憤慨

ジョン・グレイディー

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第六章

木端役人の戯言

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 この寮長の名前は今も覚えている。「葉山」という奴だった。体格は良く、禿頭に眼鏡をかけ、張本勲みたいな風貌であった。

 声は大きく、昔の軍隊まがいの意識を堅持しているかのように我が物顔でこの予備校寮を仕切っていた。

 俺の部屋は4階にあり、エレベーターの真前の部屋であった。

 寮内は一応、禁煙・禁酒とされ、予備校寮としての規律を保持するかのように、葉山自筆の箇条文言(早寝早起き、多言雑言無用、危機は好機などなど)が各階層の廊下に貼られていた。

 俺はこんな規律が全くもって大嫌いであった。

 葉山が警察官あがりであることを知り、なるほどと思うようになり、ある意味、俺の武器である反抗心に火が付いていった。

 葉山もなんとなく、俺の存在を意識するようになり、他の寮生には登校時に「頑張って行って来なさい」などと声掛けをするが、俺が出る時はあからさまに視線を外すようになっていった。

 そう。俺は高校時代と同じように、このような上から目線の勘違い野郎は叩き潰したいとした、切望感に駆られ、いつも奴を睨みつけるようになっていたのだ。

 俺は煙草と酒が何よりも好きだった。

 中学生の頃から嗜むようになり、特に煙草なしでは集中出来ない体質となっていた。

 寮内個室でも煙草を吸っていた。

 一応、寮内禁煙ではあったが、昭和の時代でもあり、今ほど煙草に対する厳しさはなく、「出来れば吸わないで下さい」程度の規則力しかなく、多くの寮生も煙草を部屋で吸っていた。

 多くの寮生は、葉山が巡回に来る時だけ、煙草を消すといった従順な姿勢を葉山に見せていたが、俺は違った。

 葉山が巡回に来て、部屋をノックし、点呼する時さえ、煙草を咥えたまま、椅子を回転して、奴の老いぼれた顔を睨みつけてやった。

 奴は高校のボンクラ教員と同様、俺に対して注意する事なく、訝しげな表情を浮かべ、首を振りながらドアを閉めるのが、俺に対する精一杯の抵抗であった。

 よく他の寮生から言われた。
「何故、葉山はお前だけ注意しないんだ?」と

 俺は言った。
「そんな事知るか!葉山に聞いてみろ!」とね。

 そんな日々が続き、予備校が休みの日は俺の部屋が寮友の溜まり場となっていき、部屋で酒盛りをするのが慣わしとなった。

 休日は基本的に寮内の巡回・点呼は不要とされ、一定の自由がもたらされていた。

 地元の寮生は自宅に帰省する者が多く、残った寮生は俺みたいな他県から来た者だけであった。

 葉山ら寮管理人も基本的には休日は休みであり、予備校職員の滞在もなかった。

 ある秋の日曜日、俺の部屋に寮生が集まり、朝から宴会が開かれた。

 俺はパチンコに行くために、部屋だけ提供し、その宴会には参加しなかった。

 事件は起こった。

 俺がパチンコに負け、帰路に着いた夕方5時位、予備校の玄関に2、3台の車が止まっていた。

 俺は何事かあったのかと思いながら、エレベーターに乗り、4階に昇り、エレベーターのドアが開いた瞬間、俺の部屋の前に葉山が立っていた。

 部屋の中には口から血を流し、泣き弱っている寮生が居た。

 葉山は俺を見るなり、こう言った。

「部屋を貸したお前にも責任がある。」と

 俺は葉山に言った。

「主語、主題を言ってから、述語を添えろ!」と

 葉山は真っ赤な顔をし、吃りながら俺にこう言った。

「お前の部屋で寮生が喧嘩をし、1人が怪我をした。私はいつか、このような事態が起こるであろうと思っていた。お前が寮の規則を守ろうとせず、喫煙・飲酒を公然とするから周りはそれを良しと思い違い、こんな事態に発展したのだ。」と

