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最終章 激動の最終決戦
ルークの秘策
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しばらくして静寂が訪れ、幹事が「次にルーク補佐官、よろしくお願いします」と言ってルークへ目を向ける。
ここが正念場だ。
ルークは歯を食いしばり深く息を吸って告げた。
「……私は、ギルドを解体します」
「「なっ!?」」
突然の問題発言に場が凍りつく。
壁際に立っていたホルムスはあんぐりと口を開けて唖然としており、グレイヴも片側の眉を吊り上げて額に青筋を浮かべている。
カドルも困惑に眉をしかめながら呟いた。
「気でも触れたのか?」
「いいえ、ギルドはこのドラチナスに必要ないというのが、私の結論です」
「なにを言っている!? ギルドを解体などしたら、市場が混乱するだけだ。それをいったい誰が沈める? それに税の管理だって、ギルドのおかげでスムーズにいっているんだぞ」
カドルも必死だ。
冷静に考えれば、ギルドの解体など言い出した時点でルークへの政治的不信感は相当なはず。そのまま自滅の道を辿らせれば決着はつきそうなものだが、ルークの自信に満ちた表情が油断を許さないのだろう。
これは討論、ルークはカドルの唱える政策に口出しをしなかったが、相手の政策に異論を挟むのは問題ない。
正真正銘の真っ向勝負だ。
「必要ありません。むしろ、ギルドの存在がドラチナスの足かせになっているのです。この町が経済的な危機に陥っているのは、ギルドのせいですよ」
「なにを根拠に!? ギルドは五年前のアビス出現だって、ドラチナスが危機を脱するためにアンフィス様と協力し、発展へと導いてきたではないか!?」
鼻息を荒くしたカドルの言葉にルークは頷く。
ホルムスとグレイヴは苛立たしげにルークを睨みつけ、文官たちはざわざわと互いに耳打ちしたり、神妙な表情で耳を傾けていた。
緊迫した状況だが、明らかに流れは変わっている。
誰もがルークの一言一言に強い興味を抱いていた。
「確かに五年前、ギルドの活躍によってこの町が生き延びたのは事実でしょう。では、それ以降は?」
「なに?」
「これまでドラチナスは、アビスの出現によって、多大な犠牲と共に改革を断行し繁栄してきました。しかし我々は、怪物に背中を押されないと前に進めないのでしょうか?」
ルークは現実を突き付ける。
アビスは脅威。しかし、そのおかで村は町へと変わり発展した。
ならば、これからもアビスのような脅威に見舞われなければ、発展できないのかと。
これにはグレイヴやカドルも頬を引きつらせた。
ギルドが支配を盤石にしてきた根本だからだ。
「それは……仕方あるまい」
「そんなことはありません。原因を作っているのはギルドなのです。グレイヴ殿、ホルムス殿、あなたがたが既得権益を振りかざし、よその商人の新規参入を拒み閉鎖的な市場を支配している。それが自由な競争を阻害しているのではないのですか?」
「なんだと……」
グレイヴは忌々しげに呟き、容赦なくルークを睨みつける。
領主補佐官に対して度が過ぎた態度に、一部の文官は咎めるような視線を向けるが、グレイヴは気にもとめず強面の獅子面に憤怒を滲ませていた。
もし領主選の場でなければ、ルークは縊り殺されていたかもしれない。
それほどの殺気だ。
それでもルークは毅然とした態度で続ける。
「今回の新種出現もそうだ。あれを機に、緊急時の手段として領内財源を市場へ供給した。つまり、五年前と同じ状況です。私たちは、またアビスのおかげで市場に活気を取り戻そうとした。怪物にすがらなければ発展できないなんて、奴らの家畜も同然じゃないですか!? あなたがたは、いつまで家畜でいるつもりですか!?」
ルークが勇気を振り絞り、大声で訴えかける。
その熱量に、文官たちは息をのみ、カドルやグレイヴたちは顔を歪めた。
ある者は、目を瞑って頭上を仰ぎ、ある者は苦しげに頬を引きつらせて俯いている。
つきつけられた残酷な現実に、それぞれが心を揺らしているのだ。
しかしカドルは、勢いにのまれまいと声を荒げて反論してきた。
