社宅

ジョン・グレイディー

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第二十章

待ち構える新たな恐怖

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 12月20日午後6時、仕事が終わり、俺は帰路に着いた。

 いつも通る寂れた商店街のアーケード街

 今日はこのシャッターアーケード街も明るく感じる。

 嫌々ながらもアーケード街を抜け、右折し、琵琶湖へと延びる下り坂に足を向ける。

 街灯は少なく、半分先は真っ暗闇だ。

 通過する車のヘッドライトを頼りに足元に気をつけながら、社宅へと向かう。

 疏水が見えた。

 京阪の踏切も見えた。

 踏切を急いで渡るが、いつものように誰かが脚を掴みやがる。

 それを振り切り、構わず渡り切る。

 コンビニを通り過ぎ、アウシュビッツさながらの社宅門を潜る。

 目の前の暗闇を睨む。

 暗闇の中には比叡の下僕の山裾が、俺を押し返そうと、向かい風を吹き晒している。

 コートをかぶり直し、一歩一歩、5号棟203号室に向かう。

 5号棟に着く。

 セメントの棺桶のような建物

 どの部屋も灯りは着いていなかった。

「明日から部屋の灯りはつけたままにしよう」と後悔しながら、社宅の階段を昇って行く。

 相変わらず、部屋の前の電灯は接触不良により心許無く、点滅を繰り返している。

 部屋ドアの前に立ち尽くす。

 言いようのない恐怖が湧き上がる。

 嫌なイメージがしきりに脳裏に浮かんで来る。

「玄関ドアを開いた瞬間…

   何が目に飛び込んで来るのか?

 何が聴こえるのか?」と

 当然として、誰も居ないはずのこの部屋の中に、既にあの女が待ち構えているのか…と、心が警戒を促し始める。

 考えれば考えるほど、恐怖は高まる。

「対峙しようとしたのはお前じゃないか!」と

 自分を叱咤し、ドアノブに鍵を突っ込み、度胸を決めてノブを回し、力任せにドアを開いた!

 何も見えなかった…

 何も聞こえて来なかった…

 安堵する暇なく、玄関、廊下の電気を急いで着けながら、北部屋に思いを寄せずにリビングに駆け込み、電気とテレビのリモコンを交互に操作する。

 テレビの音量は大にして…

 何も起こってない。

 いきなり灯った部屋の明かりに籠の中のインコは固まっている。

 リビングでコートを脱ぎ、南側の寝室に向かおうとしたが、それはやめて、背広もリビングに脱ぎ捨てた。

「今日からリビングで寝よう。」と思い、

 寝室から布団を運んだ。

 北部屋から無防備に離れた場所に居るよりは、扉一つのリビングの方が対処し易いと思った。

 今日は風呂に入るのはやめにした。

 晩酌を早々に済ませ、布団に入った。

 時刻はまだ午後9時前だ。

 電気を消すかどうか迷ったが、消した。

 非現実的な現象を明かりの中に見るよりは暗闇の方が良さそうに思えた。

 五感はフル活動している。

 いつになったら眠くなるのか…

 何も考えず、早く意識が無くなるのを願うが、聴覚は異常に過敏になっている。

 外を吹き荒む木枯らしが、部屋の窓を容赦なく叩きつける。

「俺の前にも現れるのか?」と

 呪文のように何度もそう唱えながら、拳を硬く握りしめる。

 この待ち構える恐怖が、これから、どれだけ続くのか…

「来るなら早く来い!」

 そお思い、俺は待ち構えていた。
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