 俺は葉山に言った。

「お前はどうして、俺に注意をしなかったんだい?」と

 葉山は正直に言った。

「お前が正常でないと思ったからだ。注意したら何をされるか分からなかったからな。お前は犯罪者の目をしている。私の警察官時代に培った勘であるのだ。」と

「俺が犯罪者だと?、今、そう言ったな!」と俺が葉山を怒号した。

 葉山は慌てて、「犯罪者とは言ってない。犯罪者の目をしてると言った。」と答えた。

 他の予備校職員が呟いた。

「同じ事だ」と

 その瞬間、俺の拳は葉山の顔面に食い込んでいた。

 葉山の眼鏡は割れて飛び散り、葉山の巨体は後ろの予備校職員に方にぶっ飛んだ。

 葉山は鼻血を垂らしながら、気狂いのように叫び続けた。

「退寮~、退寮~、退寮~」と

 俺は葉山を抱えた予備校職員を一瞥し、寮を後にした。

 俺はその日は寮に戻らず、駅前にある行きつけの24時間喫茶に泊まっていた。

 次の朝、寮友がその喫茶店に来て、こう言った、「お前のお母さんが来てるから、寮に戻ったら?」と

 母親がわざわざ呼び出されたそうであった。

 俺は仕方なく寮に戻ると、寮1階の警備室に母親が立たされ、葉山から何事か厳しい口調で言われている光景が窓越し映った。

 俺は必然とあの幼稚園の万引き事件で警察官に注意されている母親の姿を思い出した。

 その瞬間、何知れぬ「怒り」、「憤怒」が噴出し、「憤慨」ままならない激情が心の底から湧き上がった。

「貴方の子はとんでもない犯罪者になる」

 あの警察官が言った言葉が脳裏を木霊した。

 俺は警備室のドアを開け、葉山に怒鳴った。

「俺の母親にお前は何を言った!答えろ!」と

 葉山はびっくりして後退りした。

 俺は続けた。

「俺の母親に何と言ったか答えろ!」と

 葉山は何も言わない。

 母親が慌てて俺を制し、俺にこう言った。

「もう、この寮出ましょう。皆さんに迷惑かけるからね。」と

 俺は葉山の後ろに居る予備校職員にこう言った。

「おい!葉山が俺の母親に何と言ったか教えろ?」と

 予備校職員は怖気付きながらこう言った。

「退寮して貰いたい。ここは刑務所ではない。犯罪者を収容する所ではない…」と

 母親は苦笑いしながらこう言った。

「この子は犯罪者ではありませんので、こちらから退寮させて頂きますね」と

 俺は葉山を睨み続けていた。

 その次の日、俺は退寮し、一旦、実家に戻った後、他県の違う予備校に入り直し、アパート暮らしを始めた。

 葉山は元警察官のくせ、俺に暴行された被害届は出さなかった。

 いや、出そうとしたが、予備校側から止められたのだ。

 母親が退寮手続をしに、予備校本社に行った時、当予備校の事務長から謝罪を受けたそうだ。

「葉山が御子息に申した言葉は当予備校でも重く受け止め、葉山を処分致しますので、何卒、穏便にと」と退寮を慰留されたそうである。

「犯罪者の目付き」

 どうして警察官、教員は多面的に物が見れないのか?

 一面的な感覚で物事を判断し、公務員特別職として、特権を得ているかのように、人を見下ろして物を言う。

「井の中の蛙大海を知らず」

 拳銃を持っているだけのボンクラ役人、体育会系の脳味噌に皺が無い筋肉馬鹿と国家公務員、県庁、市役所を落ちた落ちこぼれ公務員の集まりが警察である。

 体育会系の筋肉馬鹿と昇進試験を争い、出世欲の亡者となり、点数稼ぎの無駄な鼠取りや捜査を日々行い、内部ガバメントは旧態依然としたコネと忖度に溢れかえり、親の二世が出世する封建社会。

 これが我が国の警察制度の内情である。

「先ずは疑って掛かるべし」

 人間性の尊厳を無視した無能力者が権利もない戯言を平気で宣う。

「お前は犯罪者になる」

「お前は犯罪者の目付きをしている」

 腐れどもが勝手に宣うな!

 俺はお前らを決して許さない!
 
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