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第三章 外資
エルフの投資家
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それから二日ほど、ウィルムはジュエル姉妹の家で傷を癒していた。
ドラチナスでのクエストを受けたままなので、納品期限は過ぎ強制的に失敗扱いとなっていることだろう。その後音沙汰なしとあっては、商会側の怒りを買っているに違いない。
それでも仕方のないことだと割り切り、ヴァルファームの都フォートレスへ向かう。
移動にはイノセントが村として飼っている鳥竜を借りた。
竜のような厳つい顔に、フラミンゴのような体型だが羽が退化していて飛べない。だがその分、足は非常に速く目的地へはあっという間だった。
ウィルムは都の入口にそびえ立つ、大きな天然大理石のアーチを前に足を止めた。太い緑の蔦が螺旋のようにねじれて絡みついている。
周囲では、多くのエルフや他種族の商人たちが行き来していたが、ウィルムはそれよりも、その先に見える圧巻の光景に感嘆の声を上げた。
「――これが都……」
想像していたのは、ドルガンの経済都市のような、綺麗で高い建物が所狭しと並び、行き交う人々が流行の衣服やアクセサリーで着飾った上品な都会だ。
だがこのフォートレスは、巨大な樹木に囲まれた大森林の中にあって、立ち並ぶ小さな建物には蔦が絡んでいたり、木の根元が街道に露出していたりするが、雑な印象は受けず綺麗に手入れされ、まるでアートの一部のようだ。
往来には多くの人々が行き交い、城下町のように活気溢れている。
「――ちょっとあんた、こんな往来で立ち止まられたら迷惑になるよ」
「え? あっ、ご、ごめんなさい!」
呆けていたウィルムを見かねて声をかけてきたのは、エルフの中年男だった。
軽そうな皮製の鎧を装備しているところを見るに、騎士のような職種なのかもしれない。
自分の行動がおのぼりさんのようで恥ずかしくなり、そそくさと入口ゲートの横に並んでいる小屋へ行った。
そこで鳥竜を預けると、正門へ戻りフォートレスへ足を踏み入れた。
エルダに渡された簡易的な地図を頼りに足を進めていく。
街中の雑踏を歩いて気付いたが、エルフたちの服装はあくまで自然体で、都会の人々のようにあまり着飾ってはいなかった。
それがまたどこか心地良い。
「――ここか」
しばらく歩いて中心部から東へ行ったところに、小さな家があった。
エルダに紹介された、投資家『シーカー』の家だ。
ウィルムは急に緊張しだして心臓が脈打つ。
エルダの知り合いだからと、大して深く考えていなかったが、投資家といえばかなりの切れ者で、義理や人情よりも損得勘定を優先する印象が強い。
そうやって金融の力を最大限活用し、この世界を生き抜いているのだ。
ウィルムは意を決して扉をノックする。
「――はいはい、どちらさま?」
家主はすぐに出て来た。
予想外の見た目でウィルムは内心驚く。
スラっとした長身に、優しい面持ちの金髪の青年だ。澄んだ碧眼に整った顔立ち、真っ白に輝く歯が眩しい。
黒いロングコートを羽織り、内側には緑のカーディガンを着込んでいる。
彼は甘いマスクで誘惑するように微笑んだ。
「もしかして、あなたがウィルム・クルセイドさんですか?」
「は、はい。ウィルムと言います」
「やっぱり! エルダさんから手紙を受け取りました。僕はシーカーと言います。立ち話もなんですから、どうぞ上がってください」
「お、お邪魔します」
ウィルムは意外とフレンドリーな対応に困惑しながらも家に上がる。
街中を歩いていたときも感じたが、やはりエルフは美男美女が多い。
そのまま居間に案内され、光沢のあるダークブラウンのテーブルの前のふかふかソファに座らされる。シーカーもテーブルを挟んで向かいに座った。
男の家とは思えないほど綺麗に片づけられており、自然を描いた絵画や水彩画なども飾られている。外装とは対照的で、まさしく金持ちの家といったところだ。
「あまり豪華な家に住むのは、襲ってくれと言ってるようなものですからね」
シーカーは、まるでウィルムの心を読んだように言って苦笑した。
そして続ける。
「なにやらお困りということでしたね。エルダさんには協力してあげて欲しいと頼まれていますが、どうしましょうか」
シーカーはニッコリと微笑む。
間違いなく作り笑いだ。おそらく頭の中では、計算の準備が整っているに違いない。彼の発する透明な覇気に、ウィルムは底知れぬものを感じた。
だがウィルムとて簡単に協力してくれるとは思っていない。
「まずは事情を説明させてください」
シーカーが無言で頷くと、ウィルムはここまでの経緯を簡単に説明した。
鉱石商をしていたこと、ギルドでの詐欺疑惑によって取引先を失ったこと、理由は言えなかったが、ドラチナスへ戻ってギルドと対峙しなければならないことを。
真面目に話を聞いていたシーカーは顎に手を当て下を向く。
「なるほどなるほど。つまり、再びドラチナスへ戻ってギルドに反旗を翻したい。そのためには金がいると」
すべてを見透かすような蒼い瞳を向けられ、ウィルムは深く頷いた。