「言うに事欠いて家畜だと!? 領民をバカにするのもたいがいにしろ、若造がっ! 論点をすり替えるな。ギルドを解体したところで、いったいなにが変わる!?」
「ギルドを解体しただけでは変わりません。ですから、大幅な減税を実行します」
再び場が騒然とする。
ギルド解体の次は減税。
ルークの目指す財政政策の意図を理解出来る者は誰もいなかった。
「は? とち狂ったか? 減税などしては、財政収支は赤字に転落するぞ!」
「そうだそうだ」とカドルに賛同する声が一部の文官から上がる。
「最初は致し方ありません。ですが、そのために蓄えてきた財源ではないですか。ここでこそその真価を発揮できるのです。それをギルドに与えるなど、浪費に等しい」
「酷い言いようだな。だが減税などしてなにがある!?」
「領外の商人を呼びこむ良い宣伝になります」
「なに?」
「今までドラチナスは、アビスという怪物の出現を機に領外の商人を呼び、需要と供給をバランスさせて発展してきました。ですから、今度はアビスの代わりになるキッカケをつくるまでのこと。商売で稼いだ利益から引かれる税が優遇されるんですから、商人としては願ったり叶ったりでしょう?」
「そんな横暴、我らギルドが認めるとお思いかっ!?」
ついにグレイヴが口を挟んできた。
さすがに我慢の限界を迎えたのだろう。
彼の印象からすると、予想よりも遥かに保ったものだ。
しかし領内規定では、領主選に部外者が乱入するのは許されていない。
だからといって、ルークはそれを訴えるつもりもなく、真正面から対峙した。
「だから、ギルドを解体すると言っているのです」
「「「っ!」」」
そこでようやく、場の全員がギルド解体の真意に気付いた。
まずギルドを解体することで、市場の自由競争を活発化させ誰でも参入できるようにする。
そこで、大幅減税を実施することによって、領外の商人をも呼び込んで商売を活性化させるという策だ。
減税によって、一時的に財政収支は赤字になるかもしれないが、上手くいけば新たな商品の流通や需要の創出によって経済が回り、長期的には税収の増加も見込めるかもしれない。
誰も考えつかなかった改革案に、文官たちは唸るしかない。
状況は完全にルークの優位へと傾いていた。
このままいけば、彼に軍配が上がりそうな雰囲気だ。
しかしもちろん、それを許すカドルではない。
ここが正念場だ。
ルークは歯を食いしばり深く息を吸って告げた。
「……私は、ギルドを解体します」
「「なっ!?」」
突然の問題発言に場が凍りつく。
壁際に立っていたホルムスはあんぐりと口を開けて唖然としており、グレイヴも片側の眉を吊り上げて額に青筋を浮かべている。
カドルも困惑に眉をしかめながら呟いた。
「気でも触れたのか?」
「いいえ、ギルドはこのドラチナスに必要ないというのが、私の結論です」
「なにを言っている!? ギルドを解体などしたら、市場が混乱するだけだ。それをいったい誰が沈める? それに税の管理だって、ギルドのおかげでスムーズにいっているんだぞ」
カドルも必死だ。
冷静に考えれば、ギルドの解体など言い出した時点でルークへの政治的不信感は相当なはず。そのまま自滅の道を辿らせれば決着はつきそうなものだが、ルークの自信に満ちた表情が油断を許さないのだろう。
これは討論、ルークはカドルの唱える政策に口出しをしなかったが、相手の政策に異論を挟むのは問題ない。
正真正銘の真っ向勝負だ。
「必要ありません。むしろ、ギルドの存在がドラチナスの足かせになっているのです。この町が経済的な危機に陥っているのは、ギルドのせいですよ」
「なにを根拠に!? ギルドは五年前のアビス出現だって、ドラチナスが危機を脱するためにアンフィス様と協力し、発展へと導いてきたではないか!?」
鼻息を荒くしたカドルの言葉にルークは頷く。
ホルムスとグレイヴは苛立たしげにルークを睨みつけ、文官たちはざわざわと互いに耳打ちしたり、神妙な表情で耳を傾けていた。
緊迫した状況だが、明らかに流れは変わっている。
誰もがルークの一言一言に強い興味を抱いていた。
「確かに五年前、ギルドの活躍によってこの町が生き延びたのは事実でしょう。では、それ以降は?」
「なに?」
「これまでドラチナスは、アビスの出現によって、多大な犠牲と共に改革を断行し繁栄してきました。しかし我々は、怪物に背中を押されないと前に進めないのでしょうか?」
