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第二章 繁栄の生贄
隠された真実
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「――くっ」
ウィルムは目を閉じ、反射的に両腕を胸の前でクロスして防御の体勢をとる。
なんの意味もなさない行為だ。
他のハンターたちがアビスを追って来ることを期待したが、結局現れず、後は大人しく喰われるだけ。
そう覚悟したウィルムだったが、いつになっても敵に動きが無い。
「……?」
恐る恐るウィルムが目を開けると、アビスはその場でピタッと静止していた。
まるで時間が止まったかのようだが、口元は小刻みに動いて荒々しい呼吸を繰り返している。
そのとき、ウィルムの視界を光が襲った。
腕に着けているミスリル銀製のブレスレットへ、木々の合間を縫って差し込んだ光が反射したものだ。
それはかつて、アクアがウィルムへプレゼントしたもの。
他の装備と共に身に着けていたのだ。
「――ウィル、ちゃん」
「………………え?」
突然の声にウィルムは顔を上げる。
今のは低くおぞましいアビスの声だったが、はっきりと聞こえた。
アビスは小刻みに震えだし、歯をガチガチと鳴らしている。
今にも暴れ出しそうだ。
ウィルムの体は恐怖のあまり勝手に動いた。
「う、うわぁぁぁぁぁっ!」
ロングソードを強く握り雄たけびを上げる。
地を蹴って跳躍し、漆黒の髪を引っ張って高く舞い上がる。着地したのはアビスの首。
そして、背中を走り胸の裏側まで移動すると、両手でロングソードの柄を握り、深々と突き刺した。
「グガァァァァァ!」
アビスは苦しげに叫び暴れ出す。
ウィルムは振り落とされないよう、突き刺さった剣の柄を両手で掴む。
ひとしきりアビスが暴れ、背を大きく曲げたところで――
「これでぇぇぇっ!」
突き刺さった剣の柄を思い切り蹴り、刀身をさらに深く突き刺す。
「グギャァァァァァンッ!」
それがトドメとなったか、アビスは断末魔を上げ大樹の幹に顔面をぶつけると、そのまま横へ倒れる。
もう飛び降りる体力もなかったウィルムは、勢いよく投げ出された。
受け身も取れず体を地面に打ち付ける。
砂埃を思い切り吸い込んでしまったウィルムが、咳き込みながら上半身を起こして前を見ると、アビスは完全に沈黙していた。
もしかすると、最初から瀕死の状態だったのかもしれない。
茫然としていると、倒れたアビスの髪から、光るなにかが転がって来た。
「これは……」
ミスリル銀製のブレスレットだった。
ウィルムは自分の腕が千切れてしまったのではないかと、慌てて左腕を見るが、同じものが確かにあった。
と、なると、あれの持ち主は――
――ウィル、ちゃん
アビスが最後に発した声が耳の奥で蘇る。
あの呼び方をしていたのは、一人しかいない。
「……アク、ア?」
茫然と呟く。
まさかと思った。
もし仮に、あれがアクアのブレスレットなのだとしたら、アクアはアビスに殺されてしまったのだと考えるのが妥当だ。
だがあのアビスは、ウィルムのブレスレットを見て動きを止めたばかりか、彼の名を呼んだのだ。アクアの呼び方で。
ウィルムは己を奮い立たせ立ち上がると、アビスの死骸へ近寄り、漆黒の髪を掻き分けて他の手掛かりがないか探す。
そして、出て来たのは――
「――バカな……なにが起こっているんだ」
彼の手に握られていたのは、薬品の臭いが残った白い布。
察するに、白衣の一部だ。
ドラチナスで白衣を着て仕事をしているのは、薬品の研究開発まで自前で行っている薬屋フローラ以外にない。
だが妙だ。
なぜハンターではないフローラ店員の白衣が、密林にいるアビスから見つかるのか。
どうもきな臭い。
「まさか……」
ウィルムは弾かれたように顔を上げた。
ようやく竜人族の失踪と繋がる。
五年前、アビスが出現する前にも失踪事件は起こっていた。
もし、これの正体が本当にアクアなのだとすると――アビスの正体は『竜人』ということになる。
そしてそれは、フローラが薬かなにかを使って、人為的に作り変えたのではないだろうか。
ではなぜ、そんなことをする必要があるのか。
今となっては簡単な答えだ。
アビスの出現によって、ドラチナスは一度壊滅の危機に陥ったが、その後立て直し発展を遂げた。
「僕たち竜人は、ギルドの繁栄のための生贄だったのか……」
ウィルムは拳を握りしめ、地面へ突き立てる。
その手は震えているが、それは恐怖からではない。
純粋な怒りだ。
ウィルムの心に憎悪が吹き荒れる。
「よくも……よくもっ、僕に二度、仲間を殺させたなぁっ!」
今までは、見捨てたことを悔やんでいたが、心のどこかでそれは仕方のないことだと諦めていた。
もちろん、自分自身が許せないのは変わらない。
だが今は、アクアをこんな目に遭わせ、そして自分に殺させた黒幕を許すつもりはなかった。
「アクアごめん。僕はまだ、君の元には行けそうにない。今は安らかに眠ってくれ」
