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第三章 姉の秘密
真夜中
しおりを挟む「ねぇ、ちょっと話を聞いてくれない?」
そう言って、夜もふける頃にセラフィーヌが隠し扉を使ってウィレミナの部屋に訪れた。
「ディキンソン卿の話?それなら聞くわ」
ウィレミナはその時ちょうど本を開いて熱心に読んでいた。
その本を開いたまま伏せて、姉が一緒にベッドに座れるように、ベッドの中心から端による。
そのベッドはふたりが並んで、ぴったりの幅だった。
「あぁ、まぁそうね」
そう言いながらセラフィーヌはネグリジェを両手で手繰り寄せて、ウィレミナのベッドに入り込んだ。
「もしかしたら、ディキンソン卿と結婚しても良いかもしれないわ」
空を見つめて、一代決心をしたような瞳で、突然つぶやく姉に、妹は目を見張った。
「どういう心境の変化?なんか、嫌そうな感じだったのに」
「わからない。でも良いかもしれないって思ったのよ。今日の夕食会の時に」
姉は優柔不断なのかもしれない、とウィレミナは姉のことが心配になってきた。
「でも、何かが引っかかるのね?」
「まぁね」
セラフィーヌの言葉は曖昧で、沈黙のカーテンが二人の間を覆ってしまったので、ウィレミナはさっきまで読んでいた本の続きを読むことにした。
『アイリス』 アンセルム・コートニー/著
『アイリス』はウィレミナの愛読書である。寄宿女学校修了の2年前、女学校でのルームメイトで、仲が良かった伯爵令嬢マーゴットがウィレミナに送ったものだった。
『アイリス』は中流階級と労働階級の悲恋を描いたもので、身分階級の厳しさが組み込まれたラヴ・ストーリーだった。
“わたし、この『アイリス』は、作品の著者の考え方が反映されていると思うの”
そうマーゴットは言っていた。
そして、ウィレミナが実際に読んでみると、確かに面白い。ラヴ・ストーリーという要素を存分に楽しむことができる上に、実際の社会に疑問を持つようになる。
100年前に国で初めての女王が即位したことで、女性の社会的立ち位置を意識する男性が増え始めたが、一握りだけの者たちの話である。
そんな中『身分差の恋』を主題とした『アイリス』は、労働階級をはじめ、中流階級の少女を魅了した。
中流階級の娘たちは、その作品を本屋で購入し、労働階級の娘たちは貸本屋などで競って借りた。
実は労働階級の娘たちの識字率ははじめ低く、女王の出現で識字率は少し高くなった。
字が読めなかったり、書けない娘たちは、同じ身分で文字の解る娘たちに内容を教えてもらった。
そういった本、『アイリス』を貴族の娘が読むことは珍しく、加えて愛読書にしてしまうウィレミナは、風変わりな子なのかもしれない。
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