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第三章 姉の秘密
フィナデレ・カテドラル
しおりを挟むドアがギィーっと軋んだ音を響かせて開いた。
しかし開いた隙間は、いくら見つめ続けても人間が通れるほど開かなかった。
その狭い隙間から誰かが顔を覗かせるのではないかと、姉妹は同じことを考えていた。
その奥に誰かがいる気もするので、迂闊に声も出せない。
走行するうちに、黒い柔らかい小さな物体がベッドの下から覗いた。
「ディアナ!」
姉が突然声をあげる。
「ディアナだわ。あぁ、びっくりした」
セラフィーヌの声に反応するように二つのくりくりとした目がひょっこりと出てきた。
長毛猫のディアナだった。
「久しぶりね。ディアナ。あなたに会うのは一週間ぶりかしら?」
セラフィーヌが友人に語りかけるように、黒猫に話しかけると、黒猫は無愛想にそっぽを向いて、ウィレミナのお気に入りのひとりソファにうずくまって、眠ってしまった。
赤ん坊の寝息のような、寝息を立てていた。
***
翌日、セラフィーヌは朝食のあとに、ディキンソン卿の相手で、クロンプトン周辺にドライブに行くことになった。
セラフィーヌの父が提案したこともあるが、ディキンソン卿が何気なく誘ったこともある。
セラフィーヌは断りきれなかった。
そうして、ディキンソン卿にエスコートされて、車に乗り込んだ。
天井がないタイプの車で、速度に応じて風が耳元の薄っぺらい髪を揺らした。
社交デビューを済ませているセラフィーヌは、ウィレミナと違って髪を上げなければならない。
『車は髪の乱れが違うって、ジョンが言っていました。それに、ゴシップ雑誌で、車で髪が乱れて面子が丸潰れになったご婦人がいらっしゃそうですから』
そう言いながらホリーが帽子と一緒にして、固く固定した髪型にしてくれたので、髪が解ける心配はなさそうだった。
“あぁもう!本当は今日新作を書く一日にするはずだったのに、予定が一気に崩れたわ”
しばらくディキンソン卿が運転して、一休みしようと、小高い丘に出た。その小高い丘からは村一帯と、その奥に領地の森が見え、森に埋れる形でフィナデレ・カテドラルが見える。
「どうして、あの屋敷はカテドラル(大聖堂)と呼ばれるんですか?」
木陰から景色を見下ろしながらディキンソン卿は聞いた。
「クロンプトンはもともと聖アデルの生誕の地で、どこかの有力者が出資して大聖堂を作ろうとしました…」
「でも、失敗した?」
「当時起こった宗教改革のせいでね」
セラフィーヌは歴史好きで、国の歴史から村の歴史に至るまで片っ端から調べたことがあった。
「宗教改革がキャティリィで始まり、郊外のルクロク系の教会、聖堂、修道院、大聖堂は壊されることになったと…」
ディキンソン卿が短く宗教改革についてまとめる。
この時代になって宗教改革は国史上で、一連の事件のような扱いを受けており、宗教改革の真相を説明できる人は少ない中での、知識である。
「えぇ、フィナデレ・カテドラルはもう最終工事に差し掛かっており、誰も祈らないままに壊されることになりました。そこで、このあたりの地主だった侯爵が自邸と称してカテドラルを買いました」
「おかげで解体せずに済んだんですね」
ディキンソン卿が相槌を打つ。
「侯爵というのは、あなたのご先祖ですか?」
その問いにセラフィーヌはうなづいた。
「えぇ、わたしの血筋を辿れば、彼に行き着きますわ」
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