32 / 48
第五章 社交シーズン(セラフィーヌ)
ルクリア・ネビュラ
しおりを挟む「いらっしゃい、レディ・セラフィーヌ。紹介するわ、わたしの夫のバーナビーよ」
そう、にこにこと夫を紹介するのは、ルクリア・ネビュラ、ネビュラ伯爵の長女である。クリーム色のシンプルな、しかしよく目を凝らすと刺繍の華やかさに驚かされるドレスをまとった彼女は、堂々としていて、女主人の威厳を醸し出している。彼女はバーナビーを婿養子に迎え、今では夫婦で領地管理人である。
「こんばんは、レディ・セラフィーヌ。お噂はかねがね…」
バーナビーは真っ黒な髪を丁寧にワックスで固定しており、目の窪みが深く、その部分が重い雰囲気を醸し出していた。しかし、その一方で笑顔を絶やさない人であるようで、うまく調和の取れた顔である。
「すでにヘイウッドは来ているのよ。他の方々も紹介するわ」
そう言ってルクリアはセラフィーヌをはじめダイニングまで案内してくれた。
その日の夕食会は10人から20人の小規模のもので、ルクリアやバーナビーの親しい友人を中心に集まっていた。もちろんヘイウッド・モットレイ子爵もいる。そして、数人、セラフィーヌにとってその顔に見覚えのある者も少なからずいた。
皆ダイニングで、ネビュラ家の執事や下僕が振る舞う食前酒を楽しんでいる。
「お久しぶりですね、セラフィーヌ嬢」
一体何度、こう言って声をかけられただろう。
この三年間の社交シーズンでセラフィーヌが紹介された貴族は多くいるがその半分だって、セラフィーヌは覚えちゃいなかった。
しかしその中に異色な人物が紛れ込んでいた。
「あぁ、あなたがセラフィーヌ・オルヴィス嬢なんですね」
…まぁ!とてもハンサムな方だわ。
セラフィーヌがそう思って心を奪われてしまうほど、それはハンサムな男性だった。
「彼は、ヨハン・リヴァヴァルト公子息よ」
心なしかリヴァヴァルト公子息を紹介するルクリアの声は沈んで聞こえた。
「はじめまして」
聞くところによると、リヴァヴァルト公子息は元々旧大陸の旧帝国の将軍家で、旧帝国が崩壊する際、この国へ亡命してきた歴史を持つ貴族だった。
「彼は卿の位を先日頂いたのよ」
こうして、セラフィーヌはヨハン・リヴァヴァルト公子息のことを、リヴァヴァルト卿と呼ぶことになった。
『お願いセラフィーヌ、どうかリヴァヴァルト卿と恋に落ちないでね』
ルクリアはその後密かにセラフィーヌを呼び出してこう言った。
「どうしてですか?ルクリアさん」
しかし、ルクリアが答える前に、その場はリヴァヴァルト卿に見つかってしまった。
「ルクリア夫人、あなたのミスター・バーナビーがあなたのことを探しておりましたよ」
そう言ってリヴァヴァルト卿は巧みにルクリアとセラフィーヌの会話に割って入ったのだった。ルクリアは丁寧にお辞儀をして、手元のグラスをそばにいた下僕に渡し、その場を立ち去った。
話していくうちに、ヨハン・リヴァヴァルト卿はセラフィーヌよりもひとつ年上の20歳で、容姿端麗、身分も申し訳ない人物だと言うことがわかった。普段貴族というものはマナーとして無闇に歳を利かないものだが、リヴァヴァルト卿は、自分の歳を推測してほしいと言わんばかりに、彼が何年生まれなのかを話していた。
その所作、巧みな会話、相手の令嬢を飽きさせないようにする配慮、それら全てを含めて、今季の花形はこの人で間違いなとセラフィーヌは思う。
「実は、あなたのことは存じておりました。ノックストーク誌でミセス・エルシーはあなたに注目していらっしゃるようだ。今日実際にあなたに会って、その理由がわかりましたよ」
リヴァヴァルト卿のその言葉に、セラフィーヌは驚いてしまった。
「ノックストーク誌に、私の名が載っていたのですか?」
「おや、知らなかったのですか。今頃、ノックストーク誌を読んだ貴族はあなたの噂に花を咲かせているでしょう」
リヴァヴァルト卿は依然笑顔を絶やさずに話し続ける。
「妹がミセス・エルシーの話をしてくれたことはありますが、わたし自身読んだことがないもので、知りませんでした」
口に出して言わなかったが、セラフィーヌはそこで妙な不快感を覚えた。
「あまりいい気持ちはしないでしょう。知らない夫人に、名指しされたのですから」
セラフィーヌの心を読んだかのように、リヴァヴァルト卿は言った。
0
あなたにおすすめの小説
二年間の花嫁
柴田はつみ
恋愛
名門公爵家との政略結婚――それは、彼にとっても、私にとっても期間限定の約束だった。
公爵アランにはすでに将来を誓い合った女性がいる。私はただ、その日までの“仮の妻”でしかない。
二年後、契約が終われば彼の元を去らなければならないと分かっていた。
それでも構わなかった。
たとえ短い時間でも、ずっと想い続けてきた彼のそばにいられるなら――。
けれど、私の知らないところで、アランは密かに策略を巡らせていた。
この結婚は、ただの義務でも慈悲でもない。
彼にとっても、私を手放すつもりなど初めからなかったのだ。
やがて二人の距離は少しずつ近づき、契約という鎖が、甘く熱い絆へと変わっていく。
期限が迫る中、真実の愛がすべてを覆す。
――これは、嘘から始まった恋が、永遠へと変わる物語。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる