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第五章 生贄の反逆
敗北
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その悪夢の出来事は、すぐに領主の元へと伝わった。
「――ご、ご報告します!」
領主の館の一階会議室をバタンッと大きな音を立てて開け放ち、騎士の一人が慌てて駆け込んだ。
会議室では領主アンフィスを始め、補佐官のカドルやルーク、その他多数の文官が領内の経済政策について話し合っているところだった。
一同の視線は、息を切らせて片膝を立てた騎士に集まる。
肩当を見るに、隊長格の階級章だ。
「騒がしいぞ! いったいなにがあったと言うのだ!?」
カドルが不機嫌そうに眉をしかめ、苛立たしげに声を荒げる。
すると、騎士は片膝を立てた状態で顔を上げ、早口でまくし立てる。
「じっ、実は、『ドラチナス西方の森林』で新種のアビスが出現しました!」
「なに!?」
アンフィスが大声で叫び、バンッと机に両手を打ちつけて立ち上がる。
周囲の文官たちも顔色を変えざわめき出した。
「い、今なんて……」
ルークは予想だにしない事態に思考が停止し、口を半開きにしたまま固まっていた。
騎士は報告を再開する。
「別の個体を討伐していたアルビオン商会のハンター三名が重傷を負い、一名が死亡しました。目撃者の証言によりますと、新種アビスの力は既存の個体を遥かに凌ぐとのこと。それにアルビオン商会の話では、不意を突かれたとはいえ、敗退したハンターたちはアビスの討伐実績豊富な手練れとのことです」
「な、なんということだ……」
アンフィスは茫然自失とした表情で呟き、ガタンと崩れ落ちるように椅子に腰を落とした。
その反応も無理はない。
ドラチナスが経済不況に陥っている今、装備の生産や消耗品の流通は以前よりも減少し、活動しているハンターの数も減っている。
とてもではないが、新たな脅威に耐えうる状況ではない。
もしこれが五年前同様、新種のアビスが現在の一般装備で敵わない性質を持っている場合、尋常ではない被害が出る。
「どうして、どうしてこうなった……」
会議室が騒然とする中、ルークは唖然と呟く。
そのときふと、向かいに座っていたカドルの顔が視界に入った。
「っ!?」
彼は、狂気すら感じさせる酷薄な笑みを浮かべていた。
ルークは悟る。
これは彼らの……ギルドの仕業だと。
どう考えても間違いない。だが証拠なしにそれを言及することはできず、ルークは深く後悔した。
ウィルムの話を信じ、早急にアビスの研究を暴くべきだったのだと。
ギルドに資金援助さえしなければ、大きな動きに出られないとたかをくくっていた。それが大きな間違いで、真に止めるべきはアビスの研究だったのだ。
ルークが顔を苦痛に歪めて頭を抱える中、一人の文官がガタンッと音を立てて立ち上がる。
「りょ、領主様っ! い、いったいどうすれば!?」
「えぇいっ、慌てるなっ!」
混乱してやみくもに叫ぶ老年の文官へ、アンフィスが一喝する。
彼の冷静な声に、ざわめく文官たちは声のトーンを下げた。
まったく動じていない彼の姿は、誰が見ても頼もしいと思えるだろう。ルークは焦点の定まらない虚空に視線をさまよわせ、そんなことを思う。
茫然とするルークにも、カドルの鶴の一声で、ギルドへの緊急支援が決定されたことはかろうじて分かった。
そして――
「――さて、もっと早くにギルドを支援していれば、これから出るであろう被害はまだ軽微なもので済んだのかもしれません。この責任、いったい誰がとってくれるのでしょうねぇ」
次の瞬間、会議室中の視線が一斉にルークを射抜いた。
彼は幽鬼のような生気の抜けた顔を上げる。
逃げ場はない。
ルークは、自分がギルドとの戦いに敗れたことを悟ったのだった。
「――ご、ご報告します!」
領主の館の一階会議室をバタンッと大きな音を立てて開け放ち、騎士の一人が慌てて駆け込んだ。
会議室では領主アンフィスを始め、補佐官のカドルやルーク、その他多数の文官が領内の経済政策について話し合っているところだった。
一同の視線は、息を切らせて片膝を立てた騎士に集まる。
肩当を見るに、隊長格の階級章だ。
「騒がしいぞ! いったいなにがあったと言うのだ!?」
カドルが不機嫌そうに眉をしかめ、苛立たしげに声を荒げる。
すると、騎士は片膝を立てた状態で顔を上げ、早口でまくし立てる。
「じっ、実は、『ドラチナス西方の森林』で新種のアビスが出現しました!」
「なに!?」
アンフィスが大声で叫び、バンッと机に両手を打ちつけて立ち上がる。
周囲の文官たちも顔色を変えざわめき出した。
「い、今なんて……」
ルークは予想だにしない事態に思考が停止し、口を半開きにしたまま固まっていた。
騎士は報告を再開する。
「別の個体を討伐していたアルビオン商会のハンター三名が重傷を負い、一名が死亡しました。目撃者の証言によりますと、新種アビスの力は既存の個体を遥かに凌ぐとのこと。それにアルビオン商会の話では、不意を突かれたとはいえ、敗退したハンターたちはアビスの討伐実績豊富な手練れとのことです」
「な、なんということだ……」
アンフィスは茫然自失とした表情で呟き、ガタンと崩れ落ちるように椅子に腰を落とした。
その反応も無理はない。
ドラチナスが経済不況に陥っている今、装備の生産や消耗品の流通は以前よりも減少し、活動しているハンターの数も減っている。
とてもではないが、新たな脅威に耐えうる状況ではない。
もしこれが五年前同様、新種のアビスが現在の一般装備で敵わない性質を持っている場合、尋常ではない被害が出る。
「どうして、どうしてこうなった……」
会議室が騒然とする中、ルークは唖然と呟く。
そのときふと、向かいに座っていたカドルの顔が視界に入った。
「っ!?」
彼は、狂気すら感じさせる酷薄な笑みを浮かべていた。
ルークは悟る。
これは彼らの……ギルドの仕業だと。
どう考えても間違いない。だが証拠なしにそれを言及することはできず、ルークは深く後悔した。
ウィルムの話を信じ、早急にアビスの研究を暴くべきだったのだと。
ギルドに資金援助さえしなければ、大きな動きに出られないとたかをくくっていた。それが大きな間違いで、真に止めるべきはアビスの研究だったのだ。
ルークが顔を苦痛に歪めて頭を抱える中、一人の文官がガタンッと音を立てて立ち上がる。
「りょ、領主様っ! い、いったいどうすれば!?」
「えぇいっ、慌てるなっ!」
混乱してやみくもに叫ぶ老年の文官へ、アンフィスが一喝する。
彼の冷静な声に、ざわめく文官たちは声のトーンを下げた。
まったく動じていない彼の姿は、誰が見ても頼もしいと思えるだろう。ルークは焦点の定まらない虚空に視線をさまよわせ、そんなことを思う。
茫然とするルークにも、カドルの鶴の一声で、ギルドへの緊急支援が決定されたことはかろうじて分かった。
そして――
「――さて、もっと早くにギルドを支援していれば、これから出るであろう被害はまだ軽微なもので済んだのかもしれません。この責任、いったい誰がとってくれるのでしょうねぇ」
次の瞬間、会議室中の視線が一斉にルークを射抜いた。
彼は幽鬼のような生気の抜けた顔を上げる。
逃げ場はない。
ルークは、自分がギルドとの戦いに敗れたことを悟ったのだった。
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