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本編
第七話 手紙に記された、アーニャの旅路
そして話は冒頭へと戻る。
アンナとフルトブラントは、世界中の伝説や、神話の元となった地を尋ね歩いた。
バルドゥールの元に定期的に届く手紙には、やれノームの森へ辿り着き叡智を授かっただの。ドワーフと(フルトブラントが)酒を飲み交わし、鉱山で富を約束する金剛石を採掘しただの。エルフの里へは入れなかったが、はぐれエルフから乙女の弓矢を貰っただの。人魚の畔で、平和と安寧を齎す歌を教わっただの。旅の仲間が増えただの。
まるでバルドゥールが幼き頃夢見た冒険譚そのものが綴られていた。
そしてこれから行く先は、ドラゴンの住まう活火山だとか。
これまでとは格段に危険度の増す場所。そして相手。
アンナのため。バルドゥールは、ゲルプ王で最も優れた刀匠に、魔剣を急ぎ作らせた。
アンナの細腕でも振るえるような、軽量で刃幅の狭く刃渡りの短い、しかしながら刃を軽くあてただけで、対象を裂くような。鋭利でいて、殺傷能力の高い一品。
金剛石より硬いと言われるドラゴンの鱗をも貫くよう、願い、鍛えられた刀。
アンナが自身に刃を当てても、決して切られぬよう。アンナを主と定めた防御魔法も、施されている。
ちなみにフルトブラントの魔剣も、オマケに拵えてやった。
はてさてアンナの魔剣に纏わせる魔法属性は、火か水か雷か。
それがバルドゥールの悩む赤、青、黄の三色である。
「火だろうが、水だろうが、雷だろうが。ドラゴンにダメージを与えられる程の、膨大な魔力を纏わせることは、さすがに出来ませんからねぇ」
活火山で眠りにつくドラゴンと対峙するには、火か水か雷か。どの属性魔法が最も効果的なのかと尋ねるバルドゥールに、侍従はあっさりと告げた。
どれも変わらない、と。
ドラゴンに僅かな傷でも残すためには、とんでもない出力の魔力を要する。
それほどの魔力をどこから掻き集めるのか、という問題もあるのだが。まずそんな天文学的数値の魔力に耐えうる魔石など、ゲルプ王国のどこを探したって存在しない。
「うん……。利便性とアーニャの好みで選ぶしかないよね……」
バルドゥールは、はぁーっと重い溜息をつく。
活火山という場所からして、やはり水だろうか。
しかし水属性の魔法については、既に神話レベルの能力を獲得しているらしい。それほどまでの力を得た経緯も、理由も正体も。何も知らされていないが。
既に得ているらしい水属性の魔法。その獲得している能力より、比べようもない程に劣るレベルで付加することに、意味はあるのか。
火も雷も、活火山では自然発生しているというのもあるが、そんなものを活火山で振るえば非常に危険であることは明白だ。まあそれを言えば水も同じくだが。
となると、もはやアンナの好きな色、という観点でいいのではないだろうか。
バルドゥールは疲れた頭で、若干投げやりに結論づけた。
「まぁ、どうせ贈れやしないんだけどね」
バルドゥールは乾いた笑いを漏らした。
自嘲の色濃く滲んだ声色に、侍従が痛ましげな視線を寄こす。
バルドゥールは力無く手を振ることで、それを遮った。
もう二年もアンナに会っていない。
手紙だってアンナから送られてくるだけで、バルドゥールからは全く届けられずにいる。
手紙に押された証示印からアンナの居場所を探っても、いつも既に立ち去ったあと。
アンナは立ち去った後でしか、居場所をバルドゥールに伝えない。
バルドゥールがゲルプ国の腕利きの間諜を使ってもアンナの後を追えない。かすりもしない。
侍従が先程指摘した通り、どれ程バルドゥールが悩もうが。この魔剣だってアンナに贈る算段などつかない。
寂しくて、苦しくて、悲しくて、悔しくて、腹立たしくて。どうにかなってしまいそうだ。
だけど、一縷の望みがバルドゥールを励ます。
それは数日前に届いたアンナからの手紙に記された変化だ。
ドラゴンの元へ向かうとあった。
これまでは報告だけしか綴られなかったアンナの手紙。しかしこの手紙には、初めて予定が記されていた。
どこの活火山なのか、全く見当もつかなかったが。
バルドゥールが調べさせたところ、眠れるドラゴンがいるだろう活火山など、この世のどこにもなかった。
とはいえ、この変化が何を意味するのか。
「ドラゴン……、ドラゴンね……」
バルドゥールは、絵本『海を渡ったアーニャ』を頭に思い浮かべる。
アーニャはあの絵本のことを、建国にまつわる逸話だと言っていた。
初代女王の冒険譚。そしてアーニャが辿る道標。
