56 / 90
第五章 龍二の百鬼夜行
新たな刺客
しおりを挟む
「――はい、俺も修羅も無事ですよ。今は商店街の路地裏にいます。ええ、『熊』が出たっていう場所です。早く技官を寄越してください」
龍二は手短に告げると、焦りまくし立てる通話相手の声を無視して通話を切る。
横の修羅が怪訝そうに眉をしかめた。
「誰だ?」
「塾の山田講師だ。俺たちが奴と戦っている間、塾が襲撃を受けたらしい」
「なに!? 般若か?」
「詳しくは分からん。けど、それで技官の到着が遅れているらしい」
龍二はため息を吐く。
山田の話では、もう事態は収束したということなので、じきに技官もここへ到着するだろう。
ようやく肩の力が抜ける。
もう戦うこともないだろうと思い、龍二は黒災牙を背の鞘へ納めようとした。
「――式術開放『陰雷』」
「「っ!?」」
突如、仄暗い路地裏に薄紫の雷光が迸る。
遥か遠くで雷鳴が轟きそれが耳に届いたときには、龍二と修羅の間に割って入るように、謎の男が立っていた。
胸元に白銀の細鎖のアクセサリーを着けた、膝より下までを隠す漆黒のロングコートを着て、腰のベルトには刀を帯刀している。
顔には真っ赤な鬼の仮面を着けて素顔を隠し、隙間からのぞく肌はほとんど白い包帯が巻かれて隠れており、左手には黒い手袋、唯一肌を晒している右手は、まぎれもない人のもの。
突然現れた不気味な男に、二人は反応が遅れる。
「強烈な妖力を感じて来てみたが、これはどういうことだ?」
誰に問うでもなく呟き、首なしの死骸へ目を向ける。
「なんだこの体たらくは? 幹部上席が聞いて呆れるな」
同時に、目の前の男から微かな妖気を感じた。
その瞬間、龍二の背筋に冷たいものが這い上がる。
目の前の男は危険。
本能がそう告げていた。
「修羅! 逃げろ!」
叫ぶと同時に、体は勝手に動いていた。
背に納めようとしていた黒災牙を目の前へ振り下ろす。
――キィィィンッ!
しかし男は顔を向けることなく、刀を逆手に抜いて受け止めていた。
両手で柄を握り力を込めるが、ビクともしない。
「なんて力だ……」
龍二は直感する。
目の前の男は桁が違うのだと。
まだ戦意も見せていないというのに、そこにいるだけで息が詰まりそうなほどの覇気を内包していた。
しかしどういうことか。
妖気を感じるのに、先ほどの術は間違いなく式神の術。
時雨の話では、妖力と呪力は互いに打ち消し合うため、同時に扱うことはできない。
修羅が大太刀を振るっている中、陰陽術を使わなかったのはそれが理由だ。
もちろん、それは龍二にも当てはまり、龍血鬼の力を解放している間は使えない。
「なんなんだよっ、コイツは!?」
遅れて修羅が大太刀を振り上げる。
しかしそれを振り下ろす直前、彼の目の前には形代を握った右手が突き出されていた。
それはジリジリと薄紫の稲妻を帯電している。
「――式術開放『紫電』」
――ズバァァァァァンッ!
