独り立ちしたい姉は、令嬢ながらにお金を稼いでた

子猫文学

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第五章 社交シーズン(セラフィーヌ)

ルクリア・ネビュラ

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 「いらっしゃい、レディ・セラフィーヌ。紹介するわ、わたしの夫のバーナビーよ」

 そう、にこにこと夫を紹介するのは、ルクリア・ネビュラ、ネビュラ伯爵の長女である。クリーム色のシンプルな、しかしよく目を凝らすと刺繍の華やかさに驚かされるドレスをまとった彼女は、堂々としていて、女主人の威厳を醸し出している。彼女はバーナビーを婿養子に迎え、今では夫婦で領地管理人である。

 「こんばんは、レディ・セラフィーヌ。お噂はかねがね…」

 バーナビーは真っ黒な髪を丁寧にワックスで固定しており、目の窪みが深く、その部分が重い雰囲気を醸し出していた。しかし、その一方で笑顔を絶やさない人であるようで、うまく調和の取れた顔である。

 「すでにヘイウッドは来ているのよ。他の方々も紹介するわ」

 そう言ってルクリアはセラフィーヌをはじめダイニングまで案内してくれた。


 その日の夕食会は10人から20人の小規模のもので、ルクリアやバーナビーの親しい友人を中心に集まっていた。もちろんヘイウッド・モットレイ子爵もいる。そして、数人、セラフィーヌにとってその顔に見覚えのある者も少なからずいた。
 皆ダイニングで、ネビュラ家の執事や下僕が振る舞う食前酒を楽しんでいる。


 「お久しぶりですね、セラフィーヌ嬢」

 一体何度、こう言って声をかけられただろう。
 この三年間の社交シーズンでセラフィーヌが紹介された貴族は多くいるがその半分だって、セラフィーヌは覚えちゃいなかった。

 しかしその中に異色な人物が紛れ込んでいた。

 「あぁ、あなたがセラフィーヌ・オルヴィス嬢なんですね」

 …まぁ!とてもハンサムな方だわ。
 セラフィーヌがそう思って心を奪われてしまうほど、それはハンサムな男性だった。

 「彼は、ヨハン・リヴァヴァルト公子息よ」

 心なしかリヴァヴァルト公子息を紹介するルクリアの声は沈んで聞こえた。

 「はじめまして」

 聞くところによると、リヴァヴァルト公子息は元々旧大陸の旧帝国の将軍家で、旧帝国が崩壊する際、この国へ亡命してきた歴史を持つ貴族だった。

 「彼は卿の位を先日頂いたのよ」

 こうして、セラフィーヌはヨハン・リヴァヴァルト公子息のことを、リヴァヴァルト卿と呼ぶことになった。

 『お願いセラフィーヌ、どうかリヴァヴァルト卿と恋に落ちないでね』

 ルクリアはその後密かにセラフィーヌを呼び出してこう言った。

 「どうしてですか?ルクリアさん」

 しかし、ルクリアが答える前に、その場はリヴァヴァルト卿に見つかってしまった。

 「ルクリア夫人、あなたのミスター・バーナビーがあなたのことを探しておりましたよ」

 そう言ってリヴァヴァルト卿は巧みにルクリアとセラフィーヌの会話に割って入ったのだった。ルクリアは丁寧にお辞儀をして、手元のグラスをそばにいた下僕に渡し、その場を立ち去った。

 話していくうちに、ヨハン・リヴァヴァルト卿はセラフィーヌよりもひとつ年上の20歳で、容姿端麗、身分も申し訳ない人物だと言うことがわかった。普段貴族というものはマナーとして無闇に歳を利かないものだが、リヴァヴァルト卿は、自分の歳を推測してほしいと言わんばかりに、彼が何年生まれなのかを話していた。

 その所作、巧みな会話、相手の令嬢を飽きさせないようにする配慮、それら全てを含めて、今季の花形はこの人で間違いなとセラフィーヌは思う。

 「実は、あなたのことは存じておりました。ノックストーク誌でミセス・エルシーはあなたに注目していらっしゃるようだ。今日実際にあなたに会って、その理由がわかりましたよ」

 リヴァヴァルト卿のその言葉に、セラフィーヌは驚いてしまった。

 「ノックストーク誌に、私の名が載っていたのですか?」

 「おや、知らなかったのですか。今頃、ノックストーク誌を読んだ貴族はあなたの噂に花を咲かせているでしょう」

 リヴァヴァルト卿は依然笑顔を絶やさずに話し続ける。

 「妹がミセス・エルシーの話をしてくれたことはありますが、わたし自身読んだことがないもので、知りませんでした」

 口に出して言わなかったが、セラフィーヌはそこで妙な不快感を覚えた。

 「あまりいい気持ちはしないでしょう。知らない夫人に、名指しされたのですから」

 セラフィーヌの心を読んだかのように、リヴァヴァルト卿は言った。
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