絵本にドラゴンなど出てこなかった。
これほど存在感の強い架空生物なのだ。登場していて気がつかない、なんてことはない。
「どうしてアーニャは、ドラゴンなど探すんだ?」
アンナとフルトブラントは、世界中の伝説や、神話の元となった地を尋ね歩いた。
バルドゥールの元に定期的に届く手紙には、やれノームの森へ辿り着き叡智を授かっただの。ドワーフと(フルトブラントが)酒を飲み交わし、鉱山で富を約束する金剛石を採掘しただの。エルフの里へは入れなかったが、はぐれエルフから乙女の弓矢を貰っただの。人魚の畔で、平和と安寧を齎す歌を教わっただの。旅の仲間が増えただの。
まるでバルドゥールが幼き頃夢見た冒険譚そのものが綴られていた。
そしてこれから行く先は、ドラゴンの住まう活火山だとか。
これまでとは格段に危険度の増す場所。そして相手。
アンナのため。バルドゥールは、ゲルプ王で最も優れた刀匠に、魔剣を急ぎ作らせた。
アンナの細腕でも振るえるような、軽量で刃幅の狭く刃渡りの短い、しかしながら刃を軽くあてただけで、対象を裂くような。鋭利でいて、殺傷能力の高い一品。
金剛石より硬いと言われるドラゴンの鱗をも貫くよう、願い、鍛えられた刀。
アンナが自身に刃を当てても、決して切られぬよう。アンナを主と定めた防御魔法も、施されている。
ちなみにフルトブラントの魔剣も、オマケに拵えてやった。
はてさてアンナの魔剣に纏わせる魔法属性は、火か水か雷か。
それがバルドゥールの悩む赤、青、黄の三色である。
「火だろうが、水だろうが、雷だろうが。ドラゴンにダメージを与えられる程の、膨大な魔力を纏わせることは、さすがに出来ませんからねぇ」
活火山で眠りにつくドラゴンと対峙するには、火か水か雷か。どの属性魔法が最も効果的なのかと尋ねるバルドゥールに、侍従はあっさりと告げた。
どれも変わらない、と。
ドラゴンに僅かな傷でも残すためには、とんでもない出力の魔力を要する。
それほどの魔力をどこから掻き集めるのか、という問題もあるのだが。まずそんな天文学的数値の魔力に耐えうる魔石など、ゲルプ王国のどこを探したって存在しない。
「うん……。利便性とアーニャの好みで選ぶしかないよね……」
バルドゥールは、はぁーっと重い溜息をつく。
活火山という場所からして、やはり水だろうか。
しかし水属性の魔法については、既に神話レベルの能力を獲得しているらしい。それほどまでの力を得た経緯も、理由も正体も。何も知らされていないが。
既に得ているらしい水属性の魔法。その獲得している能力より、比べようもない程に劣るレベルで付加することに、意味はあるのか。
火も雷も、活火山では自然発生しているというのもあるが、そんなものを活火山で振るえば非常に危険であることは明白だ。まあそれを言えば水も同じくだが。
となると、もはやアンナの好きな色、という観点でいいのではないだろうか。
バルドゥールは疲れた頭で、若干投げやりに結論づけた。
「まぁ、どうせ贈れやしないんだけどね」
バルドゥールは乾いた笑いを漏らした。
自嘲の色濃く滲んだ声色に、侍従が痛ましげな視線を寄こす。
バルドゥールは力無く手を振ることで、それを遮った。
もう二年もアンナに会っていない。
手紙だってアンナから送られてくるだけで、バルドゥールからは全く届けられずにいる。
手紙に押された証示印からアンナの居場所を探っても、いつも既に立ち去ったあと。
アンナは立ち去った後でしか、居場所をバルドゥールに伝えない。
バルドゥールがゲルプ国の腕利きの間諜を使ってもアンナの後を追えない。かすりもしない。
侍従が先程指摘した通り、どれ程バルドゥールが悩もうが。この魔剣だってアンナに贈る算段などつかない。
寂しくて、苦しくて、悲しくて、悔しくて、腹立たしくて。どうにかなってしまいそうだ。
だけど、一縷の望みがバルドゥールを励ます。
それは数日前に届いたアンナからの手紙に記された変化だ。
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バルドゥールが調べさせたところ、眠れるドラゴンがいるだろう活火山など、この世のどこにもなかった。
とはいえ、この変化が何を意味するのか。
「ドラゴン……、ドラゴンね……」
バルドゥールは、絵本『海を渡ったアーニャ』を頭に思い浮かべる。
アーニャはあの絵本のことを、建国にまつわる逸話だと言っていた。
初代女王の冒険譚。そしてアーニャが辿る道標。
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