JAIL

糸魚川叉梨有

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そんな生活など

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とぼとぼと、道を歩いている。

それだけを聞けば、「部活で疲れたか?」とか「ゲームのし過ぎだ!」など、様々な意見が飛び交うだろう。

ただし、この男の場合は全てが当てはまらない。

そんな学生らしい生活など有りはしないのである。


この男が学校へ到着する。都立寺一高校。各区で名の高い「寺ーGー」とはこのことである。

G。それは各家庭では「ゴキブリ」の略称で使われる。つまりは、その程度の学校なのである。

この男が昇降口へ入る。所々が錆びれている昔の下駄箱に、乱雑に赤色のスプレーで誹謗中傷が並べられている。

黙ってこの男が下駄箱を当てる。中から大量の何かしらが飛び出す。それは男の顔にベットリと張り付いて離れない。それを数秒の格闘の上、引き剥がした。

それは蛙であった。

その辺の田んぼや、茂みの中から拾ってきたのか、男の知っている蛙とは一段と粘着性が増していて、一匹一匹に時間をかけていては遅刻する。そう判断した彼は、蛙数匹を首や服の裾や上靴の表面にひっつけたまま、教室へ向かう。

男が教室の扉を開ける。それまで外に漏れ出るほどに響いていた、賑やかな声が、音が、一瞬にして静まり返る。

男は足早に自分の席へ向かう。その席は、ほとんど古ぼけたあの下駄箱と同じ状況であった。

机には誹謗中傷の文字が羅列し、まるで声を発しているかのようなオーラを放ち、椅子に貼り付けられた画鋲の剣山は、何も座れるような状態ではない。

薄笑いの声が男の耳に届く。やった張本人の笑い声だと思われる。髪を金に染め上げ、耳、舌にピアス。この世の悪人顔でトップ10をつければ、確実にランクインし、優勝も狙えるような顔面、雰囲気をまとっていた。まあ、実際も悪人ではあるが。

キーンコーンカーンコーン………………

チャイムが鳴り響く。同時に扉が開く音がする。

「じゃあ今日も朝礼始めます。」

三十代半ばの女性である。そしてその女が、悪人を締め上げなければならなかった。そんな女である。

「センセー。」

とある男が手を挙げる。それは、先程薄笑いを浮かべていた、悪人顔ランキング優勝候補の男であった。

「優くんがベル着守れてませーん。」

男が言った。そう言った。

「優」とは、蛙を下駄箱に入れられ、机に悪口を書かれ、椅子に画鋲を刺されたこの男の名である。

本来は、本当は、悪人を締め上げなければならない女である。そして、明らかに机のコトバや、椅子の剣山は女からは見えているはずである。

しかしこの世は、どうして善人が締め上げられるのだろうか。

どうしてこの世は、こんなにも不平等なのか。

「美影くん。座りなさい。」

この生活は彼にとって、美影優みかげゆうと言う、一人の善人にとって、


そう。まるで監獄JAILなのである。
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