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番外編2 閨講義と猥談と
第五話 やっぱりわからない
「……こーゆー話くらい、もうちっと砕けて話せよぉ」
眉尻を下げるコーエンに、今度ばかりはバルドゥールも全面的に肯定したい。
コーエンがガシガシと頭を掻く。
「エーベル。こっから露骨な話するけど、おまえ部屋出てくか? ここに残るか?」
「はあ? 今更何いってんの? 散々あたしに無駄知識植え付けといて。あたし、バルよりそこらへんの知識ある気がするけど」
「あっそ。じゃいーか」
コーエンがムスッとする。
エーベルは膨れっ面のコーエンに、心が温まった。バカで軽い猥談は所構わずするくせに、本気の話になると途端に気を遣い始める。
「えーとな。閨講義の実技っつーのはさ、詰まるところ、女の生の身体を目で見て、どこに何があるのか知っとけって話なんだよ。指南本だけで事に挑んだどっかのアホが、後ろの穴に挿れやがって、いつまでもガキを授からねぇってんで、女を石女扱いしたとか」
「……そんなことがあったんですか」
バルドゥールはあまりの珍事件に言葉を失う。
「うちの国じゃねーけどな。まあ初夜なんて緊張してるだろ、お互いに。その上女の身体を見るのも初めてで、女の抱き方もよく知らねえってんじゃ、混乱するやつも出てくるさ」
それはそうかもしれない。
バルドゥールは想像してみる。これだけ愛しいアンナとやっと体を重ねられる、となったとき。舞い上がらずにはいられないだろう。
もしかしたら頭が真っ白になるかもしれない。
そんな中で、アンナに失望されないように、とか。アンナを悦ばせられるように、とか。失敗しないように、とか。自身を追い詰めていったとしたら。
……もしかしたら、勃たない、なんて最悪な事態に陥るかもしれない。
「それにさ。初夜の失敗ってのは何かと女のせいにされちゃうわけ。まあバルはお相手が女王様だから? バルの責任で終わるだろうけど」
バルドゥールは神妙に頷く。王侯貴族にとって初夜の失敗は、夫婦生活の今後に暗い影を落としかねないことだ。
「バルはさぁ。実技を避けて回ってたんだろ? だからバルの閨講義はまだしつこく続いてる。本当ならとっくに終わってていい筈だ。こんなもんいつまでも長々やってることじゃねーからな」
「それは同意だな」
リヒャードが重々しく頷いた。
「バルドゥール。お前はどうしたいんだ? 閨講義をいつまでも引き延ばしているなど、外聞も非常に悪い」
好きで引き延ばしているわけではなく逃げ回っていたのだが、事情を知らぬものから見れば、何かと理由をつけて閨講義を続けるバルドゥールは相当な好色に見えるかもしれない。
バルドゥールは顔を青ざめた。
「流されるのではなく、お前の意志で決断しろ」
逃げ回っているのでは駄目だ。
「……終わりにしたいです」
弱弱しく言葉にするも、自分自身、それでいいのだろうか、という疑問と不安が残っている。
このまま初夜を迎えて、失敗せずにいられるだろうか。やはり実技を受けるべきでは?
目を泳がせるバルドゥールにコーエンが「おいおい。何のために俺たちに声かけたんだよー」と呆れ声を出す。
「だっからさあ。バルお前、ゼロか百か。白か黒か。アリかナシか、みたいな考えやめろよなー。全く」
コーエンはバルドゥールの情けない顔を見たあと、眉根を寄せ、口をへの字にしてリヒャードを見た。
「うんにゃ。これは兄貴もわりーな。兄貴の言い方は端的すぎるんだよ」
「……十分に説明したはずだが」
バルドゥールは兄王子達の言い分を理解できない己の不甲斐なさが情けなくなった。
眉尻を下げるコーエンに、今度ばかりはバルドゥールも全面的に肯定したい。
コーエンがガシガシと頭を掻く。
「エーベル。こっから露骨な話するけど、おまえ部屋出てくか? ここに残るか?」
「はあ? 今更何いってんの? 散々あたしに無駄知識植え付けといて。あたし、バルよりそこらへんの知識ある気がするけど」
「あっそ。じゃいーか」
コーエンがムスッとする。
エーベルは膨れっ面のコーエンに、心が温まった。バカで軽い猥談は所構わずするくせに、本気の話になると途端に気を遣い始める。
「えーとな。閨講義の実技っつーのはさ、詰まるところ、女の生の身体を目で見て、どこに何があるのか知っとけって話なんだよ。指南本だけで事に挑んだどっかのアホが、後ろの穴に挿れやがって、いつまでもガキを授からねぇってんで、女を石女扱いしたとか」
「……そんなことがあったんですか」
バルドゥールはあまりの珍事件に言葉を失う。
「うちの国じゃねーけどな。まあ初夜なんて緊張してるだろ、お互いに。その上女の身体を見るのも初めてで、女の抱き方もよく知らねえってんじゃ、混乱するやつも出てくるさ」
それはそうかもしれない。
バルドゥールは想像してみる。これだけ愛しいアンナとやっと体を重ねられる、となったとき。舞い上がらずにはいられないだろう。
もしかしたら頭が真っ白になるかもしれない。
そんな中で、アンナに失望されないように、とか。アンナを悦ばせられるように、とか。失敗しないように、とか。自身を追い詰めていったとしたら。
……もしかしたら、勃たない、なんて最悪な事態に陥るかもしれない。
「それにさ。初夜の失敗ってのは何かと女のせいにされちゃうわけ。まあバルはお相手が女王様だから? バルの責任で終わるだろうけど」
バルドゥールは神妙に頷く。王侯貴族にとって初夜の失敗は、夫婦生活の今後に暗い影を落としかねないことだ。
「バルはさぁ。実技を避けて回ってたんだろ? だからバルの閨講義はまだしつこく続いてる。本当ならとっくに終わってていい筈だ。こんなもんいつまでも長々やってることじゃねーからな」
「それは同意だな」
リヒャードが重々しく頷いた。
「バルドゥール。お前はどうしたいんだ? 閨講義をいつまでも引き延ばしているなど、外聞も非常に悪い」
好きで引き延ばしているわけではなく逃げ回っていたのだが、事情を知らぬものから見れば、何かと理由をつけて閨講義を続けるバルドゥールは相当な好色に見えるかもしれない。
バルドゥールは顔を青ざめた。
「流されるのではなく、お前の意志で決断しろ」
逃げ回っているのでは駄目だ。
「……終わりにしたいです」
弱弱しく言葉にするも、自分自身、それでいいのだろうか、という疑問と不安が残っている。
このまま初夜を迎えて、失敗せずにいられるだろうか。やはり実技を受けるべきでは?
目を泳がせるバルドゥールにコーエンが「おいおい。何のために俺たちに声かけたんだよー」と呆れ声を出す。
「だっからさあ。バルお前、ゼロか百か。白か黒か。アリかナシか、みたいな考えやめろよなー。全く」
コーエンはバルドゥールの情けない顔を見たあと、眉根を寄せ、口をへの字にしてリヒャードを見た。
「うんにゃ。これは兄貴もわりーな。兄貴の言い方は端的すぎるんだよ」
「……十分に説明したはずだが」
バルドゥールは兄王子達の言い分を理解できない己の不甲斐なさが情けなくなった。
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