優しい夜のうた

最終章 優しい夜のうた

新緑の日の希望

あとは目線も合わさないし、会話ももちろんない。その頃、お姉ちゃんは体調が悪くて、いろいろと検査してもらったら、…妊娠していたことが判明した。「あっ」って発した言葉の意味は分からないけれど、もしかしたらお腹の中に宿った新しい生命の力を感じたのかもしれない。母体は、神秘なものだからって、後々先生が話していた。

そのことに自分で気付いているかのように、それからお姉ちゃんは穏やかな表情になって、経過は良好だ。

でも今度は、父親が誰なんだろうという問題が発生したんだ。そして、産ませないほうが子供のためだという意見もあった。

だけど、祐にぃが言った。

「父親が誰だなんて、問題じゃないんだ。俺も父親なんて知らない。萌梨の子供なら…俺の子供として育てる…！」

祐にぃの言葉に、坂井さんや滋さん、雪ねぇは賛成した。他の大人たちは世間体もあるから、と反対したけれど、生まれてくる子どもは自分たちで守る、と祐にぃは決して意見を曲げなかった。

そうして、妊娠10か月を経てお姉ちゃんは帝王切開で出産した。

新緑の彩り溢れる五月の夜。

この世に新しい誕生を迎えたのは、女の子だった。祐にぃは、赤ちゃんの名前を凜《りん》と名付けたんだ。その後の血液型やＤＮＡ検査などから、父親は祐にぃだと判明した。

祐にぃは、そのことに歓喜して、泣いて泣いて、坂井さんと滋と肩を抱き合って喜んだ。

よかったね、祐にぃ。

お姉ちゃん。

神様は、やっぱりいたんだよ。