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尊いあの方の助手を務めるは(侍女視点)

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 正直に申し上げまして、お嬢様は素晴らしいお方にございます。

 隣国に接する辺境伯領。
 お嬢様と出会ったのは、国境くにざかいの森の奥にございました。

 お嬢様はよわい5つ。
 ふっくらバラ色の頬。
 小さなお体が揺れるのに合わせて踊る髪は、瞳と同じ黄金に輝き、わずかな木漏れ日が差すだけの鬱蒼うっそうたる木々の中、まるで光の妖精が気まぐれに舞い降り、ダンスをしているかのようでございました。

 そんな愛らしいお嬢様のお姿に、私は間抜けにも、ぽかんと口を開け、見惚れていたのでございます。

「まあ。あなた、ひとりなの? まいご?」

 異形であった私は、おそらく親に捨てられたのでございましょう。
 物心がついた頃には、森の中、一人で暮らしておりました。

 何も答えない私に、お嬢様はにっこり笑って手を差し伸べられました。

「ねえ、わたくし、おともだちがいないの。おともだちになってくださる?」

 否。と、どうして言えましょう。







 お嬢様のご尊父、辺境伯閣下は大層驚かれました。
 当然にございます。

 身寄りのない、卑しい身なりの、異形の娘。
 辺境伯領ご当主様本邸宅にあげてよい存在ではございません。

 しかし。

「おとうさま、わたくし、おともだちができたの!」

 旦那様はお許しくださったのでございます。





 使用人としての教育を受けながら、お嬢様のお側に置いていただく日々。
 お嬢様は私の森での生活に興味を寄せてくださいました。

「ひとりでなにをたべていたの?」

 幼い私が捕らえられる蛋白源は限られております。

「虫にございます、お嬢様」
「おいしいの?」
「はい。ご馳走にございました」
「まあっ! わたくしにもむしとりをおしえてちょうだい!」

 その日より、お嬢様と私は、森へと足繁く通うこととなりました。





 お嬢様が七つのお誕生日を迎えて少し。
 第三王子殿下との婚約が為りました。

 この醜い姿形では、お嬢様に付き登城することは叶わず。
 お嬢様におかれましては、心細くいらっしゃることでしょう。

 しかしお嬢様は私以外の侍女を寄せることは、許されないのでございます。

「気にすることはないのよ。誰より迅速に、誰より優しく、誰より丁寧にわたくしの面倒を見てくれる、あなたの手と足が好きなのだから」

 嗚呼。
 私の八つの手足。
 蜘蛛りょうしんに捨てられた絡新婦じょろうぐもの私を受け容れてくださったお嬢様。

 お嬢様の助手を務めるのは、これまでも、これからも。

 殿下におかれましては不敬を承知で、また大変心苦しくございますが、このお役目を譲ることはできそうにありません。
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