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第1部
8 様子の変わった婚約者
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「やあ、メアリー。今日もまた一段と可愛いな」
歯の浮くような気障な台詞を口にしたのは、なんとアラン様だ。
あまりの変わりように、アラン様のそっくりさんなのかと疑ってしまう。
「……その気色の悪い口調はなんなのです?何か悪いものでもお口にされました?」
胡乱な眼差しを向けると、アラン様は可笑しそうに声を上げて笑った。
「はは! 酷い言われようだな。ただ俺は、メアリーが可愛いと思ったから、それを素直に口にしただけだ」
……ウィンクまでされたわ。この方、本当にアラン様なのかしら。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
わたしの頬に手を当て、アラン様が顔を覗き込んでくる。
ええ、本当に具合が悪くなりそう。この方は一体どなたなの?
わたしはアラン様の手を引き剥がし、後ろにニ歩後ずさって、アラン様と距離を取る。
「なんでもございません。ただ、もう少し離れてください。距離が近すぎます」
扇子で口元を覆い、アラン様を睨みつけると、アラン様はきょとん、と目を丸くした。
「なぜ? 俺達は婚約者だろう?」
「そうですわね。時限爆弾付きですけど」
先日の意趣返しなの?
アラン様は目を細めて口の端を上げた。嫌だわ、その笑顔。なんだかとても、悪巧みをされているよう。
「恋愛の上澄みだけを楽しみたいんだろう? それなら、まずは俺で試してみろ」
「それは婚約を解消したあとのお話しです」
「婚約解消後に市場に躍り出る前に、俺と恋愛してみろ。いい練習相手になってやる」
「必要ありません」
「何事も市場調査が必要だろ? それに俺にとっては、最後の自由恋愛だ」
「……婚約解消後にいくらでもすればいいでしょう」
アラン様は片眉を上げた。
「貴族に自由恋愛など許されるとでも?」
「ご結婚された後で、皆様いくらでも恋愛されているでしょう」
「あいつらを見て育った俺が、不倫なんかするわけないだろ? 俺は伴侶を尊重するし、大事にするつもりだ」
チクリと胸が痛む。アラン様のお相手になる方は、その通り、きっと大切にされるだろう。
「まあ、相手が愛人を囲いたがるかは知らんが。それは許容するとして、俺は囲わない」
そうでしょうね。きっと、アラン様はお相手の方との距離を縮めようと、良い関係を築こうと真摯に努力なされるだろう。
アラン様は、温かな家庭に憧れていらっしゃるから。
きっとアラン様の誠実な姿は、お相手の頑なな心を次第に溶かしていくに違いない。
アラン様は幸せにならなくてはいけない。
「だからメアリー。俺の最後の恋愛に付き合ってくれ。だめか?」
捨てられた仔犬のような目で縋られてしまえば、断ることなんて出来ない。
だってアラン様の言う通り、アラン様の自由な時間は、爵位を継ぐ、あともう少しの間だけ。
わたしは扇子を口元に当て、溜息をついた。
「……婚姻前の婚約者として、距離を守っていただけるのなら、お付き合いします」
そう言うと、アラン様はパッと花が咲いたように笑った。
「ありがとう。勿論、節度は守る。メアリーを傷つけることはしないし、不名誉な噂が流れるようなこともしない。だが、恋人だからな? 他の男と遊ぶなよ?」
「何を仰っているの。恋人だろうがなかろうが、婚約者のいる身で、他の男性と遊ぶなどありえません」
「まぁ、そうなんだが……。そういうことじゃなくて……」
何か逡巡されたように顎に手を遣ると、アラン様は膝をついた。
まるで流れるようなその仕草は洗練されていて、まさに貴公子そのもの。
アラン様はわたしの手を取った。
「愛してるよ、メアリー。俺には君だけだ。メアリー、君も俺だけを見てくれ」
そしてアラン様は、わたしの手の甲に口づけを落とした。
アラン様はわたしを見上げ、まるで幸せそうに口元を緩め、頬は薄っすら赤く染まっている。
その瞳は熱に浮かされたように潤んでいて、わたしの目を真っ直ぐに見つめてくる。
わたしは思わず扇子で顔を覆い隠した。
なんて酷い人なんだろう。
こんな恋愛ごっこは、耐えられそうにない。
歯の浮くような気障な台詞を口にしたのは、なんとアラン様だ。
あまりの変わりように、アラン様のそっくりさんなのかと疑ってしまう。
「……その気色の悪い口調はなんなのです?何か悪いものでもお口にされました?」
胡乱な眼差しを向けると、アラン様は可笑しそうに声を上げて笑った。
「はは! 酷い言われようだな。ただ俺は、メアリーが可愛いと思ったから、それを素直に口にしただけだ」
……ウィンクまでされたわ。この方、本当にアラン様なのかしら。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
わたしの頬に手を当て、アラン様が顔を覗き込んでくる。
ええ、本当に具合が悪くなりそう。この方は一体どなたなの?
