8 / 66
第一章 破滅の影
デーモンの談合
しおりを挟む
とある商会の豪邸。
夜遅くに談合する三人の男の姿があった。
光沢放つ高級テーブル上のロウソクの灯に照らされ、獣人の顔が浮かび上がる。
金の毛並みを携えた獅子の顔に、商人にしては豪勢な身なりは、存在するだけで空気を圧迫するようだ。
グレイヴ商会の会長で、ギルドデーモンの創設者でもある『グレイヴ』だ。
「ついに、債務超過した店が出たようだな」
「はい。しかし即座に店を押収し、迅速に債権回収を済ませました。連鎖的に資金繰りが悪化する取引先がないよう、既に手は打っております」
答えたのは、ドラチナス金庫の総合番頭である『ホルムス』というオークで、デーモンの副会長を務めている。
金庫番は、主に顧客の資金を預かったり、商会や店に融資したりして、手数料と金利で収益を得る事業だ。
もし、融資先が破産したりすると大損害をこうむるので、あらかじめ信用調査をし、その後の定期面談などで融資先の財務状況を把握。雲行きが怪しくなった場合は、返済期日に関わらず融資の全額返済を迫る。既に破産していた場合は、融資先のあらゆる資産を押収し負債の回収に回る。
この町の金庫番は各地区に数店舗あるが、すべてドラチナス金庫の配下であり、実質的に金融を支配していた。ギルドに逆らえば、ドラチナス金庫を敵に回すことになり、この町では生きていけない。
グレイヴは目を光らせ厳かに問う。
「手が早くて結構。損害のほどは?」
「大したことはありません。差し押さえた店は、新たに開業しようとしていた商人へ売り渡し、店員は皆、都市部の闇市場で奴隷として高く売れましたから」
そう言ってホルムスは、パンパンに膨らんだ頬を笑みで歪ませる。
オークは本質的には欲望の塊で、市場の裏側でよく奴隷商や違法薬物の転売などを営んでいる。ホルムスはその伝手が豊富なため、貪欲なわりに隙が無い。
それでもグレイヴは、険しい表情を崩さず低く唸った。
「しかし、これからも破産する者は増えるだろうな。現存するアビスどもは減り、上質な素材も在庫が少ない。それを察したのか、ギルドを退会してよそへ移住する商人も現れ始めた始末だ。そのせいで、ギルドの収益は落ちている……シャーム、例の薬物開発はまだか?」
「もう間もなくでございます」
落ち着いた声で答えたのは、ホルムスの横に座る細身の人間だった。
薬屋フローラの店長で、デーモンのもう一人の副会長でもある『シャーム』だ。
狡猾そうな不敵な眼差しをグレイヴへ向け、堂々としている。
そんな余裕綽々な態度に、グレイヴは額に青筋を立て苛ただしげに言った。
「遅いぞ。なにをもたもたしている」
「申し訳ありません。それが、あと一歩というところでどうしても素材がそろわず……アルビオン商会にも協力を依頼しているところです。もう少々お待ちください」
「まったく、わしも多額の出資をしておるのだ。もっと急いでくれ」
ホルムスが眉間にしわを寄せ、少し険の含んだ声で言うと、シャームは無言で頷く。
そしてグレイヴは深く息を吐き告げた。
「とにかく急げ。我らデーモンの繁栄のために。邪魔な者は排除して構わん」
「「承知しました」」
夜遅くに談合する三人の男の姿があった。
光沢放つ高級テーブル上のロウソクの灯に照らされ、獣人の顔が浮かび上がる。
金の毛並みを携えた獅子の顔に、商人にしては豪勢な身なりは、存在するだけで空気を圧迫するようだ。
グレイヴ商会の会長で、ギルドデーモンの創設者でもある『グレイヴ』だ。
「ついに、債務超過した店が出たようだな」
「はい。しかし即座に店を押収し、迅速に債権回収を済ませました。連鎖的に資金繰りが悪化する取引先がないよう、既に手は打っております」
答えたのは、ドラチナス金庫の総合番頭である『ホルムス』というオークで、デーモンの副会長を務めている。
金庫番は、主に顧客の資金を預かったり、商会や店に融資したりして、手数料と金利で収益を得る事業だ。
もし、融資先が破産したりすると大損害をこうむるので、あらかじめ信用調査をし、その後の定期面談などで融資先の財務状況を把握。雲行きが怪しくなった場合は、返済期日に関わらず融資の全額返済を迫る。既に破産していた場合は、融資先のあらゆる資産を押収し負債の回収に回る。
この町の金庫番は各地区に数店舗あるが、すべてドラチナス金庫の配下であり、実質的に金融を支配していた。ギルドに逆らえば、ドラチナス金庫を敵に回すことになり、この町では生きていけない。
グレイヴは目を光らせ厳かに問う。
「手が早くて結構。損害のほどは?」
「大したことはありません。差し押さえた店は、新たに開業しようとしていた商人へ売り渡し、店員は皆、都市部の闇市場で奴隷として高く売れましたから」
そう言ってホルムスは、パンパンに膨らんだ頬を笑みで歪ませる。
オークは本質的には欲望の塊で、市場の裏側でよく奴隷商や違法薬物の転売などを営んでいる。ホルムスはその伝手が豊富なため、貪欲なわりに隙が無い。
それでもグレイヴは、険しい表情を崩さず低く唸った。
「しかし、これからも破産する者は増えるだろうな。現存するアビスどもは減り、上質な素材も在庫が少ない。それを察したのか、ギルドを退会してよそへ移住する商人も現れ始めた始末だ。そのせいで、ギルドの収益は落ちている……シャーム、例の薬物開発はまだか?」
「もう間もなくでございます」
落ち着いた声で答えたのは、ホルムスの横に座る細身の人間だった。
薬屋フローラの店長で、デーモンのもう一人の副会長でもある『シャーム』だ。
狡猾そうな不敵な眼差しをグレイヴへ向け、堂々としている。
そんな余裕綽々な態度に、グレイヴは額に青筋を立て苛ただしげに言った。
「遅いぞ。なにをもたもたしている」
「申し訳ありません。それが、あと一歩というところでどうしても素材がそろわず……アルビオン商会にも協力を依頼しているところです。もう少々お待ちください」
「まったく、わしも多額の出資をしておるのだ。もっと急いでくれ」
ホルムスが眉間にしわを寄せ、少し険の含んだ声で言うと、シャームは無言で頷く。
そしてグレイヴは深く息を吐き告げた。
「とにかく急げ。我らデーモンの繁栄のために。邪魔な者は排除して構わん」
「「承知しました」」
0
あなたにおすすめの小説
魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。
名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。
絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。
運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。
熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。
そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。
これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。
「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」
知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?
今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。
バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。
追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。
シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる