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27話 魔界からの来訪者

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 ライよ……一体どこに行ってしまったのだ……。
 もしかしたら既にライは……いや、馬鹿なことを考えるな!
 ライは生きているに決まっている。
 死ぬはずがない。

 漆黒の長髪を靡かせる勇者、ハーシュは冒険者達が集まる飲食店を出ると、晴れた空から照らす日に目を細める。
 
 その表情は既に疲れ切っているようなものだった。
 ドラウロ達と過ごすストレスや、国王になら何とかしてもらえるという淡い希望も砕け散り、探し続けるライも見つけることが出来ない。
 疲れ切ってしまうのは当たり前のことだった。

 ここは王都というだけあり、広大な広さを持っていて人の数も多い。
 歩いて探すというのは無謀のような気がするが、これしか方法がないのだから仕方がない。
 
 だが、もしライが生きているとしたら地上に出て来ているはずだ。
 それなら家に戻ってきてもいいはず。
 だが何故戻って来ないのか……。
 戻れない理由がある?
  
 いや……普通に考えて殺されかけた相手がいる所へ戻るはずもないか……。
 なら一体どこに。

 あぁぁ……!

 ハーシュは顔を顰めながら頭を掻き、止まっていた足を進め出した。

 考えれば考えるほど分からなくなる!
 一体どこに行ってしまったんだ、ライ!

 ハーシュは大股で歩いて、周りをキョロキョロと見渡しながら進み続けた。
 
 ライは生きている。 
 探し続けていれば、いつか必ず会える。
 
 ハーシュはそう考えながらも、心の片隅では、もうすでにライは死んでいるかもしれないという考えが芽生えていた。
 その2つの考えがハーシュを苦しめていき、追い詰めていった。

 人は追い詰められれば追い詰められるほど、正しい判断が出来なくなっていく。

 「おい、そこの女」
  
 人通りが少なく、高い建物で日が隠れ影に包まれる道をハーシュは歩いていると、突如どこからか声をかけられた。

 その声の発し方に敵意を感じ、ハーシュはすぐさま剣に手をかける。
 
 「誰だ」

 周りを見渡すが、どこにも人影は見渡らない。
 それなのにハーシュの耳には、すぐ側から話されているように聞こえるのだ。
 
 建物の上か……。
 
 ハーシュはそう考えて、足に力を入れて登ろうした瞬間、目の前に黒いフードを纏った3人の人物が現れた。
 顔を見ることが出来ず、人間どころか男か女かも確認することが出来ない。

 ハーシュは素早く剣を引き抜き、フードを纏う3人に鋭い目で睨みつけた。

 「こいつであってるんですか?」
 「何? 僕が間違ってるって言いたいの?」
 「黙れお前達」
 「はい……」
 「すいません……」

 声からして男2人に女1人か。
 でも肝心な種族がわからない。
 人間なら対処できるだろうが、もしそれ以外だったら……。

 「私に何か用か」

 ハーシュは警戒をさらに強めて剣を強く握る。
 
 「そうだ。私達にはお前が必要だ。闇・の・神・、フネアスよ」
 
 闇の神だと? 
 こいつは一体何を言っているんだ。
 私を襲おうとしている時点で普通ではないと思っていたが、やはり頭もおかしいようだ。

 「む? もしや記憶を失っているのか。だとしたら都合がいい。これからお前を魔界に連れて行く」
 「黙れ。私は闇の神などではないし、ましてやお前に連れて行かれるほど弱くない。お前達みたいな存在で、私を連れて行けると思い上がるなよ」

 圧がかかっている言葉に横の2人は少し警戒するが、中心に立つ1人は警戒するどころか余裕そうな雰囲気でいる。
 
 「フフフフ……。お前こそ思い上がるな。人・間・。お前はただ私達に従えばいいのだ」
 「冗談もそれくらいにしたらどうだ? 私がお前達の言うことに従うと思うか」
 「従わないというのなら、力尽くでねじ伏せるまでだ」
 「やってみろ」

 そう声を発すると同時に、ハーシュは地面を強く蹴りフードを纏う男に接近した。
 通常の生物なら避けるどころか反応することさえ不可能な速さだ。
 
 ハーシュは高速移動をしながら剣を後ろに引き、完全に顔の見えない男の首を捉える。
 
 取った。
 ハーシュは心の中でそう確信して、剣を横に一閃した。
  
 「なんだその遅い動きは。話にならん」
 「は……?」

 
 当たるはずだった剣は、何故か空中だけを斬り、斬るはずだった男はなぜかハーシュの背後に回り込んでいた。
 あの速度で移動し、目で追えないはずの速さで剣を振ったはず。
 そうにも関わらず、この男は傷一つ負うことなく避けたのだ。
 
 ハーシュは後ろから首を掴まれて持ち上げられ、男に向けて剣を後ろに勢いよく突き刺すが、それも片手で受け止められる。
 
 なんなんだこいつは……!
 私の本気の剣を受け止めるなど――。

 「お前の負けだ。闇の神よ」

 男は剣を片手で粉砕すると、ハーシュを高々と持ち上げ地面に思い切り叩き落とした。

 「かはぁ……!」

 全身に今まで味わった事のないほどの激痛が走り、反撃しようにも体を動かすことが出来ない。
 それどころか、既に意識が薄れかかってしまっていた。

 「いいんですか? そんなに傷つけちゃって」
 「構わん。こいつの体がどうなろうとどうでもいい。早く戻るぞ」
 「はい」

 他の2人は意識が消えかかるハーシュを担ぐと、突如地面に開いた穴に入っていった。

 痛い……気持ち悪い……。
 私は判断を誤ってしまった……。
 戦わずに逃げなければ……いけなかった……。
 
 自分に呆れてしまう……。

 暗闇を担がれながら移動するハーシュは、消滅しそうな意識の中、微かに笑顔を浮かべた。

 私がどうなっても……ライを……必ず見つけ出して見せる……。
 もう二度と……失いたくはないから……。



 
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