放たれ、ウィルムはローグソードを拾って双剣使いと共に斬りかかった。
腹部の皮膚へは刃がたやすく通って深く裂き、飛来した矢も目に刺さって失明させることに成功。
もがきながら苦しそうに呻くべヒモスの頭部へ、巨大なハンマーが振り下ろされる。
「これで終わりだぁっ!」
空間を揺らすほどの衝撃が叩きつけられ、戦いはハンターたちの勝利で幕を終えた。
「……ふぅ、どっと疲れたぜ」
ハンマー使いの大男がため息を吐き、べヒモスの死骸を前にドカッと腰を下ろす。
彼はスキンヘッドの大男で、名は『シルバ・クルセイド』。このハンターパーティーのリーダーをやっている。
筋力には自信があり、愛用の巨大なハンマーは勝敗を決め手となるかなめだ。
「こらこら兄さん、油断は禁物だろ。もしコイツが死んだふりしてたらどうするんだ? この森にいる限り、戦いは終わってないよ」
べヒモスの剛毛を切り取りながら告げたのは、ウィルム・クルセイド。
シルバの弟だ。
強面の兄とは対照的で、短い金髪に爽やかな面貌の好青年。
身体能力は全体的に高く、パーティーのエースとも言える存在だ。
その横で素材を剥ぎ取っていた双剣使いも、ウィルムの言葉に同意するように頷いている。
「はいはい分かったよ」
耳をほじくりながら面倒くさそうに言って、シルバはのっそりと立ち上がる。
そのときようやく、遠方で援護していた弓使いが駆け寄って来る。
「みんな大丈夫? 怪我はない?」
「うん、君の援護のおかげだよ。助かった」
「良かったぁ……」
女竜人の『アクア』は、安堵で顔をほころばせる。
年齢はウィルムと同じ十五歳の、銀髪ショートカットの女の子だ。いわゆる幼馴染。
活発な性格に愛らしい顔立ちで、村のハンターの中でも男女問わず人気がある。
笑ったときに覗く八重歯が魅力的だ。
「ウィルちゃんが噛みつかれたときは、本当に心配したよ」
「心配しすぎだって。あんなのまともに受けるわけないだろ? それに、君からもらったブレスレットもあるし」
ウィルムは腕に着けていた、ミスリル銀製のブレスレットを胸の前で見せる。
数日前、アクアがプレゼントしたアクセサリーだ。
なんでも、国の都市部で流行っているらしく、身に着けている者には幸運が訪れるのだとか。
それを見てアクアは嬉しそうに頬を緩ませた。
彼女も左腕に同じものを着けている。
「えへへ」
それを見たシルバがこれ見よがしにため息を吐いた。
「お揃いのアクセサリーねぇ……お前ら、もう結婚しちまえよ」
「きゅ、急になにを言い出すのさ、兄さん!」
ウィルムは慌てた様子で声を上げ、目を泳がせる。
しかしアクアは頬を赤らめまんざらでもなさそうだ。
というのも、彼女は以前から「私、ウィルちゃんのお嫁さんになる!」と宣言しているから周知の事実なのである。
気恥ずかしくなったウィルムは、助けを求めようと周囲を見渡すが――
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