サクリファイスリベリオン ~冤罪で追いつめられた元凄腕ハンターは、ギルドの陰謀を暴き人脈を駆使して復讐する~

高美濃 四間

文字の大きさ
47 / 66
第五章 生贄の反逆

辛い現実

しおりを挟む
 ――時はさかのぼる。
 新種アビスの襲撃を受ける三日前の夜。
 ルークからの手紙に絶望するウィルムの元へ訪れていたのは――

「――カエデ?」

 フードを外して明らかになった素顔に、ウィルムは目を見開く。
 家の扉の前に立っていた謎の人物はカエデだったのだ。胸に紙の束を大事そうに抱えている。
 彼女がウィルムの家に訪れるのは初めてのこと。
 何事かと脳裏に疑問が浮かぶウィルムだったが、彼女の切羽詰まった表情を見て息を呑んだ。
 いつもは気丈に振舞い、弱みを見せることのない彼女が瞳を潤ませ、不安げに表情を曇らせるなどただ事ではない。

「カエデ? いったいなにがあったの?」

「………………ったわ」

「え?」

「リサがいなくなったの!」

「そ、そんなっ……」

 目の端に涙を浮かべ、訴えるようにカエデは叫んだ。
 リサは彼女の親友。その太陽のような明るい笑顔は、ウィルムの記憶にも鮮明に残っている。
 胸が痛んだ。少しでも関わった人が失踪したというのは、想像以上にショックが大きい。
 ウィルムはひとまず、カエデを家に上げ詳しい事情を聞くことにした。

「――リサがどこにもいないの」

 ソファに座り、ウィルムの入れたハーブティーを飲んで落ち着きを取り戻したカエデは言った。抱えていた紙の束はテーブルに置いているが、表は白紙のため内容は分からない。
 彼女はベージュのコートの下に、胸元にリボンのついた黒のブラウスを着て、フードに隠していた艶のある長い黒髪は下ろしていた。かげりのある表情は、彼女の美貌を損なっていない。
 ウィルムはテーブルを挟んで向かいに座り問いかける。

「いなくなったのいつ?」

「それは――」

 カエデの話では、リサがいなくなったのは三日前。
 ウィルムと話した翌日だ。
 リサは店員として勤めていた雑貨屋に姿を現さず、夕方店を閉めてから店主が事情を聞きに行ったところ、彼女は不在だったらしい。不用心にも鍵はかかっていなかったという。
 家具などの生活用品に目立った形跡はなく、翌日になったら戻っているだろうと思った店主は、翌日また訪ねたがリサの姿はなく室内の状況も変わっていなかったため、そこで失踪に思い至ったというわけだ。
 タイミング的にウィルムと会ったすぐ後のことだというのは、さすがに偶然だと考えられるが、彼女が竜人である以上、ギルドの新種アビス開発に巻き込まれたことは想像にかたくない。

「……残念だ」

「………………」

「おそらく、彼女はもう……」

「……そういうこと、なのね。信じたくなんてなかった」

 カエデの声が震える。
 頭では理解はしているようだ。親友の身になにがあったのか。それでも到底受け止めきれることではない。
 ウィルムは辛そうに眉尻を下げ、視線を横へ反らす。

「ギルドはとんでもない研究をしていた。新種のアビス開発だ。その素体はほぼ間違いなく、今ままで失踪した竜人たちだろう」

 カエデは、呼吸すら止めてしまったのかと思うほど、微動だにせずウィルムの目を凝視していた。
 やがて糸がほどけたかのように全身から力が抜け、ガクリとうな垂れる。
 ウィルムは悔しげに歯を食いしばる。
 口にしたことで現実を認識し、取返しのつかないことになったのだと痛感した。

「ねぇウィルム、教えて。もし私が、あなたの言うことを信じてさえいれば、こんなことにはならなかったの?」

「それは……」

「そう、よね……私の身勝手なプライドのせいで、リサがっ……」

 カエデはとうとう我慢しきれず、両手で顔を覆い泣き崩れた。
 ウィルムはかける言葉が見つけられず、無言で俯いていた。
 新種アビスが出現したということは、フローラの薬師の力によって、竜人の新たなアビス化に成功したということ。
 リサも犠牲になったであろうことは疑いようがなく、なにより救われないのは、彼女が怪物となり自分たちの平和を脅かす敵となってしまったことだ。
 カエデには、親友を敵に回すという非情な決断が迫られることになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

追放即死と思ったら転生して最強薬師、元家族に天罰を

タマ マコト
ファンタジー
名門薬師一族に生まれたエリシアは、才能なしと蔑まれ、家名を守るために追放される。 だがそれは建前で、彼女の異質な才能を恐れた家族による処刑だった。 雨の夜、毒を盛られ十七歳で命を落とした彼女は、同じ世界の片隅で赤子として転生する。 血の繋がらない治療師たちに拾われ、前世の記憶と復讐心を胸に抱いたまま、 “最強薬師”としての二度目の人生が静かに始まる。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

処理中です...