ウィルムはアビスの死骸の頭に手を乗せ、寂しげに呟くのだった。
ウィルムは目を閉じ、反射的に両腕を胸の前でクロスして防御の体勢をとる。
なんの意味もなさない行為だ。
他のハンターたちがアビスを追って来ることを期待したが、結局現れず、後は大人しく喰われるだけ。
そう覚悟したウィルムだったが、いつになっても敵に動きが無い。
「……?」
恐る恐るウィルムが目を開けると、アビスはその場でピタッと静止していた。
まるで時間が止まったかのようだが、口元は小刻みに動いて荒々しい呼吸を繰り返している。
そのとき、ウィルムの視界を光が襲った。
腕に着けているミスリル銀製のブレスレットへ、木々の合間を縫って差し込んだ光が反射したものだ。
それはかつて、アクアがウィルムへプレゼントしたもの。
他の装備と共に身に着けていたのだ。
「――ウィル、ちゃん」
「………………え?」
突然の声にウィルムは顔を上げる。
今のは低くおぞましいアビスの声だったが、はっきりと聞こえた。
アビスは小刻みに震えだし、歯をガチガチと鳴らしている。
今にも暴れ出しそうだ。
ウィルムの体は恐怖のあまり勝手に動いた。
「う、うわぁぁぁぁぁっ!」
ロングソードを強く握り雄たけびを上げる。
地を蹴って跳躍し、漆黒の髪を引っ張って高く舞い上がる。着地したのはアビスの首。
そして、背中を走り胸の裏側まで移動すると、両手でロングソードの柄を握り、深々と突き刺した。
「グガァァァァァ!」
アビスは苦しげに叫び暴れ出す。
ウィルムは振り落とされないよう、突き刺さった剣の柄を両手で掴む。
ひとしきりアビスが暴れ、背を大きく曲げたところで――
「これでぇぇぇっ!」
突き刺さった剣の柄を思い切り蹴り、刀身をさらに深く突き刺す。
「グギャァァァァァンッ!」
それがトドメとなったか、アビスは断末魔を上げ大樹の幹に顔面をぶつけると、そのまま横へ倒れる。
もう飛び降りる体力もなかったウィルムは、勢いよく投げ出された。
受け身も取れず体を地面に打ち付ける。
砂埃を思い切り吸い込んでしまったウィルムが、咳き込みながら上半身を起こして前を見ると、アビスは完全に沈黙していた。
もしかすると、最初から瀕死の状態だったのかもしれない。
茫然としていると、倒れたアビスの髪から、光るなにかが転がって来た。
「これは……」
ミスリル銀製のブレスレットだった。
ウィルムは自分の腕が千切れてしまったのではないかと、慌てて左腕を見るが、同じものが確かにあった。
と、なると、あれの持ち主は――
――ウィル、ちゃん
アビスが最後に発した声が耳の奥で蘇る。
あの呼び方をしていたのは、一人しかいない。
「……アク、ア?」
茫然と呟く。
まさかと思った。
もし仮に、あれがアクアのブレスレットなのだとしたら、アクアはアビスに殺されてしまったのだと考えるのが妥当だ。
だがあのアビスは、ウィルムのブレスレットを見て動きを止めたばかりか、彼の名を呼んだのだ。アクアの呼び方で。
ウィルムは己を奮い立たせ立ち上がると、アビスの死骸へ近寄り、漆黒の髪を掻き分けて他の手掛かりがないか探す。
そして、出て来たのは――
「――バカな……なにが起こっているんだ」
彼の手に握られていたのは、薬品の臭いが残った白い布。
察するに、白衣の一部だ。
ドラチナスで白衣を着て仕事をしているのは、薬品の研究開発まで自前で行っている薬屋フローラ以外にない。
だが妙だ。
なぜハンターではないフローラ店員の白衣が、密林にいるアビスから見つかるのか。
どうもきな臭い。
「まさか……」
ウィルムは弾かれたように顔を上げた。
ようやく竜人族の失踪と繋がる。
五年前、アビスが出現する前にも失踪事件は起こっていた。
もし、これの正体が本当にアクアなのだとすると――アビスの正体は『竜人』ということになる。
そしてそれは、フローラが薬かなにかを使って、人為的に作り変えたのではないだろうか。
ではなぜ、そんなことをする必要があるのか。
今となっては簡単な答えだ。
アビスの出現によって、ドラチナスは一度壊滅の危機に陥ったが、その後立て直し発展を遂げた。
「僕たち竜人は、ギルドの繁栄のための生贄だったのか……」
ウィルムは拳を握りしめ、地面へ突き立てる。
その手は震えているが、それは恐怖からではない。
純粋な怒りだ。
ウィルムの心に憎悪が吹き荒れる。
「よくも……よくもっ、僕に二度、仲間を殺させたなぁっ!」
今までは、見捨てたことを悔やんでいたが、心のどこかでそれは仕方のないことだと諦めていた。
もちろん、自分自身が許せないのは変わらない。
だが今は、アクアをこんな目に遭わせ、そして自分に殺させた黒幕を許すつもりはなかった。
「アクアごめん。僕はまだ、君の元には行けそうにない。今は安らかに眠ってくれ」
ウィルムはアビスの死骸の頭に手を乗せ、寂しげに呟くのだった。
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