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第三章 もう一人の半妖
才能が左右する世界
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「さてと……よくやった龍二。ちゃんと鍛錬の成果が出せて俺も安心したよ」
「……本音は?」
「ったく、さっさとKOされてくれれば、もっと早く帰れたのによぉ」
「………………」
「いや冗談だって! 講師にそんな目を向けるんじゃない!」
本当に冗談かどうかは怪しいところだ。
しかし、摸擬戦前の不敵な笑みを考えるに、龍二に期待していたのは間違いないのかもしれない。
時雨は六つの呪具の棒を回収しながら語る。
「これで分かったろ? お前の式神さえあれば、五行を使えなくても十分戦える」
「は、はぁ」
龍二は釈然としない声を漏らす。
しかし「あれは時雨先生が教えるのを面倒くさがったからじゃ?」とは聞けない。
「陰陽五行はしっかり練習しさえすれば、一つか二つくらいなら誰にでも扱えるようになる。でも、式神との契約はそうじゃない」
「そんなに難しいものなんですか?」
「君は式神を継承できたから、その大変さが分からないだろうが、これは本当に才能と素養の差になるんだよ。式神というのはなんだったか、言ってみろ」
「えっと……その人の人間性が現れた姿でしたっけ? 思想や憧れが反映された一種の呪いだって……」
「そうだ。だから、各個人の純粋な呪力や信念、伝承に対する造詣の深さなんかが強い式神を生み出せるかの鍵になる。それが中途半端な奴には、とてもじゃないが式神は生み出せない。だから結局、プロの世界でも一流と呼ばれる陰陽師たちは、強力な式神と契約しているのさ」
「へぇ」
龍二は目を丸くした。
本当に才能がすべてを左右すると言っても過言でない世界。
式神の術を借りて使用することを『式術開放』、式神の装備を借りて使用することを『式装顕現』と言うが、これがないと陰陽師の世界では通用しないということだ。
下手すると、今の塾の生徒のほとんどがその他大勢に埋もれてしまうかもしれない。
「陰陽師は式神と契約できないと三流、契約できただけでは二流。伝承に出てくるような強力な式神を顕現できるような奴しか、神将と呼ばれる位置に辿りつけない。まぁそう考えれば、前神将である鬼屋敷月菜の式神を継いだお前さんは、脈ありかもな」
「神将……」
龍二は息を吞む。
神将十二柱と言えば、国家最強の実力を持つ陰陽師。
確かに雷丸は強力な式神なのかもしれないが、本当にそれが神将に相応しいかと考えると疑問に思う。
そんな龍二の複雑そうな表情から思考を読んだのか、時雨が首を振る。
「まあ、今の雷丸じゃ無理だろうな」
「そう思いますか?」
「彼の顔に貼られているっていう札、そりゃ封印の施された札だ。なんでも、お前さんの母親は、いざとなったときにその力を解き放って死線をくぐり抜けてきたらしい。だから、お前さんがそれを解放できない限りは、まだ半端な式神さ」
「そうだったんですか……」
龍二としては、雷丸の顔の札はただのアクセサリー程度にしか考えていなかった。
しかし雷丸自身もそのことには言及しないので、今は放っておくことにした。
それよりももっと多くの式術と式装を扱えるようにならなければならないからだ。
「さてと、そろそろ野次馬たちも帰った頃だろう。それじゃあまた明日、レクチャーしてやるから、いつもの河川敷の下でな」
「はい、今日はありがとうございました!」
龍二は深く頭を下げると、陰陽庁を去って行った。
「……本音は?」
「ったく、さっさとKOされてくれれば、もっと早く帰れたのによぉ」
「………………」
「いや冗談だって! 講師にそんな目を向けるんじゃない!」
本当に冗談かどうかは怪しいところだ。
しかし、摸擬戦前の不敵な笑みを考えるに、龍二に期待していたのは間違いないのかもしれない。
時雨は六つの呪具の棒を回収しながら語る。
「これで分かったろ? お前の式神さえあれば、五行を使えなくても十分戦える」
「は、はぁ」
龍二は釈然としない声を漏らす。
しかし「あれは時雨先生が教えるのを面倒くさがったからじゃ?」とは聞けない。
「陰陽五行はしっかり練習しさえすれば、一つか二つくらいなら誰にでも扱えるようになる。でも、式神との契約はそうじゃない」
「そんなに難しいものなんですか?」
「君は式神を継承できたから、その大変さが分からないだろうが、これは本当に才能と素養の差になるんだよ。式神というのはなんだったか、言ってみろ」
「えっと……その人の人間性が現れた姿でしたっけ? 思想や憧れが反映された一種の呪いだって……」
「そうだ。だから、各個人の純粋な呪力や信念、伝承に対する造詣の深さなんかが強い式神を生み出せるかの鍵になる。それが中途半端な奴には、とてもじゃないが式神は生み出せない。だから結局、プロの世界でも一流と呼ばれる陰陽師たちは、強力な式神と契約しているのさ」
「へぇ」
龍二は目を丸くした。
本当に才能がすべてを左右すると言っても過言でない世界。
式神の術を借りて使用することを『式術開放』、式神の装備を借りて使用することを『式装顕現』と言うが、これがないと陰陽師の世界では通用しないということだ。
下手すると、今の塾の生徒のほとんどがその他大勢に埋もれてしまうかもしれない。
「陰陽師は式神と契約できないと三流、契約できただけでは二流。伝承に出てくるような強力な式神を顕現できるような奴しか、神将と呼ばれる位置に辿りつけない。まぁそう考えれば、前神将である鬼屋敷月菜の式神を継いだお前さんは、脈ありかもな」
「神将……」
龍二は息を吞む。
神将十二柱と言えば、国家最強の実力を持つ陰陽師。
確かに雷丸は強力な式神なのかもしれないが、本当にそれが神将に相応しいかと考えると疑問に思う。
そんな龍二の複雑そうな表情から思考を読んだのか、時雨が首を振る。
「まあ、今の雷丸じゃ無理だろうな」
「そう思いますか?」
「彼の顔に貼られているっていう札、そりゃ封印の施された札だ。なんでも、お前さんの母親は、いざとなったときにその力を解き放って死線をくぐり抜けてきたらしい。だから、お前さんがそれを解放できない限りは、まだ半端な式神さ」
「そうだったんですか……」
龍二としては、雷丸の顔の札はただのアクセサリー程度にしか考えていなかった。
しかし雷丸自身もそのことには言及しないので、今は放っておくことにした。
それよりももっと多くの式術と式装を扱えるようにならなければならないからだ。
「さてと、そろそろ野次馬たちも帰った頃だろう。それじゃあまた明日、レクチャーしてやるから、いつもの河川敷の下でな」
「はい、今日はありがとうございました!」
龍二は深く頭を下げると、陰陽庁を去って行った。
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