わたしはアラン様の手を引き剥がし、後ろにニ歩後ずさって、アラン様と距離を取る。
「なんでもございません。ただ、もう少し離れてください。距離が近すぎます」
扇子で口元を覆い、アラン様を睨みつけると、アラン様はきょとん、と目を丸くした。
「なぜ? 俺達は婚約者だろう?」
「そうですわね。時限爆弾付きですけど」
先日の意趣返しなの?
アラン様は目を細めて口の端を上げた。嫌だわ、その笑顔。なんだかとても、悪巧みをされているよう。
「恋愛の上澄みだけを楽しみたいんだろう? それなら、まずは俺で試してみろ」
「それは婚約を解消したあとのお話しです」
「婚約解消後に市場に躍り出る前に、俺と恋愛してみろ。いい練習相手になってやる」
「必要ありません」
「何事も市場調査が必要だろ? それに俺にとっては、最後の自由恋愛だ」
「……婚約解消後にいくらでもすればいいでしょう」
アラン様は片眉を上げた。
「貴族に自由恋愛など許されるとでも?」
「ご結婚された後で、皆様いくらでも恋愛されているでしょう」
「あいつらを見て育った俺が、不倫なんかするわけないだろ? 俺は伴侶を尊重するし、大事にするつもりだ」
チクリと胸が痛む。アラン様のお相手になる方は、その通り、きっと大切にされるだろう。
「まあ、相手が愛人を囲いたがるかは知らんが。それは許容するとして、俺は囲わない」
そうでしょうね。きっと、アラン様はお相手の方との距離を縮めようと、良い関係を築こうと真摯に努力なされるだろう。
アラン様は、温かな家庭に憧れていらっしゃるから。
きっとアラン様の誠実な姿は、お相手の頑なな心を次第に溶かしていくに違いない。
アラン様は幸せにならなくてはいけない。
「だからメアリー。俺の最後の恋愛に付き合ってくれ。だめか?」
捨てられた仔犬のような目で縋られてしまえば、断ることなんて出来ない。
だってアラン様の言う通り、アラン様の自由な時間は、爵位を継ぐ、あともう少しの間だけ。
わたしは扇子を口元に当て、溜息をついた。
「……婚姻前の婚約者として、距離を守っていただけるのなら、お付き合いします」
そう言うと、アラン様はパッと花が咲いたように笑った。
「ありがとう。勿論、節度は守る。メアリーを傷つけることはしないし、不名誉な噂が流れるようなこともしない。だが、恋人だからな? 他の男と遊ぶなよ?」
「何を仰っているの。恋人だろうがなかろうが、婚約者のいる身で、他の男性と遊ぶなどありえません」
「まぁ、そうなんだが……。そういうことじゃなくて……」
何か逡巡されたように顎に手を遣ると、アラン様は膝をついた。
まるで流れるようなその仕草は洗練されていて、まさに貴公子そのもの。
アラン様はわたしの手を取った。
「愛してるよ、メアリー。俺には君だけだ。メアリー、君も俺だけを見てくれ」
そしてアラン様は、わたしの手の甲に口づけを落とした。
アラン様はわたしを見上げ、まるで幸せそうに口元を緩め、頬は薄っすら赤く染まっている。
その瞳は熱に浮かされたように潤んでいて、わたしの目を真っ直ぐに見つめてくる。
わたしは思わず扇子で顔を覆い隠した。
なんて酷い人なんだろう。
こんな恋愛ごっこは、耐えられそうにない。
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