ルークは現実を突き付ける。
アビスは脅威。しかし、そのおかで村は町へと変わり発展した。
ならば、これからもアビスのような脅威に見舞われなければ、発展できないのかと。
これにはグレイヴやカドルも頬を引きつらせた。
ギルドが支配を盤石にしてきた根本だからだ。
「それは……仕方あるまい」
「そんなことはありません。原因を作っているのはギルドなのです。グレイヴ殿、ホルムス殿、あなたがたが既得権益を振りかざし、よその商人の新規参入を拒み閉鎖的な市場を支配している。それが自由な競争を阻害しているのではないのですか?」
「なんだと……」
グレイヴは忌々しげに呟き、容赦なくルークを睨みつける。
領主補佐官に対して度が過ぎた態度に、一部の文官は咎めるような視線を向けるが、グレイヴは気にもとめず強面の獅子面に憤怒を滲ませていた。
もし領主選の場でなければ、ルークは縊り殺されていたかもしれない。
それほどの殺気だ。
それでもルークは毅然とした態度で続ける。
「今回の新種出現もそうだ。あれを機に、緊急時の手段として領内財源を市場へ供給した。つまり、五年前と同じ状況です。私たちは、またアビスのおかげで市場に活気を取り戻そうとした。怪物にすがらなければ発展できないなんて、奴らの家畜も同然じゃないですか!? あなたがたは、いつまで家畜でいるつもりですか!?」
ルークが勇気を振り絞り、大声で訴えかける。
その熱量に、文官たちは息をのみ、カドルやグレイヴたちは顔を歪めた。
ある者は、目を瞑って頭上を仰ぎ、ある者は苦しげに頬を引きつらせて俯いている。
つきつけられた残酷な現実に、それぞれが心を揺らしているのだ。
しかしカドルは、勢いにのまれまいと声を荒げて反論してきた。
「言うに事欠いて家畜だと!? 領民をバカにするのもたいがいにしろ、若造がっ! 論点をすり替えるな。ギルドを解体したところで、いったいなにが変わる!?」
「ギルドを解体しただけでは変わりません。ですから、大幅な減税を実行します」
再び場が騒然とする。
ギルド解体の次は減税。
ルークの目指す財政政策の意図を理解出来る者は誰もいなかった。
「は? とち狂ったか? 減税などしては、財政収支は赤字に転落するぞ!」
「そうだそうだ」とカドルに賛同する声が一部の文官から上がる。
「最初は致し方ありません。ですが、そのために蓄えてきた財源ではないですか。ここでこそその真価を発揮できるのです。それをギルドに与えるなど、浪費に等しい」
「酷い言いようだな。だが減税などしてなにがある!?」
「領外の商人を呼びこむ良い宣伝になります」
「なに?」
「今までドラチナスは、アビスという怪物の出現を機に領外の商人を呼び、需要と供給をバランスさせて発展してきました。ですから、今度はアビスの代わりになるキッカケをつくるまでのこと。商売で稼いだ利益から引かれる税が優遇されるんですから、商人としては願ったり叶ったりでしょう?」
「そんな横暴、我らギルドが認めるとお思いかっ!?」
ついにグレイヴが口を挟んできた。
さすがに我慢の限界を迎えたのだろう。
彼の印象からすると、予想よりも遥かに保ったものだ。
しかし領内規定では、領主選に部外者が乱入するのは許されていない。
だからといって、ルークはそれを訴えるつもりもなく、真正面から対峙した。
「だから、ギルドを解体すると言っているのです」
「「「っ!」」」
そこでようやく、場の全員がギルド解体の真意に気付いた。
まずギルドを解体することで、市場の自由競争を活発化させ誰でも参入できるようにする。
そこで、大幅減税を実施することによって、領外の商人をも呼び込んで商売を活性化させるという策だ。
減税によって、一時的に財政収支は赤字になるかもしれないが、上手くいけば新たな商品の流通や需要の創出によって経済が回り、長期的には税収の増加も見込めるかもしれない。
誰も考えつかなかった改革案に、文官たちは唸るしかない。
状況は完全にルークの優位へと傾いていた。
このままいけば、彼に軍配が上がりそうな雰囲気だ。
しかしもちろん、それを許すカドルではない。
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