すると、シーカーは目を細めて微笑を浮かべ――
「ふむ、論外です」
はっきりと告げた。
ドラチナスでのクエストを受けたままなので、納品期限は過ぎ強制的に失敗扱いとなっていることだろう。その後音沙汰なしとあっては、商会側の怒りを買っているに違いない。
それでも仕方のないことだと割り切り、ヴァルファームの都フォートレスへ向かう。
移動にはイノセントが村として飼っている鳥竜を借りた。
竜のような厳つい顔に、フラミンゴのような体型だが羽が退化していて飛べない。だがその分、足は非常に速く目的地へはあっという間だった。
ウィルムは都の入口にそびえ立つ、大きな天然大理石のアーチを前に足を止めた。太い緑の蔦が螺旋のようにねじれて絡みついている。
周囲では、多くのエルフや他種族の商人たちが行き来していたが、ウィルムはそれよりも、その先に見える圧巻の光景に感嘆の声を上げた。
「――これが都……」
想像していたのは、ドルガンの経済都市のような、綺麗で高い建物が所狭しと並び、行き交う人々が流行の衣服やアクセサリーで着飾った上品な都会だ。
だがこのフォートレスは、巨大な樹木に囲まれた大森林の中にあって、立ち並ぶ小さな建物には蔦が絡んでいたり、木の根元が街道に露出していたりするが、雑な印象は受けず綺麗に手入れされ、まるでアートの一部のようだ。
往来には多くの人々が行き交い、城下町のように活気溢れている。
「――ちょっとあんた、こんな往来で立ち止まられたら迷惑になるよ」
「え? あっ、ご、ごめんなさい!」
呆けていたウィルムを見かねて声をかけてきたのは、エルフの中年男だった。
軽そうな皮製の鎧を装備しているところを見るに、騎士のような職種なのかもしれない。
自分の行動がおのぼりさんのようで恥ずかしくなり、そそくさと入口ゲートの横に並んでいる小屋へ行った。
そこで鳥竜を預けると、正門へ戻りフォートレスへ足を踏み入れた。
エルダに渡された簡易的な地図を頼りに足を進めていく。
街中の雑踏を歩いて気付いたが、エルフたちの服装はあくまで自然体で、都会の人々のようにあまり着飾ってはいなかった。
それがまたどこか心地良い。
「――ここか」
しばらく歩いて中心部から東へ行ったところに、小さな家があった。
エルダに紹介された、投資家『シーカー』の家だ。
ウィルムは急に緊張しだして心臓が脈打つ。
エルダの知り合いだからと、大して深く考えていなかったが、投資家といえばかなりの切れ者で、義理や人情よりも損得勘定を優先する印象が強い。
そうやって金融の力を最大限活用し、この世界を生き抜いているのだ。
ウィルムは意を決して扉をノックする。
「――はいはい、どちらさま?」
家主はすぐに出て来た。
予想外の見た目でウィルムは内心驚く。
スラっとした長身に、優しい面持ちの金髪の青年だ。澄んだ碧眼に整った顔立ち、真っ白に輝く歯が眩しい。
黒いロングコートを羽織り、内側には緑のカーディガンを着込んでいる。
彼は甘いマスクで誘惑するように微笑んだ。
「もしかして、あなたがウィルム・クルセイドさんですか?」
「は、はい。ウィルムと言います」
「やっぱり! エルダさんから手紙を受け取りました。僕はシーカーと言います。立ち話もなんですから、どうぞ上がってください」
「お、お邪魔します」
ウィルムは意外とフレンドリーな対応に困惑しながらも家に上がる。
街中を歩いていたときも感じたが、やはりエルフは美男美女が多い。
そのまま居間に案内され、光沢のあるダークブラウンのテーブルの前のふかふかソファに座らされる。シーカーもテーブルを挟んで向かいに座った。
男の家とは思えないほど綺麗に片づけられており、自然を描いた絵画や水彩画なども飾られている。外装とは対照的で、まさしく金持ちの家といったところだ。
「あまり豪華な家に住むのは、襲ってくれと言ってるようなものですからね」
シーカーは、まるでウィルムの心を読んだように言って苦笑した。
そして続ける。
「なにやらお困りということでしたね。エルダさんには協力してあげて欲しいと頼まれていますが、どうしましょうか」
シーカーはニッコリと微笑む。
間違いなく作り笑いだ。おそらく頭の中では、計算の準備が整っているに違いない。彼の発する透明な覇気に、ウィルムは底知れぬものを感じた。
だがウィルムとて簡単に協力してくれるとは思っていない。
「まずは事情を説明させてください」
シーカーが無言で頷くと、ウィルムはここまでの経緯を簡単に説明した。
鉱石商をしていたこと、ギルドでの詐欺疑惑によって取引先を失ったこと、理由は言えなかったが、ドラチナスへ戻ってギルドと対峙しなければならないことを。
真面目に話を聞いていたシーカーは顎に手を当て下を向く。
「なるほどなるほど。つまり、再びドラチナスへ戻ってギルドに反旗を翻したい。そのためには金がいると」
すべてを見透かすような蒼い瞳を向けられ、ウィルムは深く頷いた。
すると、シーカーは目を細めて微笑を浮かべ――
「ふむ、論外です」
はっきりと告げた。
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