【完結】末っ子王子は、他国の亡命王女を一途に恋う

空原海

文字の大きさ
1 / 21
本編

第一話 若きバルドゥールの悩み

 バルドゥールは悩んでいた。

 赤、青、黄。目の前で三原色が陳列していた。
 ためつすがめつ。
 じっくり何度も視線を走らせ、しばし瞑目し妄想の世界に飛び立つ。
 それから「いや、しかし……」などとぶつぶつ。顎に手をやる。

 本当は頭を掻きむしりたいところなのだが、品行方正に育てられたこれまでの教育がそれを彼に許さない。


「参った……。アーニャはどの色が好きなんだろう」


 はあっと物憂げな溜息をつく姿は、妙な色香に溢れている。
 側で様子を眺めていた侍従は、うっかり主の色香に当てられそうになった。
 いかん俺は男色の気はない。と気を取り直し、侍従は気になっていることを主に問う。


「……畏れながら殿下。アンナ王女殿下にお渡しになるご予定はあるのでしょうか……?」


 恐ろしいほどの目力の持ち主であるバルドゥールは、カッ! と目をかっぴらいて侍従に顔を寄せた。
 侍従は目からビームを放つバルドゥールを予測して、既に瞑目している。


「それなんだよ! そうそれ! そもそもそこだよね! 僕は一体いつになったら、アーニャとの再会が叶うんだ……?」


 勢いよく侍従に詰め寄ったかと思うと、最後は項垂れるバルドゥール。
 主が少々気の毒になった侍従は、力強く瞑っていた目を薄っすら開けた。半目ちょい手前くらいまで。


「アンナ王女殿下の女王ご即位のためですからねえ……」


 バルドゥールは侍従の言葉にがっくりと項垂れた。


「うん……。そう……そうなんだよね……」







 ゲルプ王国の第三王子であるバルドゥールは恋をしていた。
 そのお相手はガルボーイ王国の第一王女アンナ。


 アンナは二年前まで、ゲルプ王国王弟であるグリューンドルフ公爵の元に、身を預けていた。
 というのも、ガルボーイ王国国内では反国王派の貴族が反乱を企てており、政情が大変不安定だったのである。
 そこでガルボーイ王国国王は唯一の嫡子である第一王女アンナを、友好国であるゲルプ王国を頼って亡命させることにした。
 生まれたばかりのアンナは、ガルボーイ王国で過ごすこと僅か半年。信頼のおける家臣の手により、ゲルプ王国へ連れられていった。

 アンナは公爵家の養女として屋敷でひっそりと育てられる。
 ガルボーイ王国の第一王女であることは、アンナ本人とゲルプ王国国王夫妻、グリューンドルフ公爵のみが知る事実であった。
 グリューンドルフ公爵令息フルトブラントも、アンナについて遠い親戚の娘を引き取ったのだと教えられることとなる。
 公爵夫妻がアンナをガルボーイ王国風にアーニャ、と呼ぶ理由について、フルトブラントが深く考えることはなかった。

 第三王子バルドゥールに指摘されるまでは。



 フルトブラントの学友であり従弟であり将来の主となるであろう第三王子バルドゥールが、グリューンドルフ公爵王都屋敷に足を運んだときのこと。
 バルドゥールとフルトブラントは王立学園の長期休暇中にあった。
 徐々に公務を課せられるようになっていたバルドゥールは、休息を求め、息詰まる王城から抜け出し、学友フルトブラントの元へ訪ねていた。
 そしてそこで天使に出会う。

 バルドゥール、運命の日であった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

イリス、今度はあなたの味方

さくたろう
恋愛
 20歳で死んでしまったとある彼女は、前世でどハマりした小説、「ローザリアの聖女」の登場人物に生まれ変わってしまっていた。それもなんと、偽の聖女として処刑される予定の不遇令嬢イリスとして。  今度こそ長生きしたいイリスは、ラスボス予定の血の繋がらない兄ディミトリオスと死ぬ運命の両親を守るため、偽の聖女となって処刑される未来を防ぐべく奮闘する。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

【完結】婚約破棄される前に察して距離を置いていたら、幼なじみの第三王子が本気になっていました〜義妹と元婚約者? もう過去の人です〜

井上 佳
恋愛
婚約者に裏切られた侯爵令嬢は、 嘆くことも、復讐に走ることもなかった。 彼女が選んだのは、沈黙と誇り。 だがその姿は、 密かに彼女を想い続けていた第三王子の心を動かす。 「私は、国よりも君を選ぶ」 婚約破棄、王位継承、外交圧力―― すべてを越えて選び取る、正統な幸福。 これは、 強く、静かな恋の物語。 2026/02/23 完結

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。