「ぐわあぁぁぁぁぁっ!」
形代が突如、紫の雷光を盛大に放ち弾けた。
直撃した修羅は弾き飛ばされ、勢い良く壁に激突。
コンクリートを砕いて体をめり込ませると、ガクリと首を垂らし気絶した。
その胸元には黒い焦げ跡が広範囲に広がっている。
「修羅っ!」
龍二は叫ぶが、気をとられた一瞬の隙に、敵は刃を受け流し右の拳を突き出してくる。
慌てず黒災牙の刃を返して防御しようとする。これが見た目通り人の手なら、刃で裂けるはず。それを起点に反撃するつもりだった。
だが敵は、まるで手品のように右手を捻って掌を突き出すと、袖の内側から呪符を出した。
「界」
黒災牙の刀身に触れる直前で障壁が生じ、動きが止まる。
「っ!?」
龍二は目を見開いて固まり、その隙に刀の切っ先が龍二の左脇腹を貫いていた。
「かはっ!」
「……つまらんな」
「くっそぉぉぉっ!」
龍二は口の端から血を垂らしながらも、黒災牙の刀身へ黒炎を集め、障壁ごと薙ぎ払う。
鬼面の男は即座に刀を引き抜き、軽々と跳び退いた。
初めから予想していたかのような軽やかな動き。
元より力押しするつもりはなかったようだ。
龍二は手短に告げると、焦りまくし立てる通話相手の声を無視して通話を切る。
横の修羅が怪訝そうに眉をしかめた。
「誰だ?」
「塾の山田講師だ。俺たちが奴と戦っている間、塾が襲撃を受けたらしい」
「なに!? 般若か?」
「詳しくは分からん。けど、それで技官の到着が遅れているらしい」
龍二はため息を吐く。
山田の話では、もう事態は収束したということなので、じきに技官もここへ到着するだろう。
ようやく肩の力が抜ける。
もう戦うこともないだろうと思い、龍二は黒災牙を背の鞘へ納めようとした。
「――式術開放『陰雷』」
「「っ!?」」
突如、仄暗い路地裏に薄紫の雷光が迸る。
遥か遠くで雷鳴が轟きそれが耳に届いたときには、龍二と修羅の間に割って入るように、謎の男が立っていた。
胸元に白銀の細鎖のアクセサリーを着けた、膝より下までを隠す漆黒のロングコートを着て、腰のベルトには刀を帯刀している。
顔には真っ赤な鬼の仮面を着けて素顔を隠し、隙間からのぞく肌はほとんど白い包帯が巻かれて隠れており、左手には黒い手袋、唯一肌を晒している右手は、まぎれもない人のもの。
突然現れた不気味な男に、二人は反応が遅れる。
「強烈な妖力を感じて来てみたが、これはどういうことだ?」
誰に問うでもなく呟き、首なしの死骸へ目を向ける。
「なんだこの体たらくは? 幹部上席が聞いて呆れるな」
同時に、目の前の男から微かな妖気を感じた。
その瞬間、龍二の背筋に冷たいものが這い上がる。
目の前の男は危険。
本能がそう告げていた。
「修羅! 逃げろ!」
叫ぶと同時に、体は勝手に動いていた。
背に納めようとしていた黒災牙を目の前へ振り下ろす。
――キィィィンッ!
しかし男は顔を向けることなく、刀を逆手に抜いて受け止めていた。
両手で柄を握り力を込めるが、ビクともしない。
「なんて力だ……」
龍二は直感する。
目の前の男は桁が違うのだと。
まだ戦意も見せていないというのに、そこにいるだけで息が詰まりそうなほどの覇気を内包していた。
しかしどういうことか。
妖気を感じるのに、先ほどの術は間違いなく式神の術。
時雨の話では、妖力と呪力は互いに打ち消し合うため、同時に扱うことはできない。
修羅が大太刀を振るっている中、陰陽術を使わなかったのはそれが理由だ。
もちろん、それは龍二にも当てはまり、龍血鬼の力を解放している間は使えない。
「なんなんだよっ、コイツは!?」
遅れて修羅が大太刀を振り上げる。
しかしそれを振り下ろす直前、彼の目の前には形代を握った右手が突き出されていた。
それはジリジリと薄紫の稲妻を帯電している。
「――式術開放『紫電』」
――ズバァァァァァンッ!
「ぐわあぁぁぁぁぁっ!」
形代が突如、紫の雷光を盛大に放ち弾けた。
直撃した修羅は弾き飛ばされ、勢い良く壁に激突。
コンクリートを砕いて体をめり込ませると、ガクリと首を垂らし気絶した。
その胸元には黒い焦げ跡が広範囲に広がっている。
「修羅っ!」
龍二は叫ぶが、気をとられた一瞬の隙に、敵は刃を受け流し右の拳を突き出してくる。
慌てず黒災牙の刃を返して防御しようとする。これが見た目通り人の手なら、刃で裂けるはず。それを起点に反撃するつもりだった。
だが敵は、まるで手品のように右手を捻って掌を突き出すと、袖の内側から呪符を出した。
「界」
黒災牙の刀身に触れる直前で障壁が生じ、動きが止まる。
「っ!?」
龍二は目を見開いて固まり、その隙に刀の切っ先が龍二の左脇腹を貫いていた。
「かはっ!」
「……つまらんな」
「くっそぉぉぉっ!」
龍二は口の端から血を垂らしながらも、黒災牙の刀身へ黒炎を集め、障壁ごと薙ぎ払う。
鬼面の男は即座に刀を引き抜き、軽々と跳び退いた。
初めから予想していたかのような軽やかな動き。
元より力押しするつもりはなかったようだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
48
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる