独り立ちしたい姉は、令嬢ながらにお金を稼いでた

子猫文学

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第二章 不穏な夕食会

#3 ドリー

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 「カーライルさん!カーライルさんは居るかね?」

 ドリーは階下へ通じる階段を駆け降りながら声を荒げた。年配のドリーだが、長年執事という仕事に従事してきたので、足腰は強かった。

 「あ!ドリーさん、頭に気をつけて!」

 駆け降りてくるドリーを、ちょうど階段下から見かけたアイヴィーが急いで声をかけるが、その甲斐もなしに鈍い音があたりに広がった。ドリーが階段の上に渡っていた梁に頭をぶつけたのだ。

 「あぁ!!」

 その梁は女性が階段を上がったり下がったりする際にはちょうど良い高さだが、背丈の高い男性は必ず一回は頭をぶつける梁だった。

 「大丈夫ですか?痛そうだわ」

 アイヴィーが右手に持っていたシーツを左側に持ち替えて、執事に近づいた。

 「痛いよ」

 ドリーの顔は赤くなっていたが、ぶつけた額も別の赤さを放っていた。

 「アイヴィー、カーライルさんはどこかね?」

 「家政婦長室だと思います」

 アイヴィーはそう言い、再び言葉を継いだ。

 「後で、氷に浸したタオルを持っていきますね」

 「あぁ、ありがとう。アイヴィー」

 そういうと、ドリーはその場を急いで離れようとした。その仕草を見て、アイヴィーも階上への階段に足をかける。

 「ところでアイヴィー、それはどの方のシーツだ?」

 「ウィレミナお嬢様です」

 その言葉に、ドリーは首を傾げた。

 「それはルアの仕事じゃないのかね?それに、シーツの取り替えは、ご家族が朝食をとっている時にする事のはずだ」

 ドリーのその言及に、アイヴィーは両目をドリーからちらりと逸らした。

 「そうなんですけれど、今日ウィレミナお嬢様はお昼寝をなさったんです。ルアにもそう伝えたんですけれど、なかなかシーツを変える気配がなかったので、代わりにわたしが…」

 アイヴィーの態度は自信のなさそうな新人に見えた。フィナデレ・カテドラルに来てから5年は経っているはずだが。

 「そうか、ありがとう。アイヴィー」

 アイヴィーは軽く会釈をして急足で階上に上がっていった。


 ドリーがアイヴィーとわかれて階下の奥の方へ足を運ぶと、家政婦長のカーライルが彼女の仕事部屋から姿を現した。隣に、シンガーさんがいる。

 「ちょっといいかな?カーライルさん。
  シンガーさん、もうすぐご家族の夕食の時間のはずだ。準備はどうなっている?」

 ドリーが並ぶ二人の女性にそれぞれ声をかけると、まず料理長のシンガーが答えた。

 「今、アンと相談していたのさ。大丈夫。料理なら仕込みはしてあるし、それに今はデボラが前菜を作っているんだよ。つまり、キッチンが使えないってこと」

 料理長の話し方には、異国の訛りが少し入っていた。彼女は異国生まれで、料理の才能を見込まれてキャティリィにやってきて、ある子爵家の料理助手になったが、仕えていた子爵が没落し、仕事を失くした。しかしそこに、メリル・シンガーの腕を知っている男爵に出会い、オルヴィス侯爵家のキッチンを紹介されたのだ。

 「なんの相談かね?シンガーさん」

 話始めようと、メリル・シンガーが口を広げると、それをカーライルが片手で制した。

 「わたしから話しておくわ。シンガーさん」

 「おぉ、そうかい。それならわたしは、キッチンに戻るよ」

 シンガーがその場を立ち去るのを見送って、カーライルが口を開いた。

 「それで?どうしたの?ドリーさん」

 「あぁ、とりあえず入ろう…」
 
 そう言ってドリーは目前にあった自分の仕事部屋を開けてカーライルに部屋へ入るよう促した。
 

 
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